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伝統あふれる欧州ジャンプ週間の4試合を制するのは至難の業である。
かつて五輪金メダリストの船木和喜(FITスキー)も開幕から順調に3連勝で進んだ最終戦ビショフスホーフェン(オーストリア)で王手をかけたが、湿雪の重い雪になりアプローチでスピードが出せないまま8位と失速、その4連勝を逃していた。
その後にはヤンネ・アホネン(フィンランド)やスバン・ハンナバルド(ドイツ)、アダム・マリシュ(ポーランド)、グレゴア・シュリーレンツアウナー(オーストリア)などが勇躍、前季のカミル・ストッフ(ポーランド)が、ハナハナハニーとして人気を博したハンナバルド以来の4連勝を遂げて個人総合優勝を飾っていた。
そして前年にW杯個人総合優勝を遂げたストッフとはいえ、2年連続の4連勝は難しさにまみれていた。それほどジャンプ競技とは技術とメンタルが複雑に絡み合っているのだ。
そこで今シーズン絶好調にある小林陵侑(土屋ホーム)である。
地元の大声援の後押しを受けたマルクス・アイゼンビヒラー(ドイツ)による2トップの優勝争いに、ロマン・コウデルカ(チェコ)やデビッド・クバツキ(ポーランド)などが入れ代わり立ち代わり上位をうかがっている状況にあった。
胸に燦然と輝くイエロービブで早くもW杯8勝と王者の道を歩み始めたRoy(欧州で呼びやすいニックネームとして自身で考案しポストカードのサインも同様)だ。
「なんというんですか、あまり深くはなくというか、その、自然体なんです。いつもそうなんです。しいていえばアプローチで重心を感じることが大事で、ウエイトをしっかり乗せるせることなんです。アプローチスピードはあまり気にしていなくて、踏み切りを合わせていくことに集中しています」
なんと、技術的にみて、それは綿密に考え込まれた、浮力と推進力を生み出す世界最先端のジャンプではなかったのだろうか。
わかりやすく言えば、アプローチの安定と精度の高さ、そしてひとつのひらめきがあるということ。そこに空中スピードが出る秘密があり、そのままジャンプの後半にボディからスキーを離していく小林独自のテクニックで、先シーズンの後半から、ぐいぐいと飛距離を伸ばしていたが、まさかの自然体とは。
「なんですかね、知らないうちにそれができていました。でも、まだ完ぺきではないですよ。そのジャンプ台ごとにゲートが違うわけですから」
そう、あっさりと表現してくる。
新型技術ユの字姿勢
その勝利を重ねるフライト技術はまったくのオリジナルのものである。それを簡単に表に出すのは、はばかってしまうのも事実。
それはいま、強豪各国チームが躍起になって小林テクニックの分析に入り、丸裸にしようとしているからだ。それを習得して、各国が表彰台の中央に立とうとする。
連勝街道まっしぐらにある小林陵侑と宮平秀治ヘッドコーチを中心とする日本チームは、この新型技術を守らなければならない。
そのため前年後半に当コラムに記していた、空中のフライト技術に関しては、明言を避けている。
いわゆる『ユの字姿勢』に風の捉え方に特徴があるのだが、それは他国には知られたくない秘密事項だ。
海外列強勢の対応策も速かった。
打倒小林の兆候はすぐに見られて、さすが名門オーストリアと思わせたのが、ジャンプ週間開幕戦のオーベルスドルフ(ドイツ)では、シュテファン・クラフトの立体的な飛びが見られた。
先シーズンはあれほどまでに身体を寝かして突っ込んでいたが、器用なまでに『ユの字型』にスタイルを変えてきた。これがジャンプ大国オーストリアの強みだ。だが2戦目のガルミッシュ=パルテンキルヘン(ドイツ)では温暖で少ない雪による乱風に調子を崩され脱落、あくまで臨時の付け焼刃的な技術であることを露呈してしまったが。これが完成した暁には、小林の有力なライバルになってくる。
「この先は、陵侑と強者のドイツ、オーストリア、ポーランドの3強との差がさらにタイトになってくることが予想される。今季はけっしてこのままでは終わらない状況があり得る」
土屋ホームのヤンネ・バータイネンコーチ(元フィンランドチームヘッドコーチ)は、地に足をつけた言い方に終始した。
「4試合目のビショフスホーフェンは好きですよ、大きな台であのアプローチもゆるくて楽しいです。なんの問題もありません」
そのように淡々と応えた小林だ。
難関のビショフを攻略
かつて宮平秀治ヘッドコーチが表彰台に昇ったビショフスホーフェン(オーストリア)。
伊東大貴(雪印メグミルク)は近年までここのバッケンレコードを保持していた。そこで、小林は1本目に不可解な風で待たされての4位、そこから大いなる逆転劇がみられ、巻き返しての優勝とまさしく王道をいくジャンプ週間完全制覇の4連勝、史上3人目のグランドスラムを成し遂げた。
今後、対抗してくるのは気迫あふれるアイゼンビヒラーと、地元で飛び慣れているインスブルックで2位そしてビショフで3位と、2月の世界選手権に調子の波を合わせようとしているクラフト(オーストリア)、そこにポーランド勢が積極的にからんできそうな勢いだ。
ただ、小林は何事もないようにクールなままに飛び出していく。
テクニックで言うと鍛え上げられたボディを軸に安定したアプローチ、推進力あるスピードと空中姿勢、そこでの最後のひと伸びがあり、身体からスキーを離していくリョウユウスタイルがみられる。
それとともに日本チームは上昇の道を歩み出した。
小林潤志郎(雪印メグミルク)と伊東大貴に、ジャンプ週間のインスブルックで6位に入った若手の佐藤幸椰(雪印メグミルク)と中村直幹(東海大)が果敢に順位を上げて小林を後押しする。また、コンチネンタルカップから栃本翔平(雪印メグミルク)が昇格をみせて、日本チームは出場7枠をキープする。
これでいよいよ世界選手権の団体戦(ラージヒル)において久々の表彰台が見えてきた。
期待すべき札幌W杯
1月後半には26日(土)のナイトゲームと27日(日)に行なわれる札幌W杯2試合、その凱旋帰国を観戦に行きたい。ここでは日本選手の表彰台独占もあり得るからだ。
昨年末には、エンゲルベルグW杯(スイス)のあとにクリスマス休暇で帰国した小林は、いきつけの美容室で個性あるヘアスタイルに変貌。正月向けのテレビ収録を兄の潤志郎と難なくこなして、好きな味噌ラーメンを味わいたいと札幌市内にある『味坊』へと出かけて、ホッとした笑顔を見せたりした。
そしてまたすぐにヨーロッパへと旅立っていった。
夏場から研究し続けたノルウェー選手数名のジャンプとアプローチ姿勢は、重心を低くすることで爆発力を生み出した。
そういった葛西紀明監督の教えを素直に聞いていた小林は、日々のトレーニングに関してもアレンジを加え、それをあっさりと自分のものにしてしまった。
その意味においても、まだまだ彼は伸びてくる要素を秘める。
海外勢はこのままで終わることはできないと、そのテクニック分析力を持って包囲網を縮め、小林のW杯優勝を阻止しようと躍起になってきた。そのせめぎ合いはまさしく好勝負の予感なのである。
札幌W杯のナイトゲームは、またきれいな夜景とそこに応援の歓喜が大きく広がってくる。
いまや世界のトップに君臨する小林陵侑と日本選手の活躍を見届けに、こぞって大倉山にでかけよう。
→特集 小林陵侑(2)に続く
岩瀬 孝文
ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。
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