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やはり葛西はいける、大きな目標へとかける気持ちはほかの誰よりもある。
それだけに11月5日(日)の全日本選手権ラージヒルは表彰台の中央に堂々と立ち、にこやかながらに冷静な微笑みで大勢のファンを見つめていた。
彼はここ一番の大きな勝負で、その本領を発揮する。それがリアル・レジェンドの金字塔。
だから、欧州では敬意をもって大観衆に迎えられるのである。
ところが、近年はなかなか体重が落ちない苦悩に包まれていた。
それも食事時には、あまり好きではない濃い目の温いブラックコーヒーを胃に流し込んで、空腹を紛らわす。合宿先の白馬の定宿で、実際にそのポットから珈琲をもらい口に含んでみたが、けっして美味しくはなく、苦み走った男の味であり、これはコーヒー好きであろうと、いやはや、なんとも言えずの気分になる。
最近の葛西の楽しみはコーチングする伊藤有希の成長ぶりにあった。
『男子ジャンプのように飛びなさい』
との格言を与えて、やや困惑する伊藤に、いいから飛んでみなさいと言い渡した。
有希は五輪会場でのW杯、あの猛烈な逆風にも拘わらず、それを切り裂いて最後にはさらに10mも飛距離を伸ばして着地を決めた。
それこそがパワージャンプ、簡単に一口では言い表せないが、いわば男子のジャンプである。
師匠葛西の指導を受けて伊藤はまだまだ伸びていく。
土屋ホームスキー部は、恩師川本副会長がリタイアして新たに千田スキー部長が誕生した。
ジャンプ台で選手の写真を撮る岡本事務局長は現場で、寂しさにうなだれていたが、これからがまたチーム土屋の進むべき道であると、気を新たにした。
すべては葛西紀明の心ひとつ、つねに遠くまで飛ぶ、である。
開幕の日本代表に5選手
W杯開幕戦、日本選手は5人の遠征をみる。
ポーランドのビスワのシャンツェは、ランディングがせり上がりの形状で、スピードが出過ぎると、奥の壁面に激突する危うさを備える台である。
もちろん地元ポーランド選手が優位であり、それもここは英雄アダム・マリシュの記念ジャンプ台。ポーランド選手は絶対に負けるわけにはいかないと、猛烈に練習して果敢に飛ばしてくる。
団体戦では、表彰台に上がるかどうかのポジションにある日本チーム、しかし、いくらかのチャンスはある。
全日本選手権で表彰台に並んだ小林兄弟。とくに長男の潤志郎の今季の成長ぶりは素晴らしい。弟の陵侑はそばで葛西の気構えを学んできた。
もとから才能ある伊東大貴の復調も目覚ましい。さらにはチームの原田雅彦監督と岡部孝信コーチのジャンプ週間における遠征帯同が予定され、それも心強い。
中堅の頑張りが目を引く竹内択(北野建設)は、個性派ならではのジャンプを見せているが、前年のスーツ違反失格の影響があるのか各W杯会場でのマークはきつさを帯びてきそう。まずは、そのイメージの払しょくしながらのジャンプになりそうだ。
団体戦のジャパンは厳しくいえば5番手6番手からの脱却と、そのためのパワージャンプが必要となってくる。また、育成次第では力強い若い選手の登用も考えられる。
日本チームにジャンプスーツを提供しているミズノでは、その優秀な開発技術は他国の追随を許さない。それだけにその新型スーツの投入時期に気を払う。早すぎるのであればすぐさまチェックを入れられ使用禁止になることも予想されるだけに、そのあたりの絶妙な戦略を持っている。その斬新なシルエットや飛行曲線に注視していこう。
世界の兆候として
今季はポーランドの強さに注目が集まる。勇者ストッフとチームコーディネーターで名選手だったマリシュとの良きコンビネーションに、コットとジラ、そこに続くクバツキや2~3人で最強の時代に突入した。
オーストリアはクラフトとハイバックの2トップ体制、わきを固めるあとふたりに新鋭を持ってくるのか否かが上昇へのカギとなる。
ドイツは若きヴェリンガーがリードする。故障しているフロイントの状況をみるとチーム的にはトーンダウンの印象にある。
ノルウェーは硬軟取り混ぜての5~6人の精鋭ぞろい。フォルファン、ファンネメルなどまとまりの良さと以前の飛ばし屋気分で果敢に攻める。それも、いつもながらにフライングに強さを発揮。地元ヴィケルスンでは勝利を期待して大観衆が見守る。
前年におけるスーツトラブルで低迷の域にあったスロベニアは、いまだ未知数の状態にある。スーツの手直しから復調を果たすかプレフツと弟のドメン。
強風を制する者に勝ち運は宿る
とにもかくにもJSPORTSのW杯ジャンプ中継を観て日本選手の活躍や、お気に入りの欧州選手に熱い声援を送ろう。
今季は札幌の男子W杯の開催はなく、残念ながら予断をもってビリンゲンに譲った格好の札幌ではある。そしてそのときにビリンゲンファイブが開催される。ドイツはその借りを返してくれる時には、しっかりと返してくれるはず。ちゃんと、わかっていると思うが、それを願ってやまない。
今季の山場はジャンプ週間4連戦に、RAWノルウェー連戦、フライングジャンプのプラニツァシリーズといういつもの流れでもあり、そのなかでレジェンドを筆頭に古豪やら新鋭の華やかなジャンプがシーズンを飾ってくれるだろう。
あの平昌は荒れる風、それを得意とする選手に勝ち運がくる。
それは11月後半のクーサモ・ルカの強風に、12月のエンゲルベルグのバック風などによるジャンプが試金石になってくるはずだ。
それに打ち勝つ度量を持つ選手こそ、覇者への王道なのである。
岩瀬 孝文
ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。
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