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魅惑の札幌W杯3位表彰台にすっくと立ち、名門オスロ・ホルメンコーレンではあの濃霧を切り裂いて団体戦3位表彰台と、その良き勢いを持って北欧ノルウェーの港町トロンハイムでバッケンレコード143mタイ記録を飛び、いよいよ優勝の目が湧き上ってきた葛西紀明(土屋ホーム)だった。
続く、世界でいちばん飛距離を出せるといわれるヴィケルスン(ノルウェー)のフライングシリーズにおいても240m超えを打ち出すなど、その好調さをキープしていた。
「まんなか、狙っちゃいますよ。オスロ個人戦の代替を含めたヴィケルスンのフライング3試合、いけますよ!」
豪語に近いまでの、張り切った姿を見せてくれた。
そういう彼の意気込みに、ジャンプファンは皆が胸をときめかせていた。
ただ連戦の疲労が出てくるのはいたしかたない。240mオーバーをみせた翌日からは、ややパワーダウンとなった。
頑張ってやろうという、その気持ちは充分にわかるが全試合において表彰台を狙っていくことは欧州強豪選手揃いのなかでは、なかなか難しいのも事実だからだ。
無理をせずにケガをすることなく、気力体力ともにまっとうさせていく、そのようなスタンスが好ましい。
と、国内のファンはとみに暖かいまなざしで夢を追っている。
ここにきてノルウェーチームの躍進が止まらない。
ガングネス、ファンネメル、フォルファン、タンデなどが果敢に飛ばし、それも2月のオスロ、トロンハイム、ヴィケルスンFHと、いつも飛び慣れた地元の台を使うW杯で軒並み好成績をマークしての、強風と荒れた風雪にまみえるラハティ入りだ。ノルウェー勢はこのラハティ(2017世界選手権開催地)の団体戦と個人戦では、ともに表彰台の中央と上位独占を狙ってやまない。
対抗してくるのは、絶好調で他を寄せ付けない個人総合首位プレフツ兄ペテルに、得意のフライングで復調してきたロングジャンパーのクラニエツ、ヤングボーイのプレフツ弟ドメンなど実力ある選手が揃うスロベニア。
そこにマイペースながら調子が戻りつつあるフロイントと小柄なフライタクがリードしているドイツ。さらに仲良しクラフトとハインバックが2トップを織り成すオーストリアが続いていく状況。それを切り崩そうと狙いを定めるのが、我らがジャパン。
永遠のラストジャンパー葛西選手に、240m超えの大ジャンプを記録した竹内択(北野建設)あるいは次のW杯会場フィンランドのラハティが得意な伊東大貴(雪印メグミルク)、この遠征でW杯ポイントを得て自信を深めた栃本翔平(雪印メグミルク)などが、表彰台へ乗り込むべく大いなる奮闘をみせてくれそうだ。
国内では2月のバレンタインデー前に行なわれたUHB杯で、兄の小林潤志郎(雪印メグミルク)の追撃を振り切り圧勝を遂げた小林陵侑(土屋ホーム)が、ザコパネW杯第7位シングルの好調を維持している。当然ながら後半シリーズのW杯遠征にピックアップされる予定とみられたが、10代のうちに得られる世界ジュニア選手権のタイトルを握り、そこからのW杯転戦となっても遅くはないとの判断がなされたようだ。これは若手選手を大切に育成しようとのチーム戦略のひとつと言えそうだ。
「空中でスキーが進んでくれる感覚に包まれるのです」
その足の長さを利した、柔らかみを帯びたリョウユウ独特のクの字姿勢から、おおらかに空を伸びていくジャンプは、これまでの日本選手には見られなかったスタイルだ。そこは元フィンランドチーム五輪ヘッドコーチのヤンネ・バータイネンによるフィンランド技術のコーチングによって作り上げられた新テクニックでもあった。
それは地元岩手、松尾八幡平の頃から盛岡中央高に至るまでノルディック複合クロスカントリースキーを経験してきたことによる、足腰の強さに関連づけられる。
当時は、あれだけ嫌そうな表情満載で走っていたクロカンスキーだが、早くもその効果が現れている印象がある。小林陵侑は、それを見越してコーチングしていた岩手の指導者に感謝しなければなるまい。それに応えるにはW杯で順位を上げる、まずはそれからだ。
いよいよW杯は後半戦を迎えて、個人総合優勝とチームの国別対抗優勝に注目が集まってきている。
いまや王道を走るプレフツ(スロベニア)に、ロングジャンパーが揃うノルウェーチームが主軸となってきた。そこに安定のドイツとオーストリア、そしてここぞとばかりに優勝を狙う葛西紀明を中心にまとまりあふれる日本チームの躍進がある!
さあ、今季も最後までとことんジャパンを応援していこう。
岩瀬 孝文
ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。
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