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しかし、その後はじりじりと後退していった。
では、なぜ彼は勝てなかったのだろうか。
続く3戦目は、昨年2月に行われたゼーフェルド世界選手権のときと同じインスブルック(オーストリア)では、そこまで力を入れなくてもとサッツ※1における緊張と力みに加えて、猛烈な風にあたっていた。
その不可解な風について細部なことを明かそう。それはジャンプ台のカメラマンステップに立って撮影をしていれば如実にわかる。
しかも普通の降雪であればまだ良くて、雪が少ない冬に温暖気味な湿り雪まみれとなると、乱れた気流が起きてより複雑な風となる。
詳しく言うとサッツから見て、斜め背後から左落としの風がきて、それがすり鉢型ランディング巻き上げてなんと右スキーにあたってくる。そうなると自然に右方向に流されていき、スキーに乗っていくのが難しさを増す。いわば風向きは左スキーと右スキーとで全く異質になってくるのだから難解この上ない。
とくにインスブルックのすり鉢型ボトムを渦巻いて返ってくる風が曲者だった。
そして安定したジャンプ技術を有するクバツキ(ポーランド)がサッツ後に右方向に流されていきながらも、うまく返りの風をつかんで最後にすうっと飛距離を伸ばしていた。
小林陵はそのまるで悪夢のような乱れた風にしてやられて、驚きの14位と奈落の底に沈んでいったのである。
いや、でも、あのジャンプ週間4連勝のスヴァン・ハンナバルド(ドイツ)と当時この場で表彰台中央を争った宮平秀治(現JPNヘッドコーチ)は、充分にそれを克服して表彰台に上がったのだから素晴らしかった。
後半の2戦において優勝候補のクラフト(オーストリア)は大観衆に見守られる中、地元で勝たねばならぬとの重圧をかけられてしまい、それは昨年2月の世界選手権とまったく同じ状況であった。そうなると心優しいクラフトはその圧力に飲み込まれてしまった。
その反動なのか来日する札幌W杯では気楽なまま、気迫いちばん完勝してしまうわけで、それがなんともいじらしい。
もちろん好調の波に乗り地元ザコパネで表彰台独占を狙うであろう名将アダム・マリシュPOLチームコーディネーターひきいる好調ポーランドがいよいよ飛ばしてくる。
思うに、ゼーフェルド世界選手権ノーマルヒルで幸運ともいえる金メダルを獲得したクバツキこそ運に恵まれた選手に他ならない。今回は2本ともに140m超えを果たして圧勝、ジャンプ週間個人総合優勝を遂げたビショフスホーフェンであった。
また強豪のドイツは、新コーチのホルンガッヒャーによる指導が初年度であり、そこがウイークポイントになっていた。前年好調のアイゼンビヒラーは故障もあってか鳴かず飛ばず、中堅のフライタクは調子を崩してコンチ杯へと、さらに若手ベリンガーは調整不足が長引いている。そこでガイガーをエースに打ち立てどうにか面目を保った。
しかし2戦目ガルミッシュ・パルテンキルヘン(ドイツ)では、ガイガーに勝たせたいと願うドイツの有形無形な圧力があり、結局は新鋭のリンビク(ノルウェー)に優勝をさらわれていくあたりはなんともはや。そのときに、なんと期待の小林潤志郎(雪印メグミルク)がスーツ失格の憂き目にあう。これをものすごくうがった見識でいえば日本チームの動揺を誘い、はたまた兄の潤志郎を心底慕っている陵侑のメンタルに大きな影響を与えるための巧妙な手段とまで想定されて。
ただ、そういうことはままあること。それがW杯スキージャンプにおけるいわば醍醐味でもあり、これらに打ち勝ってこそ超一流ジャンパーの証明なのである。
兄・小林潤志郎(右)と弟・小林陵侑(左)
小林陵の金メダルが期待された前年のゼーフェルド世界選手権でも、今回のジャンプ週間においても強者カサイの姿がJPNチームになかった。これであれば他国強豪チームは、若さあふれる日本に圧力をかけてやれとなる。そういうシーンがいとも簡単に想像できた。
レジェンドの復活はなるのか!?
また独立独歩なジャンプ選手活動を始めた中村直幹(東海大札幌SC)とコンチ杯から実力で這い上がってきた竹内択(チームTAKU)の躍動ジャンプも見応えがある。
若手の台頭が著しい今季の宮平ジャパン。佐藤幸椰(右)、小林陵侑(中)、佐藤慧一(左)
さあ、どこまでも突き進もう信頼の宮平ジャパン。
※1 サッツ=スキージャンプ競技の踏み切り。
文:岩瀬 孝文
岩瀬 孝文
ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。
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