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スキー コラム 2021年3月12日

世界選手権プレイバック コロナ禍で進化した若手選手が次々にブレイク 負傷欠場後の絶対王者に死角ナシ!

ブラボー!!モーグル by STEEP
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世界選手権の日程がズレたことは、負傷欠場していたキングスベリーにとって幸運だった

フリースタイルの世界選手権は、当初、北京五輪のプレ大会として2月に中国で開催予定だったが、新型コロナウィルスの感染拡大の影響でそれが不可に。調整の結果、日程を変更の上、スキークロスはスウェーデンのイドレ、フリースキー3種目はアメリカ・アスペン、そしてモーグルはW杯最終戦と同じカザフスタンのアルマティと3箇所での分散開催となった。
そして、堀島行真、川村あんりによる日本チームのダブル表彰台も期待されたモーグルでは、意外ともいえる結果が待っていた……。

女子3選手は決勝進出も川村が予選落ち。堀島ら男子選手も全員が予選突破ならず

まず、初日はシングルモーグル(MO)だ。世界選手権では、五輪と同様に予選を2段階で行う形式が採用されている。まず、予選1で全員が滑り、上位9名が予選を突破。そして10位以下の選手による予選2の上位9名も併せた計18名がファイナルを戦う──という仕組みだ。
このシステムでは、2度のチャンスがあるので、実力のある選手が予選落ちしづらいことになる。ところが、優勝も期待された堀島は2度のチャンスをいずれも逃し、まさかの予選敗退となってしまった(19位)。その他の男子選手も、杉本幸祐が27位、小山貴史が30位、藤木豪心は37位と、誰一人ファイナルの枠に入ることができなかった。
「コースが難しく、そこに対応できなかった。そうしたことが五輪1年前のいま起こっていることに焦りがある」
硬い斜面に苦戦し、ミドルセクションでのポジショニングに難があった堀島は、レース後にこのように語っている。
一方、女子は10位で冨高日向子、14位で星野純子、16位で住吉輝紗良と3名がファイナルに駒を進めたが、W杯ランキング総合2位の川村あんりが予選2でDNFとなり、まさかの予選落ちに(20位)。

●世界選手権女子MOファイナル1順位(スーパーファイナル進出者)
1ユリア・ギャリシェバ(KAZ)
2ペリーヌ・ラフォン(RSF)
3アナスタシア・スミルノワ(RSF)
4冨高日向子(JPN)
5ジャカラ・アンソニー(AUS)
6カイ・オーエンズ(USA)

●世界選手権男子MOファイナル1順位(スーパーファイナル進出者)
1ミカエル・キングズベリー(CAN)
2パヴェル・コルマコフ(KAZ)
3ベンジャミン・カベット(FRA)
4ドミトリー・ライヘル(KAZ)
5ニキータ・ノビッキー(RSF)
6ローラン・デュマス(CAN)

ラフォンとキングズベリーはさすがの定位置だが、堀島に限らず上記メンバーに複数のW杯ランキングの上位選手の名前が漏れている点に注目だ。今回の大会斜面はハイスピードを維持して滑るのが難しく、失敗する選手が続出したのだ。一方、W杯が開催されなかった約2ヶ月間、そこで徹底的にトレーニングを積むことができた地元カザフスタン勢は、そのアドバンテージを存分に生かしたといえる。
なお、スミルノワはロシアの選手で、本来なら(RUS)と表記すべきだが、ロシアは過去のオリンピックでの国ぐるみのドーピング問題が影響し、世界選手権には国単位ではなく、「 Russian Ski Federation (ロシアスキー連盟)」としての参加となった。「RSF」というのはその頭文字である。

追撃する新世代を追い落としラフォンがV。4大世界タイトルをすべて獲得の快挙達成

ここからは、スーパーファイナルの流れを追いたい。女子は、今季W杯ディアバレー大会DMで初優勝を果たした16歳のオーエンズ、アンソニー、冨高、スミルノワと4選手連続して、第1エア後のターンでミスがあった。オーエンズは旗門を超えてDNFに。どの選手も勝負をかけてフルアタックすることで、ミドルセクションでコブに負けて破綻するという展開が続いたのだ。残る2選手の時点でトップは79.41点のスミルノワで、アンソニー(77.40点)に続いて冨高は76.45点で3位に残った。
続くラフォンは実力の違いを見せつけた。ミドルセクションでもスピードを出しながらもコブを一つずつ丁寧にクリアしていき、82.11点のハイスコアを獲得。

ギャリシェバ(左)は第2エアのランディングでミスしなければ、ラフォンのグランドスラムを阻んでいたかもしれない

そして、最後に滑るのは2大会連続優勝を狙う地元のギャリシェバだ。今大会は無観客だったが、もし、観客がいれば最も盛り上がる場面だ。彼女は他選手が苦しんだミドルセクションを難なく滑り終えた。しかし、第2エアで十八番であるフロントフリップのランディングでつまり気味になり、減点要素を作ってしまった。得点は79.52点とラフォンに遠く及ばず。
ゴーグルとマスクで表情は分からなかったが、優勝が決まった瞬間、ラフォンは泣いていた。その場にしゃがみこんで感激に浸っていたのだ。それもそのはずで、世界選手権MO優勝は、ラフォンにとって唯一獲っていない世界タイトルだったのだ。五輪金メダル、W杯総合優勝、世界選手権DM優勝に続く今回の栄誉で、ラフォンは、ドナ・ワインブレット(USA)、スティーネ・リサ・ハッテスタッド(NOR)、カーリー・トゥロー(NOR)、ジェニファー・ハイル(CAN)、ハナ・カーニー(USA)に続く女子では史上6人目のグランドスラム達成者となった(トゥローとハイルは、一時期独立したタイトルだったW杯DM総合優勝も果たした5冠王)。なお、冨高は5位に終わった。

復活キングズベリーがさすがの圧勝。世界王者に求められるのは斜面を選ばない対応力だ

男子スーパーファイナルはどうなったか?デュマス、ノビッキー、ライフェルと3選手が滑った時点で、暫定首位は'19季のジュニア世界選手権優勝者である20歳のノビッキーだった(81.34点)。年齢的に世界選手権優勝の最後のチャンスと思われるライフェルは第1エアのランディングでバランスを崩し78.47点とメダルが遠のいた。
ノビッキーの点を抜いたのは、続くカベットだ。勝負をかけた攻撃的ターンがハマり、エアもポテンシャルを出し切った。82.43点でメダルを確定させる。さらにホームアドバンテージを持つカザフスタンのコルマコフもミドルセクションで攻めた。微妙なミスはあったが、ジャッジの評価は相対的に高く82.23点で暫定2位に。メダルが決まったコルマコフは喜びを身体で表現した。
その時、スタートエリアにはキングズベリーが立っていた。コロナ禍の'21シーズン、怪我によるまさかの序盤戦欠場となった絶対王者は広がる斜面を見下ろし、何を思ったのだろうか?数秒後、堀島が大苦戦した難斜面を滑っていたのは、ターン、エア、スピード、全てが欠場前と何も変わらない、いつものキングズベリーだった。スコアは87.36点!
絶対王者は完全復活するとともに、北京五輪金メダルの大本命のポジションにも返り咲いた。

●世界選手権女子モーグルTOP3
1ペリーヌ・ラフォン(FRA)
2 ユリア・ギャリシェバ(KAZ)
3 アナスタシア・スミルノワ(RSF)

●世界選手権男子モーグルTOP3
1ミカエル・キングズベリー(CAN)
2 ベンジャミン・カベット(FRA)
3 パヴェル・コルマコフ(KAZ)

DM女子表彰台は全員が21世紀生まれ。ポストラフォン争いが今後のテーマに

大会2日目、DMのファイナルラウンド(ベスト16以上)に進んだ日本勢は、女子が冨高と住吉、男子は堀島のみ。川村はエントリーしていたが残念ながらDNSとなった。
まず、女子の流れをトレースしよう。エイトファイナル(ベスト16)では、日本勢が明暗を分けた。ラフォンと当たった冨高は果敢に攻めたが完敗。住吉は勢いのあるオーエンズを下してベスト8に進んだ。
そして、クォーターファイナル(ベスト8)で大きな波乱があった。ラフォンの敗北だ。17歳のヴィクトリア・ラザレンコ(W杯最高位6位)と対戦した彼女は、ミドルセクション後半にスピードを上げたことでアンバランスな状態で第2エアに入ることになり、空中で技を出すことができなかったのだ。これで、誰が優勝するか分からなくなった。住吉は今季W杯デビューの15歳、アナスタシヤ・ゴロドボ(RNF)に敗れた。また、その時点までに表彰台の常連選手が続々と姿を消していた。

スミルノワ(右)が初めてW杯表彰台に立ったのは’20季のトレンブラント大会でのこと(3位)。今季の開幕戦でも3位だった

セミファイナルは、ラザレンコとソフィアン・ギャニョン(CAN)、スミルノワとゴロドボという、あまりに意外すぎるカードに。ギャニョンは'19シーズンに8位を2度記録した実績があるが、この2シーズンはW杯欠場が続いていた21歳の選手だ。その想定外対決の勝利者は、ほぼブレない落ち着いたターンを見せたラザレンコとスノルノワ……つまり、ロシアのワンツーフィニッシュが決まったのである。スモールファイナルでギャニョンに勝利したボルドゴが3位。地元勢の連日メダル獲得となった。
若いロシア選手同士のビッグファイナルでは、ラザレンコは2度のエア後にミスがあり、スノルノワが19歳の初優勝を決めた。そのパフォーマンスは、“ワールドチャンピオン”の名に相応しいものだった。ちなみに、ロシアの選手が世界タイトルを獲得するのは、’95シーズンにW杯総合優勝の直後に事故死した“伝説の鉄人”セルゲイ・シュプレツォフ以来、四半世紀ぶりのことになる。
スミルノワは2002年、ラザレンコは2003年、ボルドゴは2005年……表彰台に立ったのは全員が21世紀生まれの選手だった。おそらくこの大会は「あの世界選手権が時代の変わり目だった」とのちのモーグル界で語られることになるだろう。この日のラフォンの失敗はたまたまで、彼女の力が衰えたとは思えないが、北京五輪に向けて女子モーグルは次のフェイズに突入したことだけは間違いない。この3名に2004年生まれの川村あんり、カイ・オーエンズらが“ポストラフォン”を争う展開は、確実に女子モーグルのコンペシーンを面白くする!

絶対王者が2冠。未だ全盛期であることを証明、堀島に突きつけられた厳しい現実

一方、男子DMは、「堀島がキングズベリーを倒し、前日の雪辱を果たせるか?」というのが大きな見どころだった。そして、両者の対決はセミファイナルで実現した。勝てば優勝の可能性が大きく広がる堀島は攻めに攻めた。ところが、ミドルセクションでスピードコントロールができずに大転倒で万事休す。
もう一方のブロックでは、実力者のマット・グラハム(AUS)と、直近のW杯ディアバレー大会DMで5位に入ったブレンダン・ケリー(CAN)が戦い、グラハムが圧倒した。
男子ビッグファイナルは、キングズベリーとグラハム、つまり平昌五輪の金メダリストと銀メダリストの対決となった。このバトルは、ボトムセクションまでは甲乙つけがたい展開であり、世界選手権の決勝らしいハイレベルな内容だった。ところが、ゴール直前でグラハムがまさかの転倒。あと一歩のところで栄冠を逃してしまう。
一方、スモールファイナルでは堀島が勝利し3位を手にした。堀島はレース後に、「昨日の成績だけでは(日本に)帰れないという気持ちがあった。DMの3位になったことで、お土産ができたのかなと思っている」といった旨の発言をしている。それは、彼が重いプレッシャーのなかで戦っていることを端的に表しているといえるだろう。
今回の世界選手権の結果は、堀島が勝たなければならない相手の怪物ぶりを改めて実感させられるものだった。W杯総合優勝、五輪金メダルという目標達成に向けて、堀島の過酷な戦いは続いていく……。
なお3月14日に同じくアルマティで開催のW杯最終戦の結果を踏まえた、今シーズンの総括は次回の当コラムでお届けしたい。

完成度を上げた1440で勝負をかける構想だった堀島は、従来よりも短い板で世界選手権に挑んでいた。DMの結果で希望を五輪につないだ

●世界選手権女子デュアルモーグルTOP3
1 アナススタシア・スミルノワ(RSF)
2 ヴィクトリア・ラザレンコ(RSF)
3 アナスタシヤ・ゴロドボ(KAZ)

●世界選手権男子デュアルモーグルTOP3
1 ミカエル・キングズベリー(CAN)
2 マット・グラハム(AUS)
3 堀島行真(JPN)

文:Bravoski(ブラボースキー)

STEEP

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