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やはりレジェンドがいなければW杯は始まらない。世界選手権をはさんだ3月の終盤戦、ここにきてぐいぐいと飛距離を伸ばしていく葛西紀明(土屋ホーム)だった。
「飛ぶたびに、しっくりくるんですね」
力んでサッツを外すことも少なく、これはいよいよ自分の域に入って、ジャンプをたのしく飛んでいる印象にもあった。こうなれば勢いは、もうとまらない。
「なんだか、イケそうですよ、プラニツァも!」
けっしてそれは驕り高ぶりではなかった。
そこまで幾度か取りざたされていたシーズン前の練習不足。あれは何だったのか、いや、たしかにジャンプを飛ぶ本数は減り、その分、日本各地でのジャンプの普及を基軸とした講演活動が続いていた。そのため、トレーニング時間が減少していた。
だが、カゲではひたむきにマシンルームを利用して体力作りにいそしみ、また飛べるときにはものすごく集中して、1本を大切にしながらジャンプしていたのは見て取れた。
さあ、迎えるは2年の月日をかけて新装となった巨大フライング台、あの北部スロベニアのプラニツァだ。ノルディック世界選手権開催の立候補では、ラハティ(フィンランド)やジーフェルド(オーストリア)に敗れてはいたが、誰もが認めるビッグなシャンツェ。 ここでは255mあたりから赤いラインが引かれ、この間に着地すると頑張ったね、と。もちろん滞空時間が長く、風に乗りさえすればいったいどこまで飛距離を伸ばして…。
ただ、天候により北からの横風がひどく、危険を回避して安全に飛ぶことが第一との考え方もある。とはいえシーズン最終戦それは皆、攻めてなんぼの飛ばし合いがみられる。そんなシーズン最終のお祭りであるプラニツァ。近隣のオーストリア、イタリアから4万人とも5万人にもなる大観衆が訪れ、みるからに怪しそうな焼き肉を売る屋台やビールの立ち飲みで大騒ぎな売店などなどおおいに賑わう地なのだ。
現在は、ノルウェーのビケルスン行なわれたフライングW杯で251.5mの世界最高記録をたたき出したファンネメル(ノルウェー)が膝の故障をものともせずに、このNEWプラニツァのスタート台に立つ。
同時に各国のスペシャリストがここで、とのライング勇者たちがこぞって最長飛距離を狙う。W杯上位ではコウデルカ(チェコ)やもともとこの地を得意とするクラニエツ(スロベニア)、また飛ばし屋のノルウェー勢では小柄なベルタを始め、フォルファン、スティアンセン、ガングネスらもロングジャンプを狙う。
あるいはシュリーレンツァウナー(オーストリア)そして地道に技術改革を施している大ベテランのアホネン(フィンランド)なども。
木曜日の予選を観てみれば、やはり飛び慣れているであろうスロベニア勢が一歩リードしている。テペシュが233.5mを記録しプレフツは238.5mを飛んで余裕の表情だ。それに勢いあふれる若手数名も軽々と飛ばしていく。 魅惑のプラニツァ、最終的には下の220m付近にたまに吹き上がる風をつかめるかどうかで、最後のひと伸び、すなわちオーバー250mの期待感でいっぱいになる。
また今週には、ノルウェーチームのリーダー的存在で、つねに若い選手たちを叱咤激励しながら、ファルン世界選手権ラージヒル団体戦を制したバーダルが、今シーズン限りでの引退を表明した。北の港湾都市トロンハイムの出身で、長身の人気選手だ。
W杯個人総合優勝争はフロイント(ドイツ)とプレフツ(スロベニア)の2トップ、さらにフライングを得意とする小柄なクラフト(オーストリア)が持ち前のスピードジャンプで、踏ん張ってという形で進む。
ただ、ポイント差からみて、とみに安定してきているフライトのフロイントに、地元の大声援を受けて逆転といきたいプレフツとの好勝負となってきそうだ。
日本勢はホルメンコーレンで強さを発揮できた分、もし強風であった場合は無理せずに終わらせたいところか、しかしそれでも狙っていくだろうカミカゼ・カサイ!予選はキャンセルして心の集中にあたっていた。
夢追い人とは、そうでなくては。
それが欧州でレジェント言われる所以であるから。
岩瀬 孝文
ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。
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