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今週土日に再開されるW杯スキージャンプ。
ようやく、まともな風の勝負になると、どの選手も安堵していた。
各国代表のジャンプ選手にとって、あたりはずれのおおきい強烈な風と追い風は、あり得ないと感じていた。
スタートで風の良し悪しで長く待たされ、しかも追い風に叩かれ続けた選手たちは全員がそう思っていたようだ。
「これは中止でしょ」
誰もが思う、心に秘めたその言葉を、世界のレジェンド葛西紀明(土屋ホーム)は、思わず口に出してしまった。
『私が言わなければ誰が言うのか』
もはやスキージャンプに選手会があるとすれば、それを代表した確たる使命にかられた上での発言だった。
W杯スキージャンプに携わる関係者からマスメディア、ファンに応援団の人々まで、あの状況ではどう見てもキャンセルになるゲーム、それで順延になると、はなから感じていた。それを強行しての試合であった。
スタート横で毛布を羽織りながら選手は凍え、足先など身体が満足に使えなくなるくらいの寒さにさらされた。
これではまともな試合はできない、まっとうな試合にはならないと、皆の頭にそれがよぎった。
日本チームで好調の小林潤志郎(雪印メグミルク)が思い切り、追い風に叩かれてぼたりと落ち、よもやの2本目へ進めずに終わった。さらには強者クバツキ(ポーランド)もあっさりと落とされていった。
しかもそれは女子ノーマルヒルの伊藤有希(土屋ホーム)にもその追い風がまとわりついて失速、同様に勢いのあったホルツル(オーストリア)も不運なままに飛距離を伸ばせず。
いまさらである、なぜにこのような強風が吹き荒れる場所にジャンプ台を作ったのか?
応援席からランディングバーンが遠いなど、チケットを入手して応援しに来ていた人々からもため息が漏れた。
開会式で日本選手団の旗手を務めた偉大なエース葛西紀明は、開会式で誇り高く日の丸を振りかざし、胸を張った。
そしてジャンプ台では、悪夢ともいえる風に堂々と突っ込んでいった。
なんとしてもメダルを得たい。そのためか、いや、思い通りの風がこないことで肩口に少しばかりの力みが見られてサッツ飛び出していた。それも追い風にどんどん落とされていく。
「これだとキツい」
その思いでジャンプを重ねていった。それは、さぞ無念の境地であったことだろう。
チームの中で最長の飛距離を打ち出した小林陵侑(土屋ホーム)は、特に緊張はしませんでした、と至極クールな眼差して毎度のジャンプに希望を乗せて飛んでいた。
メンタルが強い若きエースの登場である。
「あれはしょうがなく思います。悔しいと言い出したらきりがない。残りの試合はとにかく自分のジャンプをしようと努力しました。必要なのは滑りやすいポジションでしっかりとアプローチにのっていくことなのです。これからのW杯に向けて調子はあがってきているように思えます」
なぜだ、といわんばかりに追い風にやられてしまった小林潤志郎(雪印メグミルク)は、帰国後に落ち着いた眼差しで、そう静かに語った。
さて、W杯の終盤戦はラハティ(フィンランド)から再開される。
この台はラージヒル、ノーマルヒル、ミディアムヒルがきれいに並ぶ3連シャンツェとして有名な伝統あふれる台で、昨年2月には世界選手権が開催されていた。
わかりやすい安定した爽やかな追い風が少々吹いている。それが弱まった選手はラッキーこのうえない、じつにわかりやすいジャンプ台だった。
2月になってノルウェーが果敢に飛ばしているのは一目瞭然、ファンネメル、タンデ、ヨハンソン、ストヤネンらが意気揚々とジャンプしている。そして団体戦の優勝候補筆頭に君臨、不動の強さを誇る。
そこに対抗してくるのがポーランドだ。ストッフ、コット、フラ、クバツキなどがまとまりよくコンスタントに飛んでくる。そしてフライタクとベリンガーのドイツ、クラフトとハイバックのオーストリア、勇者プレフツがリードするスロベニアとなる。
また個人戦も好調なこれら上位選手のなかから表彰台に上がることが予想される。
われらが日本チームは伊東大貴(メグミルク)が肩の治療のために国内に留まり、そこに佐藤幸椰(雪印メグミルク)が遠征メンバーに入った。そして気分を新たにして北欧を転戦、ノルウェーシリーズのRAW AIRへとアタックしていく。
期待一杯の日本勢だ。安心して、おおらかに風に乗り、力の限り飛んでいってほしい。
岩瀬 孝文
ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。
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