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どのようにみてもW杯個人総合3位には入るパワーを持ち合わせている葛西紀明(土屋ホーム)だ。しかも種目別のフライングでは個人総合で4位という惜しい順位につけた。
つねに欧州でたたえられるレジェンド葛西は、ジャンプの際には3オクターブ高い拍手が鳴りやまないほどの状況には変わりない。
今季はクーサモ・ルカ(フィンランド)での1勝に、ビショフスホーフェン(オーストリア)とホルメンコーレン(ノルウェー)における2位が2回など表彰台に昇ること6回になった。
そのもの夏場には、五輪メダル獲得による講演活動に精力的に動き、はなから練習不足が叫ばれてはいた。しかし、人が見ていないところでの集中したトレーニングと筋力アップ、およびこれまでの経験がものを言った。
「いまは、やり切った感がありますね。膝や腰の調子を見ながら、さらに調整を施してのシーズン、頑張ることができました。これは先に繋がりますね。着地のテレマークもていねいに入れていかなければ、そのコツもつかんで。また、空中姿勢も伸ばし気味な身体になってきているのがわかりました。そのあたりは落ち着いてもっと深く分析してみたい」
身体の様子を敏感にとらえ、その上で新しい技術を取り入れる。そのフレシキブルさは、さすがのカミカゼ・カサイであった。
日本チームでは竹内択(北野建設)の奮闘、安定する伊東大貴(雪印メグミルク)、一発がある小林潤志郎(雪印メグミルク)、伸び盛りの作山憲斗(北野建設)と、岡部孝信コーチによる指導でトップシーンに戻ってきた栃本翔平(雪印メグミルク)がトップメンバー。
ファルン世界選手権の悔しさをラハティ(フィンランド)団体戦3位で晴らした終盤戦の頑張りは見事であった。
ここにきてジャンプ技術が変わってきていて、いわゆる伸長型となった。これまでの空中における、くの字姿勢が消えてきていた。それはジャンプスーツの大きさが要因のひとつにあげられよう。さらにはクラニエツ(スロベニア)やストッフ(ポーランド)などのシルエットや小柄なクラフト(オーストリア)のスピードジャンプも加味されてのことである。
オーストリアは新ヘッドコーチのハインツ・クッティンと選手たちのコミュニケーションにもうしばらく時間がかかりそう。ハイベック、クラフトの若手の登用に、シュリレンツァウアーに迷いが生じていた。
ドイツはフロイントが個人総合優勝を成し遂げた。これはとみに安定しているサッツの技術と空中姿勢の安定が光る。これに故障中のベリンガーが完全復帰してくれば、さらにチームに強さが戻ってくる。
スロベニアはプレフツが同点優勝ながら、勝利数において2位に甘んじた。この悔しさをばねに来季こそはと奮起する。またチームでは若手が伸びてきているのがわかる。
ノルウェー勢は躍進を遂げたが、これまで叱咤激励してきたリーダー格のバーダルの引退にチームがどのように影響されるか。心優しきヒルデあるいは個性派のヤコブセンの去就に注目だ。
マテリアルでは来季はまたジャンプスーツのルールに変更の話が出てきている。これもシーズン直前にならなければその概要はつかみにくい。
また新型ヘルメットのジュルボは、フィンランドチーム上昇のきっかけになりそう。ベテランのアホネンにマータらが使う。そのジュルボはその軽量化はもとより、ミラーレンズの見やすさが要とか、目線を定めやすいとの話もでてきている。
そのフィンランド、2017ラハティ世界選手権は、安定した追い風にやや強風のまっとうな試合が予想される。ここは、日本チームが決して苦手とはしていない台だ。W杯では実力にあふれての団体戦3位表彰台だった。その経験充分に活かしていきたい。
スキーではフィッシャーがメイクしたロフラーはオレンジ系のカラーリングで鮮烈だった。
フィッシャーは、カラーを打ち出して市場活性を狙っていた。イメージづけでクロカンスキーとアルペンスキーの販売効果に役立つ欧州であった。そしてドイツ西部のスイス寄りのファクトリーで制作されている赤いSPORT2000にはどことなくアトミックの技術者が流れている印象、それもあのトップ部分の台形カットにその名残があるため。スロベニアで最終戦を制したユーリ・テペシュやユーレイ・ダミアンが実績を残した。それと青い爽やかなフリューゲも元ロシニョールジャンプスキーのサービスマンによるていねいなアテンドで開発が順調に進んでいる。
余談ではあるが、実際にはジャンプと複合にまったく承継のないスウェーデンにおいて、黙っていればがらがらの観客席の不安があった。そこで大挙してのチケット購買に貢献したノルウェーが勝利したファルン世界選手権という現実がある。
夢のあるように希望ある試合が理想なのだが。そこに応援で大観衆の国がしっかりとメダルを獲得するのであれば、なおさらうれしさは増してくる。
それにしても、いつものゴルドベルガーのカメラジャンプは、アプローチをしゃべりながら滑り降り、その伝統芸はORFでリアルに映像でアップされていた。これももはや名人芸であろう。
今シーズン最終の国内試合、伊藤杯ではジャンプでソルトレイクシティW杯において3位表彰台に立った吉岡和也(土屋ホーム)と、ラハティW杯複合で地元の強者ハンヌ・マンニネンを打ち破り2連勝を飾った高橋大斗(土屋ホーム)らの引退ジャンプがあった。彼らのやりきったという明るい笑顔に、大倉山はひとしきり感涙に包まれていた。
来季はビッグイベントのないシーズン、しかし、ここでの身体のメンテナンスに始まり、新マテリアルテストや技術のブラッシュアップが、その先に息づく。 そういう重要な時期、日本チームの躍進と葛西選手の頑張りによりいっそうの希望を持ちたい。
岩瀬 孝文
ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。
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