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小林陵侑(土屋ホーム)
この夏、国内試合をすべて取材観戦していた。
特に後半戦では飛ぶたびにロングジャンプの嵐となり、いわば大味な試合となったが、そこは余裕で着地を決めた小林陵侑(土屋ホーム)。今シーズン最終の札幌UHB杯ではテレマークの後に一瞬だけ軽やかなガッツポーズが見られた。
「ここまでは通過点ですから、雪上の入りが重要なんです」
表彰台の中央に昇ってもクールな微笑みのまま、すぐに白い山々、つまりは雪の上を速やかに走るスキーに思いを馳せていた。
いまここで勝つのは当たり前、ならばどのように勝利して、さらに冬への入りを重んじていくか。決して夏場の勝利に甘んじることなく貪欲に次へと進む。あくまで手堅く、そして雪の状況に応じて、様々な対応能力を見せていく、その思いがすでに彼の頭の中にあった。
そのままW杯優勝候補に躍り出る小林陵侑と言い切っても、なんら問題ない。それだけの仕上がりの良さが充分に見て取れた。
札幌UHB杯の表彰台。2位:小林潤志郎(左)、優勝:小林陵侑(中央)、3位:中村直幹(右)
いつも言われることだが、夏に連戦連勝しようとも、サマー用の助走路(アプローチ)を乗りこなそうとも、雪が降ってアプローチが白く覆われるとその滑りは異なり、スキーを走らせる感覚が違ってくるのだ。
たとえ万全を期すアイストラック(氷に近い人工的なアプローチ)であっても気温、雪温、風、冷え込みなどによって、スキースピードやスキーの乗り込む感覚やウェイトのかけ方は異なる。ゆえに夏のシステムに慣れすぎると、冬の始まりに失敗してしまうこともしばしばあるほどスキージャンプは難しい競技といえるのだ。
11月上旬にはジャンプ台に雪がつき、天然雪の上で飛べるようになった北欧のロバニエミ(フィンランド)には、所属チームの海外遠征に出たレジェンド葛西紀明(土屋ホーム)と女子の伊藤有希らが入念にジャンプの本数を重ねていた。そこには少しでも早く雪に慣れたいという純粋な気持ちがあった。
その姿はまさに、いつもあくなき夢を追い求めて突き進む葛西選手そのものだった。
葛西紀明(土屋ホーム)
しかし、今シーズンはW杯開幕の日本チームにその姿はない。ただ、ファンや贔屓の多くの人々は感銘を受けた彼のジャンプを観ようと、入場チケットを購入し今年も大倉山に上がってくる。我らがノリさんの姿をあがめ、心の限り応援するために。
「皆さん、どうぞ見ていてくださいね、130m超えはできています。あとは2本ともに良い風がきてくれればなんです。もう、任せて下さいよ!」とにこやかな表情でそれに応える。
49歳の年齢で130m超えのジャンプでテレマークを決めてくれる。それだけで、人々は、うれしくなり、さらにまた大倉山へと行きたくなる。
シーズン直前に恒例となった北海道神宮での必勝祈願を終えた雪印メグミルクチーム。同チームのエースで今やスノージャパンTOP2のポジションを不動にした佐藤幸椰(雪印メグミルク)は、普段から礼儀正しく好感がもてる選手であるが、日ごろチームの鈴木サービスマンからスキーの話を真摯に聞き、調整や硬軟などのテストを入念に取り組んでいた。その結果W杯の勝利をはじめ、一桁入りから優勝を狙う常連となりえたのだ。
佐藤幸椰(雪印メグミルク)
また安定路線といえども一発を秘める小林潤志郎と、大型選手で伸び盛りを迎えた佐藤慧一は、W杯シーンにおいて順調に一桁入りを狙っている。
佐藤慧一(雪印メグミルク)
そしてベテランで調整力がある伊東大貴は、毎朝美味しいと評判の自社ヨーグルトを欠かさず食し、国内後半戦に合わせて調子を上げ、見事にW杯開幕代表入りを果たした。
もとから自分の世界観を有する選手でマイペースにトレーニングに当たっていた中村直幹(フライングラボラトリー)も徐々に調子を上げおり、そのメンタルコントロール能力はたいしたものである。札幌市内ではラボラトリーのファンとの交流なども実にまめにこなしている。
他にも国内選手でコンチネンタルカップを転戦する二階堂蓮(NSC札幌)、渡部陸太(東京美装)、清水礼留飛(雪印メグミルク)、藤田慎之介(東海大札幌)に期待がかかる。ぜひともコンチ杯を勝ち抜いて新たなW杯の日本選手枠を確保したい。
内に闘志を秘める宮平秀治ヘッドコーチ、極寒のロシア開幕シリーズと北欧フィンランドのクーサモの試合で上位に付け、手応えを得ようと用意周到にチーム戦略を巡らしているだろう。普段は現場で寡黙すぎるくらい冷静に状況判断にあたるだけに、たまには雑談に応じてほしくは思うが、そこは集中力にあふれ独語堪能な宮平コーチの手腕に期待を寄せたい。
海外勢では、ノルウェーのグラネルがサマーグランプリにおいて昨シーズンW杯王者としての強さを如何なく発揮した。団体戦で必ず優勝候補の筆頭に挙げられるノルウェーチームだが、グラネルに加え、大怪我から復帰してきたタンデが入り、髭の巨匠ヨハンソンも健在。さらに若手のリンビク、歴戦で名高いフォルファンとファンネメルなどもおり今シーズンも選手層の厚さは十分だ。
グラネル(ノルウェー)
ドイツは、昨年は無観客試合ながら、地元のオーベルスドルフ世界選手権で金メダルを得た勇者ガイガーを筆頭に気迫あふれるアイゼンビヒラー、ケガから復調してきたフロイントとライエも意気込みは高く、ここに人気のベリンガーが加わってくると、強豪ドイツの復権は可能だ。
若手が伸び悩むベテラン揃いのポーランドは、いぶし銀のクバツキが好調、強者ストッフは夏にマイペースに調整をしていた。そこに個性派のジラが技術的に開眼し、独特な雰囲気を醸し出し今シーズンは表彰台の常連を目指している。
ピオトル・ジラ(ポーランド)
今シーズンのオーストリアは、現在ハイバックが病気療養中にあり、やはりクラフトが中心となる。それはもうじっくりと時間をかけて鍛え上げている。
ロングジャンパーが揃うスロベニアは、若手のラニセクが台頭を見せ、それが初戦と11月のシリーズで上位に入ってくることになると、チームにも勢いが出てくるだろう。
文・岩瀬 孝文
岩瀬 孝文
ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。
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