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ここビィスワの台は、言わずと知れたアダム・マリシュ記念シャンツェだ。
かつての活躍のメモリアルとして作られた新しいジャンプ台。さらに近隣地域の冷え込みあり人工雪で充分に対応はできる。
しかし、なんでこうなのだろう。
アプローチとせり上がりのランディングと背後のスタジアムは美観をなしているが、肝心のランディングバーンがいつもながら不整地な状態にあり、着地後に安心してしまうとバランスを崩すシーンがしばしば。そのあたり鉄壁な札幌大倉山の整備を見慣れているものとしては、ハラハラさせられどおしである。
そこで快挙をみせた小林潤志郎(雪印メグミルク)はここ数年、サマー大会から幾度となく飛びこなしていたシャンツェで、前日の団体戦では重責なラストジャンパーを任されてもいた。そこで見事なW杯初優勝であった。
地元の期待が大きかったストッフ(ポーランド)を打ち負かし、強豪のクラフト(オーストリア)までをも退け、2本目には126.5mを記録そのまま表彰台中央に昇ってしまった。
久しぶりにジャンプ台に日の丸が掲揚され、君が代が流れた。
北欧フィンランドとともに親日の国であるポーランドの皆さんは、英雄ストッフが敗れたのにもかかわらず優勝した小林に賛辞を送り、大声援でその勝利を祝ってくれた。これこそスポーツマンシップあふれる世界基準の輝かしい表彰式となった。
岩手県松尾八幡平出身のスキージャンプ一家、小林4兄弟の長兄潤志郎だ。
かつて東海大スキー部時代に、クーサモ団体戦で3位銅メダルを獲得して以来の表彰台。弟の陵侑(土屋ホーム)は、ヤンネ・バータイネン(フィンランドチーム元ヘッドコーチ)によるフィンランドテクニック指導が成功をみせてまずは26位。ここからの10番台ひとけた入りに望みをかける。
また妹の諭果は、この春、早大からCHINTAIへ入社、その社業を優先しながらコツコツとトレーニングを続けている。
末弟の龍尚(盛岡中央高)は全日本ジュニアチーム入り、冬にはインターハイの覇者をめざしている。
その潤志郎には夏場におけるトレーニングの成功があった。
雪印メグミルクの吉泉英樹トレーナーによる体幹強化などでアプローチ改造がスムーズになされた。それに加えて走り込みなど筋力トレーニングの成果があった。
ジャンプテクニックは理論派と実践を兼ね備えた優しい兄貴的な存在の岡部孝信コーチによる叱咤激励と、原田雅彦監督が温かい心で見守る、その両輪がうまく回転し始めた結果でもあった。
不運に見舞われた伊東大貴
注目の伊東大貴は、はなからW杯ひとケタに入る実力はあったが、2本目に着地で足を取られて転倒、顔の裂傷と鼻血、右肩に脱臼の兆候が見られた。そこでクーサモ・ルカW杯(フィンランド)は大事を取ってキャンセル、すぐに札幌へと戻った。
地元札幌では有力な治療院があり、そこでのていねいな亜脱臼の処置と、吉泉トレーナーによる心のこもったリハビリトレーニングで、それこそ短期間のうちに復帰する。
ここからが彼の意地の見せ所だ。
これくらいで負けるものか!とその闘魂に火がつき、年末年始のメイン試合、ジャンプ週間4連戦では何食わぬ冷静な顔で、かるく10番以内に入ってきそう。ジャンプつうなファンの皆さんは、それを安心してじっくりと見届けたい。
また開幕戦31位と微妙な差で2本目に進めなかった葛西紀明(土屋ホーム)、このせり上がりタイプの台はあまり好まず、次のクーサモW杯こそが本領発揮の場となる。
中堅の竹内択(北野建設)はマイペースながらの調整、高校留学時代のトレーニングベースのひとつクーサモで上位に入り、調子の波に乗っていきたい。
これまで、いろいろと話に出てくる飛べるスーツは、クラフトが使用する股下形状ものと、ほぼ同様のシルエットにある小林潤志郎。もし、これにチェックを入れられたら、あのクラフトであれば良いのかい、となる。
それは絶妙なまでに開発能力がある日本のミズノ製ならではのことだ。だから自信をもって、どんどんと他を圧倒して飛んでほしい小林選手そして日本チームだ。
意外だったフライタクの頑張り
若手ヴェリンガーに頼りっぱなしでチーム力低下が叫ばれたドイツ、そこに登場したのが個性派で今シーズン当初なぜか鼻ひげを蓄えて1本目首位に立ったフライタク。2本目に少々緊張してしまい、また地元ストッフの勝利および上位を願う観衆の気に押されて4位に沈み、ひとしきり悔しがった。
クラフトの好調で意気上がる試合巧者のオーストリアは、強豪のハイバックが用意周到に上がってくる。
ポーランド国中から期待され過ぎて失速した地元のポーランド勢は、コット、ジラ、クバツキらがここまでの甘さから一転、気の引き締めをみせることになれば、再度、上位独占の道がみえてくる。それはマリシュチームコーディネーターの手腕となってきそう。
以前にもましてまとまりがあったのがノルウェー。タンデ、フォルファン、ファンネメルなど団体戦で優勝したメンバーは、ここ一番に強いメンタルで果敢に攻め上がる。
団体戦はいわば順当な5位の日本だった。ここでも小林潤志郎の4番手が目を引いていた。
スロベニアはいまだわからず、プレフツは良しとしても、弟のドメンは低空飛行でひとときチーム外へと飛び立っていった。
スイスは中心選手のアマンが不調のままシーズン入り。シオンで2026五輪の開催を願うならば、表彰台へ昇る勢いが不可欠である。それもエンゲルベルグ(スイス)の安定した逆風を制することからスタートという筋書きか。
クーサモ・ルカ、かつてサマーバッケンレコードを記録した岡部孝信選手、いまやその教えを受ける潤志郎。あの強風と寒さをものともせずに果敢に飛んでいこうジャパン。 さらにティテゼー・ノイシュタット(ドイツ)、エンゲルベルグ(スイス)、いつものクリスマス休暇を挟んで伝統のジャンプ週間4連戦と続く。ここで上位安定にあれば小林の実力は本物。さらに上位入りをターゲットに据える陵侑の露払い的な後押しが、じわりと効いてきそうな良き流れもありそうだ。
また12月の遠距離移動で疲労が残ることになるニジニタジル(ロシア)には若手メンバーの作山憲斗(北野建設)・中村直幹(東海大)・原田侑武(雪印メグミルク)・佐藤幸椰(雪印メグミルク)・伊藤将充(土屋ホーム)の遠征を試みた日本チーム。選手の経験を積むことを主目的とするのは正解であろう。2月の大きなイベントへと向かうトップチームの調整の一環などとみればこれは納得の選択だ。
さあ、いけいけ好調ジャパン!
小林潤志郎の上位定着に、リアル・レジェンド葛西紀明のひたむきな飛翔に感慨を得たい。
岩瀬 孝文
ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。
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