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レジェンド葛西紀明(土屋ホーム)は、その顔に満面の笑みを浮かべていた。 そこで、おもむろに口を開く。
「あんまり、練習していないんですよね~」
夏場8月後半に開催された白馬サマーグランプリの2本目、さらには秋深い10月終わりの全日本選手権ラージヒルにおける2本目、ともに厳しい言い方をすれば失速であった。これが人気選手の辛いところ。 微笑どころではないのである。
シーズンオフの講演会は、北海道内はもとより全国各地におよび、さらにはテレビのバラエティ番組などへの出演でたびたび上京、その間はトレーニングを中断せざるを得なくなり、そこでいくばくかのストレスに悩まされる。 ただし普段から応援してくれるファンのみなさんと、人との出会いを大切にしている葛西選手だ。つねに、にこにこと応対にあたりそこに焦りはなかった。 しかし、試合で負けてしまうと、それは持ち前さだか勝負師の血が騒ぎまくる。悔しくてしょうがないのだった。
「冬、雪の上でのトレーニングですね。それで開幕戦に本調子を合わせていきますから、大丈夫ですよ! もちろんW杯優勝を狙って、あわよくば個人総合優勝も(笑)」
と、成田空港を旅立ち、向かった先はいつものクオピオ(フィンランド)。現在、コーチを務めるヤンネ・バータイネンの故郷である。そこで入念なまでに雪上のジャンプ練習を積み重ねて、11月21日と22日に行なわれるスキージャンプW杯開幕戦クリンゲンタール(ドイツ)へと猛然とアタックをかける。 考えてみれば彼は大ベテランである。そのあたりの調整には抜群のパワーを持っている。 メンタルを強く、43歳ならではのビッグジャンプを世界中の人々に分け与えたい。そのものいつまでも大らかに遠くへ飛んでいく。
「今シーズンの全日本チームウエアは、大好きな色合いですね。このブルーにイエローのラインが入っていて」
連盟の記者会見では、そう言って、冬シーズンに活躍する姿を髣髴させていた。
全日本チームには膝の故障から立ち直った伊東大貴(雪印メグミルク)、今季からゴーグルを変えた竹内択(北野建設)、秋口から調子を上げてきた小林潤志郎(雪印メグミルク)、サマーグランプリで個人総合初優勝を飾った作山憲斗(北野建設)に、中堅ながら意気軒昂な栃本翔平(雪印メグミルク)の6人が選出された。 とくに作山選手はスキーの長さをやや短めにあつらえ、空中でのスキーコントロールを重視しての成功であった。それは2シーズンかけての技術チェンジで開花となったのである。どの選手も、まずはクリンゲンタールでの団体戦における表彰台をめざしていきたい。
海外選手では、サマーグランプリをあくまで調整の一環として捉えて、全試合をまんべんなく出場することはまれで、ゲームを選択の上で出場する強豪選手がほとんどだった。 要するに、雪でのアプローチの滑りとその感覚が肝要であるとの意味合いが深くあった。 前年にW杯個人総合優勝を果たし、しかも2015ファルン世界選手権(スウェーデン)ではラージヒル金メダルのフロイント(ドイツ)や、W杯個人総合で2年連続の2位に終わり悔しさにまみれたプレフツ(スロベニア)、長距離ジャンパーを揃えたノルウェーでは小柄なファンネメルに長身のベルタなど硬軟取り混ぜての攻勢が見られそうだ。
これらを主軸に、まとまりあるドイツはフライタクの俊敏なジャンプに故障明けのヴェリンガーに注目、さらには実直なヴァンクら若手数名でまとめあげる。 強豪チームのオーストリアは若きクラフトにハイバックが台頭をみせ、W杯53勝の記録更新を狙うシュリーレンツアウアーが構える。そこにダミヤンやテペシュらが、しばしば上位につけるスロベニア、五輪金メダリストのストッフとジラなどが元気一杯にチーム力が上昇してきているポーランド勢にファンの目が集まる。 はたまた、「冬になれば、調子をしっかりと戻していくよ」と自信満々な表情のヤニ・クリンガヘッドコーチの下いまだアホネンが健在のフィンランド。さらにコウデルカが勇躍するチェコなど、それらの立ち上がりがどのようであるかが観戦のポイントになってくる。
また今季は冬季五輪や世界選手権がない年であり、団体戦が多く組まれるポストシーズン。そこで各国チームの実力とオリジナルのジャンプ技術、そこで現場でテストされる新しいマテリアルなどが、続々に見られることになりそうだ。
岩瀬 孝文
ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。
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