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その恩師の開先生で思い出すひとつのエピソードがある。
遠く岩手から長距離ドライブで長野白馬オリンピックシャンツェの駐車場に到着した早朝。選手たちが眠い目をこすりながら直立不動で始まった朝礼。そこで語られる開先生の気迫のアドバイスがおよそ30分。その光景を目の当たりにして、おおと驚いた記憶がある。それは、そもそも岩手南部藩の確かな教えがあると、そういうのはわりと嫌いではない性分なので少し離れて静かに眺めていた。あの選手たちの中に当時の小林潤志郎選手、小林諭果選手と小林陵侑選手がいた。礼儀礼節を育む岩手の選手たち、それがいまや日本チームの最前線に立っている。
イメージ通りに飛んで掴みとった金メダル
遡ること2月6日に男子ノーマルヒル決勝が行われた。
日本のエース小林陵侑は、今季W杯で7勝をあげ通算26勝という良い流れがあった。それもゆうに飛距離150mを超える巨大なラージヒルのジャンプ台ビリンゲンW杯(ドイツ)で優勝を飾り、意気揚々と乗り込んできた五輪シャンツェだ。
しかし、ものすごく疲労感があった。長期間にわたる欧州遠征で、チームは途中帰国もできず、安らぐ場所はスイスやオーストリアでと苦心をしていた。そこでもクロカンスキーに興じて体幹を軽く鍛え直してみたりしてはいたが。その欧州から北京へと直行、ようやくジャンプ台で葛西紀明監督に出会えた。
そこでほっとして少しだけ涙目になった小林陵侑。
葛西「しっかり飛びなさいよ」
小林「はい!」
その一言と、にこやかさに満ちたアイコンタクトだけで、もはや勇気百倍となった。
監督として日本のエースを成長させ支えた葛西紀明
ノーマルヒルの1本目は緩やかな追い風、他の強豪選手らが飛びにくそうにして飛距離を落としていく状況で104.5mを記録、一気に首位に躍り出た。それも7か所の計測ポイントで、追い風0.5m前後に見舞われた中である。
日本の2番手佐藤幸椰(雪印メグミルク)はサッツの遅れで95m、欧州勢では同年代のライバルで優勝候補のリンビク(ノルウェー)は下からの吹き上げの風がまったくみられない中で96.5mと102.5m。さらにW杯個人総合首位にあるガイガー(ドイツ)は96mと99mで優勝圏外へと去った。また、ここにきて勢いあるスロベニアの若手も吹きつける追い風に叩かれて失速、そこでベテランのプレフツ(スロベニア)とフェットナー(オーストリア)が2位と3位で2本目を迎えた。
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