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スキー コラム 2018年3月30日

第10回『葛西紀明どこまでも 2017/18シーズン総括』

鳥人たちの賛歌 W杯スキージャンプ by 岩瀬 孝文
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葛西紀明

勇者葛西紀明(土屋ホーム)はみるからに伸びやかに飛んでいく

いやおうなしにフライングジャンプは盛り上がる。
それもクルム、バド・ミッテンドルフ(オーストリア)のフライング台は、レジェンド葛西紀明(土屋ホーム)がもっとも得意とするシャンツェだ。
速やかにサッツを出て、空中を低めに伸びていき、そこに下からの最後のひと吹き、巻き上げの神風がやってくる。葛西選手はそれがくるのワクワクしながら飛んでいる。
「そのとき、きたーってなるんですね。もう、うれしくてたまらなくて」
表情も軽やかに、その偉大なる向かい風に乗りグイっと進んで、着地でテレマークを決める。そして『よしっ』と右手でガッツポーズだ。
そのままあっさりとひとケタ台の順位を記録する、それも数年前には優勝を遂げているのだから素晴らしい。

葛西紀明

ゆったりと落ち着きあふれて着地を決めた葛西紀明(土屋ホーム)

そのときの各国TVの著名スキージャンプアナウンサーは、下で伸びていく葛西の背中を観ては『カザイ、カサイ、カザーイがロングジャンプだー』と絶叫しまくった。
これは、毎年の1月になるともはやスキージャンプ中継の名物になりそうな勢いで、われらの葛西が飛ぶ順番になる頃には、会場に用意された各国のテレビブースでは、有名アナウンサーたちが雄叫びの準備をして構えているのである。
それを承知の葛西選手は、顔に微笑みを浮かべて心地良く飛んでいた。

盆地の中央部にある鉄道臨時駅から西側の丘に向けて広がる会場を埋め尽くし、オーストリア国旗を振りかざしている国民の皆さんが、地元オーストリア選手よりも大きな拍手と声援をもって、その葛西選手のジャンプに敬意を表してだった。それこそ偉大なるジャンパーカサイに頑張れとエールと一陣の風をおくっていたのである。
そこで英気を得たカサイは続く、オーベルスドルフ(ドイツ)のフライングに、RAW AIR最終戦のビケルスン、さらには経験がものをいうシーズンエンドのプラニツァまで明るくおおらかなまでに飛び抜けていった。

さて、やはりというべきか、彼らしい技術を体現するストッフ(ポ―ランド)が、その長距離飛行をもって圧勝を重ねW杯個人総合優勝を飾った。
いわば撮影にあたるカメラ目線で言えば、左右の両スキーを極力フラットに持っていく体勢でスキーとボディ上体を離しつつも、なるべく寝かすように彼なりのぎりぎりの風の受け方と、そのベターなバランスを手中にしていたのであった。
例えば空中でスピードあるまま身体を前方に寝かせて鋭く伸びて、表彰台に上がっていくテクニックが顕著なクラフト(オーストリア)やフライングで抜群の飛距離を打ち出すドメン・プレフツ(スロベニア)などのロースタイルがあるが、いまやジャンプの主流はスキーと胸ボディを離して、スキーをフラットにしやすくしていく形にして『ユの字姿勢』に移行してきている印象にある。

葛西紀明と小林陵侑

表彰台で葛西紀明は勝利した小林陵侑(土屋ホーム)を強烈なハグで祝福

日本選手でいえば、わりと長身な小林陵侑(土屋ホーム)と大学生でコンチネンタルカップに出場している栗田力樹(明大)あたりがそれ身につける積極的な姿勢がみられ、ロングな飛距離を生み出し始めた。
もちろん日本特有のテクニックで、小柄な身長ながら持ち前のバネと身体を寝かせ気味に水平に伸びていく佐藤幸椰(雪印メグミルク)は、所属の雪印メグミルクの岡部孝信コーチによる指導で開花をみたわけで、いまの潮流としてはそのストッフと長身ノルウェー勢が手掛けるユの字スタイルと、この水平スタイルに大別される勢いだ。
さて、来季は飛距離を求めて、テクニックはどのように変遷していくのであろうか。
ジャンプ技術というのは毎シーズン変わっていくのであるから、じつに面白い。

葛西紀明

いつも朗らかな微笑みを絶やさずファンに感謝する葛西紀明(土屋ホーム)

小林陵侑

新技術『ユの字スタイル』で台頭し始めた小林陵侑(土屋ホーム)

来シーズンのたのしみとしては王者ストッフの連覇と新技術の完成、さらに大型選手揃いのノルウェーで、ヨハンソン、スチュアネン、ファンネメルらのロングフライトとチーム力の向上はどこまで進むのか。
今季はやや低迷気味の状況であったが、2019世界選手権がインスブルック五輪の会場となったジーフェルドで開催されるオーストリアが着々と巻き返しの道を歩んできそう。
注目のドイツは練習を開始したフロイントの復帰と、あのヒゲをそり落としてしまったフライタクと若きベリンガーの2トップに気迫のアイゼンビヒラーとガイガーあたりが台頭してきそうな予感。
それとマテリアルチェンジでその乗りこなしに時間をかけた勇者プレフツの復活と飛ばし屋な弟ドメンの上昇が気になる。
そしてあの名門チームフィンランドの第一線への返り咲きはいつになるのであろうかと、新ヘッドコーチの就任を心待ちにしているファンが日本にもたくさんいる。そこに加えるとノルディック複合チームは10年計画の半分を過ぎ、いよいよ有力ドイツ勢に迫る流れが出てきたのはうれしいことだ。

小林潤志郎と小林諭果

順調に飛距離を伸ばす小林潤志郎(雪印メグミルク)と妹の小林諭果(CHINTAI)

賢明なる日本チームは、昇りへの第一段階にあたり、小林潤志郎(雪印メグミルク)と小林陵侑兄弟に鋭さの佐藤幸椰、右肩の故障が癒えた伊東大貴(雪印メグミルク)、また中堅で発奮する竹内択(北野建設)そしてしっかりとチーム全体をまとめ上げる葛西紀明、そこにコンチネンタルカップ組の栗田力樹に岩佐勇研(札幌日大高)と二階堂蓮(下川商)と複合にも才能を有する竹花大松(東海大札幌高)らに注目が集まってきそうだ。
時期の変わり目であり新しいチームスタッフとワックスマンの就任など、2022北京五輪への新たな機軸を打ち出すシーズンとなる。

ものすごく繊細なジャンプ技術である。
今季快調であっても、来季はそれがもろく崩れる場合がある。
そこには高度なメンタル勝負に技術開発とスキーやジャンプスーツなどマテリアルの創意工夫の連続になる。それらが複雑に絡み合ってなのだ。
このシーズンファイナルシリーズを終えて、各国の選手たちはしばし休息の期間を迎える。それはほぼ4月中の休養となるが、個々ではすぐに自主トレが始まってくるであろう。
また来シーズンもそういう努力する選手の皆さんを暖かく見守っていきたいと思う。
私たちの日本チームついに新体制で次なる高みへ、それらがいろいろと楽しみでならない。

岩瀬 孝文

ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。

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