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スキー コラム 2017年3月22日

『おおいなる天空への誘い』スキージャンプFIS ワールドカップ 16/17 プラニツァ大会プレビュー

鳥人たちの賛歌 W杯スキージャンプ by 岩瀬 孝文
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空中に入ってこれでもかと粘りの飛躍をみせる葛西紀明(土屋ホーム)

小柄なクラフトはラハティ世界選手権の金メダル獲得で勢いの波に乗った

あの日、日本チームは晴天のプラニツァで圧倒的な国別対抗優勝の表彰台にいた。
1990年代後半、日本から応援ツアーでやってきていた幾十人ものジャンプファンは、ともに喜び笑顔に包まれていた。

あれから何年の月日が経ったことだろう。
ラハティ世界選手権の団体戦でようやく2本目に残り、それを惨敗と表現され。選手達はうつむき加減になり、ただ、ひたすらに耐えていた。

一転、それが杞憂に終わった。
フライングのビケルスンで、葛西紀明(土屋ホーム)がしっかりと風を受けて241.5mの偉大なフライトを記録、なんと第2位の表彰台に立った。しかも、伊東大貴(雪印メグミルク)が243mの日本最高記録を打ち出したのだから素晴らしい。
ということは、これが本来の実力なのだ。
2月のラハティ世界選手権では、それをうまく出し切れなかった。その結果を鑑みれば、惨敗という2文字はまったくあてはまらないことがよくわかる。
ある意味、この惨敗という言葉を自分たちの発奮材料にしていたのではないか、そんな気持ちも伝わってきそうだ。

トライアルと1本目でスーツを変えてきているクラフト(オーストリア)

この時期、ビケルスンFHで253.5mという世界新記録を樹立したW杯個人総合優勝までもう一息のシュテファン・クラフト(オーストリア)のジャンプスーツを観るとわかりやすい。
そのさわりをいえば下半身に着目点がある。とある個所にエアの取り入れ口があり、その空気浸透率を細やかにクリアした生地繊維の新構造において、エアが広がり滞留してくる。それでラージヒルで100m、フライングでは200mを超えたあたりから下でひと伸びするのである。
これはクラフトのオーストリアチームしかり、ポーランドチーム、ドイツチームもであった。

日本チームは優れた開発能力と縫製の器用さなどを持って、それを凌駕するものを生み出そうとしている。いや、すでにテストできる状況にあるかもしれない。
広義でいえば、それは来シーズンのお楽しみとなるのだが。
とはいえW杯後半戦のフライング連戦ともなれば様々な規制がやや甘くなってくることがあったりする。そのルールがいつまでも厳しすぎるとジャンプのショーアップに水を差すなどの理由から、W杯が終盤に近くなってくると、とにかく思い切りよく飛ばせようとの配慮がなされる場合もある。
いわばそのチャンスを逃さずに、ちょっとばかりグレイトなマテリアルを使用してみようかなとの、チャレンジ的な精神が頭をよぎり…。

勇者葛西紀明には先のロングフライトを見据えたほのかな笑顔が見られた

とにかく葛西選手は低く飛び出してすぐに斜め横方面からの風を受け、さらに下方向からの順風に乗りながら素晴らしいまでにロングフライトで241.5mを飛び抜けた。
あれは見るからに会心の『伸びがある』ジャンプだった。

それだけに静かに強豪ジャパンの復活を待つ、その心意気こそ真の日本ジャンプファンというもので、いずれ時期さえくればさらに飛べる特別なマテリアルが出てくる。いまはそれを信じて、ゆったりと待っている、これだ。

ジャンプ技術は、毎シーズンごとに刻々と進化をみせている。それで、ひとえに創意工夫そして優れたマテリアルが生み出される。これらが持ち前のジャンプ技術に加味され、それが輝かしい勝利への道となる! 「飛距離が出せるフライングは大好きですよ、ビケルスンもプラニツァのどちらもね。それに250mを超えてみたいですね~」
と、葛西は自信いっぱいのにこやかな表情で語った。

安定している伸びやかなジャンプが持ち味の強者ストッフ(ポーランド)

フライングとなれば忘れてはならないドメン・プレフツ(スロベニア)

このジャンプ後半の最後のひと浮きが何ともいえないビケルスン(ノルウェー)から、いよいよ今季最終のW杯シリーズ、あでやかなフライングの地プラニツァ(スロベニア)へと会場を移していく。
オーストリアの名門NH台フィラハから南に山ひとつを超えていくと、そこに、どかんと聳え立つフライングシャンツェ。それは壮観そのもの、ここでは清涼なる空気のもと、選手とつねに4~5万人を集める観客もすこぶる幸せな気持ちに包まれる。
近年、改修されて綺麗になったプラニツァFH台はフライトの高さもあって圧巻と言えるが、あの最後のフワフワ感は奪われてしまった。あとは、下から見て右側にある林間の切れ目から入ってくる一陣の突風に気を配りながら飛んでいけばよい。
昔、岡部孝信選手(現・雪印メグミルクスキー部コーチ)が、空中でそれにあおられてバーンに叩きつけられ気を失い、まるで人形のように流され落ちていった忌まわしき風である。それを覚えているジャンプファンもたくさんいるだろう。そのときはバーンが柔らかくて顔の腫れと身体の痛みくらいで難を逃れたが。

この地で、かつて国別対抗において圧勝を重ねた日本チーム。
あの栄光よ、再びである。

巨大な鳥の着ぐるみが、リズムに合わせてランディンバーンをピョンピョンと飛び跳ねるコミカルな様子と、大観衆の耳に軽やかに響くプラニツァ音頭(日本のジャンプファンが名付けたという話もあり)を肌で感じながら、いつものようにおおらかな気持ちで、レジェンド葛西紀明、絶好調な伊東大貴、小林潤志郎(雪印メグミルク)と小林陵侑(土屋ホーム)兄弟、竹内択に作山憲斗(北野建設)のビッグジャンプに希望を乗せてみたい。

岩瀬 孝文

ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。

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