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この夏場の名勝負は、大倉山ラージヒルでの小林兄弟対決だった。
岩手松尾八幡平に育った小林ファミリー長兄の小林潤志郎が「弟に負けてはいられない」とばかりに果敢に飛ばして、全日本選手権NHに続いてUHB杯でも逆転優勝した。表彰台で二男の小林陵侑は笑顔を見せつつ猛烈に悔しがった。
前年、新鋭ながらW杯個人総合優勝を遂げて一躍、日本チームのトップに躍り出た小林陵侑は今季、じつに静かに発進していた。
「まずは1勝です。それを積み重ねていけば、また良いものが見えてくるのかなって」と日頃から謙虚な発言に終始していた。
前年の覇者がそんな弱気でどうする! という元気づける話も聞こえてきそうだが、いや、これこそが勝っておごらずの基本スタンスで、そのもの彼らしい王道である。 それは欧州のライバルたちに敬意を表しながら、また、そう簡単には2連覇や3連覇でき得ないのを重々承知しているからだった。
W杯スキージャンプは毎試合、風の強さや方向が変わり、その土地の風土もしかり。また地元に優位にもとれる試合運営などもあり、ありとあらゆる条件が揃わないことには連戦連勝なんて、いやいやどうしてという現実がある。
さらにヨーロッパの有力チームと強豪選手達は、前年チャンピオンである小林陵のジャンプ技術を筆頭に日本選手のメンタルに至るまで綿密に分析して、その長所をいかんなく自チームに注入しているからだ。
さらにはマテリアルにおける先見性までも。
具体的に言うと、このサマー時期にみられた新しいジャンプスーツだ。 緑色のスーツ生地の使用であり日本選手においても男女幾名かは、おもに背面に使用している。いわば空気を逃さないで内部に滞留させる絶妙な雰囲気もあるのだが、果たしてそれがルールの基準内なのかどうかなど、その戦略面での闘いがすでに始まっているのだった。
W杯を連戦連勝で突き進み、あっさりと連覇ができればそれほど楽なことはない。 「わたしのW杯17勝が陵侑に抜かれるかって? どうでしょう、まだまだイケますよ(笑)」
欧州に旅立つ直前に日本の重鎮レジェンドカサイ(カミカゼカサイ)がにこやかに応じた。
いまW杯出場で31シーズンを迎えた葛西紀明はヨーロッパでの評価が抜群に高い。
夏に故障した腰をベテラン独自の意地と気概で克服、秋には見事に復調を果たしていた。
だからである。シーズンを通して熱意を込めて“宮平ジャパン”を応援していきたい。
宮平秀治ヘッドコーチは欧州で長らくアシスタントコーチを勤め、その間に努力しながらドイツ語の習得にあたり、いまやコーチ会議ではその堪能な語学で主張をはっきりと述べることができる。それも試合会場のコーチボックスにおいて他国コーチから一目を置かれる存在なのだから素晴らしい。
今シーズンW杯開幕戦ビスワ(ポーランド)からの遠征メンバーは小林陵侑(土屋ホーム)、小林潤志郎(雪印メグミルク)、佐藤幸椰(雪印メグミルク)、伊東大貴(雪印メグミルク)、葛西紀明(土屋ホーム)、中村直幹(東海大札幌SC)の6名。
さしあたり日本チームの目標は、現在6枠のW杯出場枠を国枠最大の7まで伸ばすこと。
強者揃いのポーランドにまとまりあるドイツ、飛ばし屋ノルウェーと伝統あふれるオーストリアなどに肉薄してW杯を盛り上げていく。もちろん王者小林陵侑を中心にして。
それにはコンチネンタル杯に派遣される佐藤慧一(雪印メグミルク)、竹内択(飯山市SC)、栃本翔平(雪印メグミルク)、岩佐勇研(東京美装)、伊藤謙司郎(雪印メグミルク)の頑張りとそこからの昇格に期待しよう。
チーム力を底上げしていってこそ世界中に名が轟く『最強ジャパン』が再度、見えてくる。
それも小林陵侑がW杯のトップシーンをしっかりと走っているうちに。
冬の夜長、J SPORTSのライブ中継を観ながら、心の限り声援を送って夢を追いたい。
文:岩瀬 孝文
岩瀬 孝文
ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。
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