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その扇を開いた形の斬新なラージヒル台に特徴がみられるホルメンコーレン。
かつて、90年代に葛西紀明(土屋ホーム)と欧州の人気選手アンドレアス・ゴルドベルガー(オーストリア)が幾度にもわたり雌雄を決した伝統あふれるジャンプ台だ。
オスロ市内から白塗りのスタートハウスがきれいに眺め上げられ、ホルメンコーレンの丘として観光名所になっていた。ここにクロスカントリーの名門ロングコースとスタジアムがあり、その周回コースの南側にどっしりと構えるのがLHシャンツェだった。
特別な警備に守られた国王ファミリーがしばしば観戦に訪れ、軍楽隊が整然と太鼓を打ち鳴らして行進をする。また以前であれば選手のスタートを知らせるために、美しい音色のホーンが1回鳴らされていた実に情緒あふれる台である。
いまや3月恒例のW杯ノルディックトーナメントは、フィンランドのラハティとクオピオ、ノルウェーのトロンハイムとホルメンコーレンの4試合でひとつのタイトルゲームとしていた。これは年末年始のジャンプ週間と同様に約1週間のうちに4試合をこなす、いわばシーズンの仕上げで、なかなかタフになるゲームだった。
今月、日本チームは幸先よく、ラハティで団体戦3位の表彰台に上がった。
これであの風が乱れに乱れ続けていた2015ファルン世界選手権の鬱憤を思う存分に晴らしてくれた。現在の日本は実力ある強国、それはその確かな証明でもあった。
そのラハティから北へ移動した内陸部のクオピオはいつもの強風に見舞われ、予選は延期、そして珍しいケースだが、試合はノーマルヒルに変更された。
当地は長野飯山の中学を卒業後にフィンランドへジャンプ留学した地元プイヨ・クオピオ、練習でよく使用していた台を竹内択(北野建設)は、しっかりと飛び抜けて第5位に入賞を果たした。
好調のまま終盤戦を迎えたのはクオピオでイエロービブを奪回したクラフト(オーストリア)、そこにすこぶる安定するジャンプを見せる巨人フロイント(ドイツ)。さらには気迫の精鋭プレフツ(スロベニア)だ。個人総合優勝のタイトル争いは最終戦シリーズで、オーバー250mの新装となったフライング台、スロベニアのプラニツァまで持ちこまれそうな状況になってきている。
そうなると、地元プラニツァで良き風をつかむべくスペシャルにトレーニングしているといわれるプレフツが優位に立つか。いつになく手に汗握る三つ巴の展開となりそう。
他の有力選手ではバーダル、ベルタなどのノルウェー勢が世界選手権のメダル獲得から勢いの波に乗り続けてラハティ団体戦で優勝。ただ、今季ビケルスンで251.5mの世界最長飛距離を記録したファンネメルが右膝の故障気味となったのが気がかりだ。
また人気あるベテラン選手では、アホネン(フィンランド)が静かに闘志を燃やしつつ、一歩一歩、上昇してきている。そして転倒後の顔面制動によるケガでしばらく離脱していた明るさのアマン(スイス)は、クオピオでバッケンレコードの106mを記録していきなりの表彰台3位。可愛らしい表情のクラフトと仲良く台に並んだ。
注目の新鋭はラハティで8位を記録したフィンランド地元のヤルコ・マータだ。ここからヤニ・クリンガヘッドコーチ率いるフィンランドチームの復活が望まれる。
さらには、学生デズマン(スロベニア)の伸長もどのようであろうか。あるいは若手のポッピンガー(オーストリア)あたりにも注目が集まる。
日本選手では、竹内は順当に上位につけ続け、伊東大貴(雪印メグミルク)は少々疲れの見える後半戦で、やや膝を気にしながらの丁寧なジャンプで攻め、コンスタントに上位入り。小林潤志郎(雪印メグミルク)は順風に乗ると一発を秘める。この遠征からトップチームに返り咲いた栃本翔平(雪印メグミルク)は新しいフリューゲスキーと、所属の岡部孝信コーチの綿密な指導が功を奏して着実にステップアップを果たしている。
そしてレジェンド葛西の膝も気になるところだが、その疲労回復とボディコントロールには熟練の妙が見られ始め、ビケルスンのW杯フライングでは、なんと240.5m自己最長記録を打ち出した。
「目の前でファンネメルに251.5mを出されたので、それが悔しくて(笑)、だから、とことん狙っていきますよ」
さすがのカミカゼ・カサイ、いつまでも意気貢献そのものだ。
このホルメンコーレンは葛西にとって昔から飛び慣れているところ。たとえ新型シャンツェに改修されていても、太陽光線の角度、はたまた濃霧の状態、風の方向までを熟知する親しみあふれる魅惑のシャンツェ。
ここで表彰台にのぼり、いまやテレビ用映像のフォアジャンパーを務めるオーストリア国営放送ORFのジャンプ解説者ゴルディから称賛の嵐といこう。
いまや絶好調のノルウェーとあってよりたくさんの観衆がホルメンコーレンにやってきそうだ。もともとのクロスカントリースキーで、長距離種目の聖地。人々は山深くまで入り、コースサイドから国旗をふるい大声援をおくる。スキー競技の観戦術であれば、ここから学べる部分がたくさんある。ほどよく飲みながらも、自然豊かに、心の通う応援スタイルが各所に見られるのである。
それはジャンプ台においてもしかり、選手の珠玉の1本に一喜一憂する観客の姿は、北欧ノルディック本場さながらの光景となっている。
岩瀬 孝文
ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。
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