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スキー コラム 2017年3月30日

『静かなる闘将』スキージャンプFIS ワールドカップ 16/17 シーズン総括

鳥人たちの賛歌 W杯スキージャンプ by 岩瀬 孝文
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葛西紀明

シーズン後半に好調のまま葛西紀明はきたるシーズンに想いを馳せている

以前どこかに書いた記憶があるが、いま確実にこれだろう。

ノルウェーのトロンハイムW杯に取材で入り、駅前からタクシーに乗った時のことだった。その運転手さんが言う。
『ノリアキ カサイは僕と同じ年なんだ。ほんとうに頑張って飛んでいるからね。いつもは車の中でラジオ中継しか聞けないけど、仕事中、どんなに疲れていても、物凄く励みになる。彼が懸命にジャンプしていると思うとね。カサイは、ほんとうに僕らを元気づけてくれる』
と、嬉しそうに語っていた。それが心にじんわりと響いて、ほかに言葉はいらなかった。

改修前のオールドスタイルなトロンハイムのLHシャンツェで、葛西紀明(土屋ホーム)が歯を食いしばって飛んでいた。それをしっかりと見つめていた伊東大貴(雪印メグミルク)が表彰台に昇り、そんな誇らしい大会だった。

クラフト

W杯個人総合優勝を遂げてついに勢いの波に乗ったクラフト(オ―ストリア)

2月のラハティ世界選手権では、極度の追い風に見舞われた日本チーム。
そこで秘策を講じて一気に攻勢に出ることもできたが、それを良しとはしなかった。
であれば耐える、ひたすらに我慢して。
現場の空気に流されはしなかったが、もしかしたら本当に不調に陥ったのか? いや、そんなはずはないと。雨中のフィニッシュエリアの隅っこで、じっくりと待ち、飛び終えた葛西選手の表情をうかがうと『あっ』と一言、ぱあっとにこやかな笑顔になり。それで、もう確信した。
これで終わるような葛西選手ではないと!

フライングゲームでの、あの会心の飛びを見たかい。
空中では左右のスキーの間から顔が出て、それでにこやかに微笑みを浮かべながら、一瞬ではあるが。

思うに、かつての葛西と一緒だった。
日本選手たたきの第一号と言われた80%ルール変更前のことだ。
それはもう、空中で健やかな微笑みに白い歯をみせて伸びやかにジャンプしていた。 『カミカゼ カサイ』の全盛期だった。

葛西紀明

フライングで表彰台に立った葛西紀明(土屋ホーム)は次年度に万全を期す

なんとなくわかるが、それでも不思議に思えて、往時、札幌の地崎工業を訪ねて聞いた。
「あの、なんで、空中で笑顔なんですか?」
とシンプルに聞いてみた。
「あ、わかります? あれなんです。飛び出した瞬間にこれは飛距離が出るなってわかって、うれしくなって、なんですね」
『なんということだ』唖然とした。
そして同時に思う。飛ぶのが大好きなんだな~と。
さらにもっと突っ込んで質問してもいいのだが、唐突になぜか。
「好きなものは?」
いま思うと、勘違いなことを聞いたもんだ。
にこにこっと笑い、彼は。
「ソフトクリームですね。おいしいから、支笏湖のね。車で飛ばしていって。あ、これ内緒。車に乗っちゃいけないんだ(笑)。ま、いいか」
そこに、ほのぼのとした空気が流れだしたのは言うまでもなく。
ああ、ここに取材にきて良かったと思った。

だから脅威のフライング台ビケルスンと、哀愁のフライング台プラニツァなのである。
ひとケタ台の順位でいいのに、いいんだ、それで満足だよ今シーズンは。
しかし彼は進んだ。
2位表彰台に4位と、狙い通りの1本勝負で3位のお立ち台へと。
しっかりと有終の美を飾った。

葛西さんらしくて、いいなあ。

フライングW杯の現場にはいなかったが、フィンランド中央部にあるブオカッティNHのコーチ台で、極寒の夕暮れ時、日本の中学生らに旗を振っていた元フィンランドチームヘッドコーチの名将カリ・パタリが、急に背中をつんつんしてきた。
『ノリ、3番に入ったよ』と。
えっ、しばし下の雪を見つめて。
『やっぱりきた、やった~!』
ぎゅっと拳に力が入って、こちらも微笑んでしまい。
そして、あのときの左右のスキーの間から笑顔がのぞくシーンがおおきく脳裏をよぎり。

あれと一緒じゃあないか。 そうだ、いまも、葛西選手はジャンプするのが大好きなんだ。

これがよくわかった今シーズン、いよいよ終了のとき。

表彰台

左からクラフト(オーストリア)、コット(ポ―ランド)、ヴェリンガー(ドイツ)

ヴェリンガー

孤軍奮闘さながらしっかりとチームをリードした若きヴェリンガー(ドイツ)

プレフツ

抜群の調整力を持って最前線に帰ってくるであろうプレフツ(スロベニア)

だから、待っていなさいW杯個人総合の覇者シュテファン・クラフト(オーストリア)。
エースのフロイントが故障欠場の後に重圧を受けながらも、ひたむきに飛んだアンドレアス・ヴェリンガー(ドイツ)、偉い、よく頑張った。
チームをあげてジャンプスーツにしくじりをみせて沈みかけたスロベニアのペーター・プレフツ、彼もこのまま終わるわけはない。
後半戦で一歩出遅れたノルウェーも夏場、その巻き返しが顕著であろう。
そして、屋台骨がしっかりしていて、その存在からして違うアダム・マリシュノルディックコーディネーター率いるポーランド軍団などなど。

我がジャパンは、ひたむきに耐える葛西選手の背中を観ていた、下川町の後輩、どこまでもクリーンな伊東大貴(雪印メグミルク)が、続けと国内調整を成功させて、じわりじわりと復調してきた。これは強力そのものである。

いやはや楽しみな来シーズン。それもオリンピックシーズン!

このW杯終盤にきて奮起、さらには新型マテリアルを充ててきた印象の日本チームだった。
しかも、まだまだそれは進化する。
絶妙に使用禁止にはならない程度の、同時に列強各国間の駆け引きとともに。

だからスキージャンプは面白い。
では、また来季。

■2016/2017W杯個人総合成績
1.Stefan KRAFT シュテファン・クラフト(AUT) 1665
2.Kamil STOCH カミル・ストッフ(POL) 1524
3.Daniel Andre TANDE ダニエル アンドレ・タンデ(NOR) 1201
4.Andreas WELLINGER アンドレアス・ヴェリンガー(GER) 1161
5.Maciej KOT マシェ・コット(POL) 985
6.Domen PREVC ドメン・プレフツ(SLO) 963
7.Michael HAYBOECK ミハエル・ハイバック(AUT) 814
8.Markus EISENBICHLER マルクス・アイゼンビヒラー(GER) 807
9.Peter PREVC ペーター・プレフツ(SLO) 716
10.Manuel FETTNER マニュエル・フェットナー(AUT) 703
11.Piotr ZYLA ピオトル・ジラ(POL) 634
12.Andreas STJERNEN アンドレアス・ステュアネン(NOR) 591
13.Richard FREITAG リハルド・フイライタグ(GER) 507
14.Robert JOHANSSON ロベルト・ヨハンソン(NOR) 424
15.Noriaki KASAI 葛西紀明(土屋ホーム) 401
24.Daiki Ito 伊東大貴(雪印メグミルク) 294
30.Taku Takeudhi 竹内 択(北野建設) 130
54.Junshiro Kobayashi 小林潤志郎(雪印メグミルク) 20
62.Kento Sakuyama 作山憲斗(北野建設) 9
71.Yuken Sato 佐藤勇研(札幌日大高) 1

岩瀬 孝文

ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。

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