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スキー コラム 2020年3月30日

『W杯中止の憂き目』

鳥人たちの賛歌 W杯スキージャンプ by 岩瀬 孝文
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いよいよW杯個人総合優勝争いが佳境に入った。
2月上旬に行われた札幌W杯でイエロービブを奪回して好調の波に乗ったクラフト(オーストリア)か、とみに安定を見せるガイガー(ドイツ)なのか、また連戦の疲労に包まれながら一気に逆転を狙うクバツキ(ポーランド)なのか、彼らによるしのぎの削り合いが続いた。
その中で小林陵侑(土屋ホーム)の連覇はポイント差からみて、ほぼなくなりかけたが、それでも彼はシーズン後半に手直しを加えながら抜群の集中力をみせていった。

そして、クラフトが勝利したバドミッテンドルフ(オーストリア)のフライングW杯を経て、3月のRAW AIR(ロウエア)が始まった。
RAW AIRは、ノルウェーの名門ジャンプ台オスロ・ホルメンコーレン、1994五輪開催地リレハンメル、北極海に面した港湾都市トロンハイムの個人戦ラージヒル3試合と、最後にオスロの南西部に位置する巨大なフライング台ビケルスンの団体戦と個人戦を加え、その予選を含むポイントで優勝が決まるものだ。
まだ歴史は浅いが、いまやシーズンファイナルを飾る一大ジャンプシリーズと成り得ている。

ここでは、普段から飛び慣れて風の加減すらわかる地元ノルウェー勢が上位をしめることが度々。今回も地元大観衆の声援を受けて髭のヨハンソン、フォルファン、新進気鋭のリンビクらがひとけた順位にどんどんと食い込んでいく。
初戦のホルメンコーレンでは多湿な霧と着地地点に溶けだした雪で水が浮いてキャンセルされ、その代替試合はリレハンメルとなった。
試合終了後には選手とスタッフが揃って夜行の特急電車で、北の果てトロンハイムへと移動していく。 ただ、ここで急転直下。
アジアからヨーロッパ全土に広がっていった大きな災いにより、トロンハイム予選後から試合当日にW杯中止の決定がなされた。それと同時にイタリアとの国境から5~6㎞の距離にあるプラニツァ(スロベニア)のフライング世界選手権も無観客試合の予定がそのまま中止となった。

「残念ですね。後半戦にかけてようやく調子が上がってきていたので、なんとか飛びたかったです。でも、こればかりはしょうがないのでしょうね」
ロウエアに入りW杯個人総合第3位に上昇した小林陵は、いくらか悔しさをにじませたものの、すぐ日本に帰国できることから、ほっとした表情を見せた。

連覇の偉業は達成できなかたものの、今季W杯個人総合3位。昨年総合優勝の実力がフロックでないことを示した小林陵侑。

例年のフライング大会プラニツァW杯では予選後に記者仲間達と張り切って国境を車で越え、イタリアのタルビジオ市へと美味なイタリアン飯を食べに行くのが楽しみであったが、まったくそれどころではなく混とんとした状況になった。

加えて国内では早々と3月中の試合がすべて中止となって、そのまま今シーズンを終えてしまったのだ。 札幌で伝統あふれる宮様大会で表彰台にのぼり、W杯復帰への足掛かりにしたかった葛西紀明(土屋ホーム)は、無念さとともに心の中にひとしきりやるせなさが残った。

札幌W杯での葛西紀明は静かにスタートへ上がっていった。

日本からノルウェーのビケルスンへフライングW杯を観戦に行こうとした熱心なジャンプファンはぎりぎりでそのフライトと宿泊をキャンセル、そういう決断は正解となった。

熱心な応援で選手をあと押しする札幌ノイズ応援団

また、小林陵侑の番記者も早々とトロンハイムから引き上げ、ドイツ経由で万全を期しながらの帰国となった。もはや、試合地のノルウェーやフィンランドでも徐々にウイルスへの危機が始まりかけ、現在の世界情勢からみても、やむを得ない事態となった今シーズンのW杯であった。


文・写真/岩瀬孝文

岩瀬 孝文

ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。

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