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オーストリア南部に伝統のフライングヒルがある。
谷間で、平地からせりあがるジャンプ台には東西南北各方面から大観衆がやってくる。
メインの行き方で言えば、ジャンプ週間の最終戦の台ビショフスホーフェンから東へ進み、アルペンバーンで有名な技術系のシュラドミングと高速系のハウススキーエリアの下を経て左手へ鋭角にターンする。あるいはザルツブルグから南東へ山中をとおり、水が豊富な鉱泉町を抜けて下がっていく。そこに鉄道の臨時駅があり、目前の林間に大きくそびえ立っているのがクルム、バドミッテンドルフの台である。
田園風景が広がりほかには何もなく、一見、地味な場所であるが、1月のフライングW杯のときには、ジャンプファンがやって来ることに2万人。それも赤白のオーストリア国旗を振りかざして、ひいきの選手に声援をおくる。
それはオーストリアの英雄アンドレアス・ゴルドベルガーであり、いまのシュテファン・クラフトである。
もちろん、我がレジェンド葛西紀明が勝利したときには世界的な選手として、大きな応援がクルムの谷に響き渡った。
かつて個性派ジャンパーの秋元正博さんが、巻いた風の影響で大けがをしたのがこの地だ。そんな因縁のジャンプ台。
それを後輩だった葛西紀明(地崎工業→マイカル→土屋ホーム)が輝かしい勝利を得て、秋元さんとジャンプファンの皆さんの、長くもやもやとしていた昔年の悔しさとやるせない気持ちを見事に晴らしてくれたのは有名な話。
勝利を得る選手は着地手前での一陣の吹き上がりの風にうまく乗って20mくらいは、ぐいと推進していく、これは背後の映像でもわかりやすい状況がみられる。
オーストリアが復調するのはここバドミッテンドルフが絶好の場になる。地元の英雄クラフトとハイバックは大声援を受けて気迫のジャンプになる。それだけに大観衆の期待を胸になんとしても表彰台をものにしたい。
一発があるノルウェーは、そのものバイキング精神で飛ばしてくる。勇者ファンネメルを軸に、フォルファンとタンデらの若手長身ジャンパーに注目。このクルムとオーベルスドルフ(ドイツ)のフライングをこなし、そして3月のRAW AIR最終戦ヴィケルスンのフライング台で世界記録と上位独占を狙う。
実力あるドイツは転倒したフライタクの復帰に現在コンスタントに表彰台に上がっているヴェリンガーの躍動に注目だ。
そしてチーム力が上向きなポーランドチームが、ジャンプ週間個人総合優勝のストッフを中心にひとケタに幾人も入ってくるようであれば、いよいよ王道を進むことになりそう。
日本選手は変化ある風の様子を見ながら、あまり無理をせずに飛んでいくことが肝要。また、風の状況次第では葛西紀明の勝負師としてのハートに火がつくことになる。さらには小林潤志郎と陵侑兄弟はどれくらいの飛距離を出してくるのか、そういう期待感もある。
ここは長距離フライトを競うシャンツェというよりは、確かなテクニックを有し艶やかに飛び抜けていくロングジャンプがみられるフライング台。
各国の有力選手たちのより細やかなフライトテクニックを堪能したい。
『五輪代表決定』
1月11日(木)の夕方5時に札幌市内で、たくさんの報道を前に、五輪代表選手が発表された。その枠は男子で5人と女子は4人となった。
◎男子
レジェンド葛西紀明(土屋ホーム)北海道下川町出身
繊細な技術を持つ伊東大貴(雪印メグミルク)北海道下川町出身
安定してきた竹内択(北野建設)長野県飯山市出身
W杯上位に定着した小林潤志郎(雪印メグミルク)岩手県八幡平市松尾出身
確実に伸びている小林陵侑(土屋ホーム)岩手県八幡平市松尾出身
◎女子
W杯新記録54勝が期待される高梨沙羅(クラレ)北海道上川町出身
勝負の気迫充分な伊藤有希(土屋ホーム)北海道下川町出身
長身ジャンパー勢藤優花(北海道ハイテクアスリートクラブ)北海道上川町出身
技術習得に熱心な岩渕香里(北野建設)長野県上田市菅平出身
「今シーズンは、オリンピックでメダルを獲得することを目標にしていました。代表になり大変嬉しく思います。昨年11月に右肩を負傷し、現在はトレーニングに専念、心と身体を万全に整えてのぞんでいきたいと思います。現地ではベストを尽くせるように精一杯頑張りますので、応援よろしくお願いします」 (伊東大貴)
「初めて代表に選ばれとても嬉しいです。子供の頃に観戦した長野五輪、それで五輪に絶対に出たいと思っていました。これまで支えて下さった方々に恩返しができるように、また、故郷の岩手県や東北地方の皆さんが元気になれるような、そういったビッグジャンプができるよう全力で頑張ります」(小林潤志郎)
「応援して下さる家族やファンの皆さん、スキーを続けさせてくれる会社の皆さんに、少しでも恩返しができるよう、兄の潤志郎と力を合わせて、そしてチームの葛西紀明監督とともにベストを尽くせるように頑張ります」(小林陵侑)
「下川町で飛んでいた小さな頃からの夢が五輪出場でした。それがまさか8回も選ばれるとは思ってもいませんでした。年を重ねて、努力をして、その上のメダルです。それが狙えるまでになり、ずーっと現役を続けて五輪に出たいという思いが強くなってきました。前回のソチではメダルを取ることができました。しかし過去の6回は悔しい思いをしました。つねに切磋琢磨、身体を鍛え上げて、W杯で好成績を積み重ねてきた上での五輪出場だと思います。そして8回、9回といわず切りの良い10回の五輪出場したいです。まずは五輪でメダル獲得を目指し、悔いの残らないよう、皆さんの期待に応えられるよう全力で頑張ります。たくさんの方々に応援してもらい本当に感謝しています」(葛西紀明)
この2月に健闘を期したい日本チームだ。
*五輪代表決定後に所属チームから配布された選手コメントより抜粋
岩瀬 孝文
ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。
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