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スキー コラム 2022年3月3日

「リザルトから読み解く北京五輪」と「W杯総合ランキングの行方」

ブラボー!!モーグル by STEEP
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北京五輪男子モーグルの表彰台。その中央に上がったのはキングズベリーでも堀島でもなかった

エキサイティングな展開が続いた北京五輪があっという間に終わり、W杯終盤戦がスタートする。今回は改めて五輪をプレイバックしつつ、今後のW杯総合ランキングを考察してみたい。

五輪決勝リザルトで分かる、勝負の分かれ目

前半パートでは、北京五輪の結果を踏まえ、“メダルを手にした選手と掴みそこねた選手とではどこに差があったのか?”を、メダリスト決定戦となったファイナル3のリザルトと照らし合わせながら探ってみよう。まずは男子から。

■北京五輪男子モーグル上位6名のスコア
1 ウォルター・ウォルバーグ(SWE)
タイム16.75+エア17.68+ターン48.8=83.23
2 ミカエル・キングズベリー(CAN)
タイム15.01+エア17.57+ターン49.6=82.18
3 堀島行真(JPN)
タイム16.54+エア17.54+ターン47.4=81.48
4 べンジャミン・キャベ(FRA)
タイム15.56+エア16.48+ターン47.4=79.44
5 ニック・ペイジ(USA)
タイム14.14+エア17.16+ターン47.6=78.90
6 クーパー・ウッズ-トパロヴィッチ(AUS)
タイム15.02+エア16.26+ターン47.6=78.88

W杯初表彰台も経験し、五輪でもメダル獲得が期待された杉本(右)だが、まさかのアクシデントもありファイナル2で敗退

北京五輪男子モーグルは、キングズベリーと堀島が金メダルを奪い合う展開が予想された。ところが、ファイナル2をトップで通過した“第3の男”ウォルバーグが、驚異的なアグレッシブターンで2強を圧倒するというドラマが待っていた。キングズベリーは3大会連続メダルとなるも、狙っていたV2はならず。堀島は平昌の原大智に続く日本チーム男子2人目の銅メダリストとなった。他の日本勢は、原が7位、滑走中にポールが折れる悲運に泣いた杉本幸祐が9位、初出場の松田颯は23位に終わった。

キングズベリーと堀島がウォルバーグに勝てなかった理由は?

あらためて、ファイナル3のスコアを眺めて分かることは、ウォルバーグが83点台、キングスベリーが82点台、堀島は81点台と、上位3名はそれほど大きく差が開いたわけではなかったことだ。その1点前後の差がメダルの色を分けたのである。
まず、目立つのがウォルバーグのタイム点だ。恐れを知らないハイピードな滑りは、強い印象を残すともに、16.75点という高得点をゲットした。しかも、ほぼノーミスでターン点も48.9点(2位)。第1エアでフルツイスト、第2エアでコーク1080を繰り出し、エア点は17.68点(1位)。速いだけではなく、総合的に優れていた。そのパフォーマンスは金メダリストに相応しいものだった。
一方、“勝つための手段”を知り尽くしているキングズベリーは、確実にジャッジに評価されるターンを狙ったのだろう。ファイナル3での滑りは、どこも貶すところがないパーフェクトなもので、49.6というトップのターン点となった。しかし、決して速くなかった。なんとタイム点は15.01と6位のウッズ-トパロヴィッチ(15.02)を下回ったのだ。このマイナス要素を、突出したターン点、高いエア点でも埋められることができなかった。キングズベリーが連覇を達成するために足りなかったのはスピードだったのだ。
では、堀島が目標としていた金メダル獲得を果たすために足りなかったものはなにか?ちなみにスピードではない。堀島も積極的に攻め、16.54というウォルバーグに次ぐタイム点を得ているのだ。エア点もトップのキングズベリーとほぼ差がない。ただ、第1エアのフルツイスト後に一瞬バランスを崩した場面をジャッジが見逃さず、ターン点が上の2人に及ばなかったのである。ただし、そのミス後も諦めずに、ミドルセクションを高速ターンで攻めたことが銅メダルにつながったともいえる。

女子は金メダル候補の本命と対抗がメダルを手にできない意外な結果に

続いて女子のファイナル3のスコアも検証してみたい。ここでも、唯一客観的な数字であるタイム点が、結果に大きく響いていることがわかる。

■北京五輪女子モーグル上位6名のスコア
1ジャカラ・アンソニー(AUS)
タイム16.86+エア18.13+ターン48.1=83.09
2ジェイリン・カーフ(USA)
タイム18.28+エア15.10+ターン46.9=80.28
3アナスタシア・スミルノワ(ROC)
タイム16.91+エア14.91+ターン45.9=77.72
4ペリーヌ・ラフォン(FRA)
タイム16.40+エア15.36+ターン45.6=77.36
5川村あんり(JPN)
タイム16.45+エア14.37+ターン46.3=77.12
6オリビア・ジアッシオ(USA)
タイム14.64+エア15.07+ターン45.9=76.61

若くして世界のビッグタイトルを総ナメしているラフォン(中央)だが、五輪連覇は簡単ではなかった

女子は、2強とされたラフォンと川村がメダルを逃すというまさかの事態となった。栄冠を得たのは今季のW杯で安定したポジションをキープしていたアンソニー。その力強い滑りは圧巻だった。そして、銀メダルはビブナンバー14番のカーフ、銅メダルは17番のスミルノワと、誰も予想できないリザルトが残った。
期待された日本勢でファイナル2に進んだのは川村のみで、星野純子が13位、住吉輝紗良が15位、冨高日向子が19位。アメリカ勢は4選手全員がファイナル2に進むなど大きく躍進した。

ラフォンと川村あんりはなぜメダルに届かなかったのか?

男子と異なり、女子はメダリスト3名にそれぞれ3点程度の差がある。アンソニーはターン点で2位のカーフに1点強の差をつけているのにくわえ、エア点が2位だったラフォンに3点弱の差をつけているのが大きい。これが、そのままトータル点の差となったといっても過言ではない。
そんなアンソニーをタイム点で上回ったのがカーフとスミルノワだ。とくにカーフは男子のウォルバーグを連想させる超攻撃的ターンを見せた。彼女のタイム点は唯一の18点台。しかも、ジャッジから高く評価され80点台のターン点を獲得した。一方、銅メダルのスミルノワもアンソニーより速くゴールし、ターン点もまずまず。しかし、エア点が高くなかった。彼女は第1エアで、いまでは珍しいストレートローテーションの技(ヘリコプター)を華麗に見せるが、やはり難度の面で不利だったようだ。
では、ラフォンはメダリストたちに何が及ばなかったのか?結論から先にいえば、彼女もキングズベリー同様に遅かったのだ。エアのランディングでバランスを崩すミスがあり、エア点、ターン点も伸びなかったが、それ以上にタイム点が低いのが致命的だった。なにしろ、16.40点はファイナル3進出者の下から2番目なのだ。
そのラフォンを下回る5位となった川村は、タイム点は上から4番目、ターン点は3番目。得意のターンに辛い点をつけられたのは痛かったが、それ以上に彼女をメダルから遠ざけたのはエア点の低さだ。第1エアでバックフリップ、第2エアでコーク720を見せたが、ランディングで微妙に上半身がブレたことがマイナスしたのか、14.37点と6名のなかで最下位だったのだ。これが痛かった。
ただし、トータル点をみれば、銅メダリストのスミルノワ(77.72点)と、ラフォン(77.36点)と川村(77.12点)は極めて僅差である。つまり、各選手がどこかの局面で、ほんの少しだけ違った判断や対応をすれば、メダリストの顔ぶれは違っていた可能性は高いのである。

堀島、川村は総合トップを狙える! W杯ランキングの行方をチェック

後半パートでは、W杯終盤戦に向けて、男女MO、DMの総合ポイントランキングの行方を再確認したい(データはすべて2022年3月1日現在)。当初予定されていたたざわ湖やロシア、カザフスタンでの大会がキャンセルなり、五輪直前に行われるはずだったイタリアでの大会が3月にスライドされたため、残るは3戦だ。
元々、近年では例のないデュアルモーグル(以下DM)の大会数(6戦)が予定されていた今季。FISはモーグル(以下MO)とDMを合算せずに、2つを分けた総合ランキングを発表している。つまり、男女各2、計4つの総合ランキングが存在するのだ。
結局、3戦がキャンセルとなったため、DMは最終戦も加えた計3戦のみに。MOは全9戦となる予定だ。

■今後のW杯スケジュール(日程は現地時間)
3月12日 ヴァル・マレンコ(イタリア)MO
3月18日 メジェーブ(フランス)MO
3月19日 メジェーブ(フランス)DM

ラフォンと僅差ながら、川村が有利であることに変わりナシ

●女子モーグル総合ポイントTOP3
1 川村あんり(JPN)549点
2 ペリーヌ・ラフォン(FRA)510点
3 ジャカラ・アンソニー(AUS)505点

2戦を残した時点で、4位のオリビア・ジアッシオが310点なので、女子のMO総合トップの可能性を有しているのは上記の3名のみとなる。仮にラフォンが2戦とも優勝した場合(200点獲得で計710点)、川村が2戦とも2位(160点獲得)だとしても計709点となり1点差で及ばない。ポイントが上回っている川村が有利なのは間違いないが、ラフォンにとって、メジェーブ大会はホームアドバンテージがある。北京でジャッジに好印象を与えたアンソニーの猛撃も考えられるので、最後まで目が離せない展開となりそうだ。

アンソニーが有利も、なにがどうなってもおかしくない混戦に

●女子デュアルモーグル総合ポイントTOP3
1 ジャカラ・アンソニー(AUS)160点
2 ペリーヌ・ラフォン(FRA)116点
3 アナスタシア・スミルノワ(RUS)109点

DMはここまで2戦しか行われておらず、女子は日本の柳本理乃も含め5選手が表彰台に上がっているので、ランキング上位のポイント差は大きく開いていない。4位のカイ・オーエンズ(USA)も100点であり、誰がトップとなってもおかしくない状況だ。そのなかで、ただひとり2度表彰台を経験し(3位と優勝)、かつ勢いのあるアンソニーがもっとも有利であることは確かだろう。
DMではMOほどのリザルトを残せてない川村は、63点で10位なので、数字の上ではまだ総合首位の可能性は残してはいるものの、それは他の上位選手が軒並みDNF、DNSとなった場合に限られる。
なお、FISは3月1日に、ウクライナに侵攻したロシアと、それを支援したベラルーシの選手について、主要大会への出場を今シーズン中は認めない旨を発表した。つまり、五輪メダリストでもあるDM3位のスミルノワはチャンスが絶たれるかたちとなりそうだ。

頂点に立つ可能性があるのはキングズベリーと堀島だけ

●男子モーグル総合ポイントTOP3
1 ミカエル・キングズベリー(CAN)572点
2 堀島行真(JPN)560点
3 ウォルター・ウォルバーグ(SWE)345点

北京五輪のメダルを獲得した3名が、現在の男子モーグルの3強であることは間違いない。ただし、すでにW杯MOではウォルバーグに総合首位の可能性はなく、キングズベリーと堀島のいずれかが、その座を得ることになる。両者の差はわずか12点。つまり、優勝(100点)と2位(80点)、3位(60点)との点差より少ない。仮に次のヴァル・マレンコ大会でキングズベリーが優勝した場合、堀島はそこで2位、メジェーブ大会で優勝しても、同大会でキングズベリーが2位になったらポイントで負けてしまう。それだけ、ギリギリの戦いが強いられているのだ。もう一点、現在総合4位が杉本幸祐である点にも着目したい(299点)。杉本には総合トップ3入りの可能性が残されており、堀島以外の日本の男子選手としては歴代最高のポジションにいるのである。

絶対王者のトップはほぼ確定か?

●男子デュアルモーグル総合ポイントTOP3
1 ミカエル・キングズベリー(CAN)200点
2 堀島行真(JPN)140点
3 ウォルター・ウォルバーグ(SWE)98点

男子DMは、MOと同じメンバーがトップ3だが、やはり総合首位をキングズベリーと堀島が争う構図になっている。ただ、残る1戦しかない段階で60点差もあるので、最終戦のファイナルで両者が対決となった場合、仮にそこで堀島が勝っても総合での逆転はありえない。堀島にとって、キングズベリーに60点以上の差をつけることが総合首位の条件となるが、これはなかなか現実的ではないだろう。

堀島(左)と川村(右)が揃っての五輪メダル獲得とはならなかったが、両者はW杯モーグル総合ランキングで頂点を目指せる位置に立っている

北京五輪ではこれまで、W杯で目立った活躍のなかった選手が続々とファイナルに残る現象があった。これは、過去の五輪でもみられる傾向で、五輪を境に新旧交代が一気に進むのが通例になっている。W杯終盤戦では是非ともそうしたニューカマーの名前をチェックしておきたい。

文:STEEP

STEEP

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