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それは北部ドイツの田舎町にあった。 スキー観光地の中心部エリアから、観衆がそれこそ4列縦隊になって雪道をてくてくと行進、約30分歩いていく。それも山裾沿いを。しばらくして町場からぐるりと180度の裏側に、その巨大なラージヒルシャンツェンがどっしりしつつ顔を出す。
専門的に言えば、とにかく面(つら)の長いジャンプ台だ。 しかもランディングがフラットではなく、着地120mあたりから、だらだらと斜めにひたすらに長く下り坂になっている。 かつては、ヤンネ・アホネン(フィンランド)やアダム・マリシュ(ポーランド)らが、オーバー150mのあたりで雌雄を決したことがある『飛ばせ台』。ここで過去には葛西紀明(土屋ホーム)も優勝に輝いている。
広大な場内にはゆうに4~5万人もの大観衆が入り、遠くフランクフルトの大都市や周辺の都市や町からもこぞって観客がやってくる。しかも北ドイツ在住の日本人ビジネスマン家族なども日の丸を持ってここに集う。 風は順風もあれば、吹きおろしになる場合もあり、そのときの気象状況によって変化がみられる。通常であれば良き向かい風で150m超えのロングジャンプで大いに盛り上がりなのであるが、現在の飛距離としては危険がないように程よくコントロールされている。
このビッグヒルで優位に立つのは地元で飛び慣れているドイツ勢。主力のフロイントは、ファーイーストであるW杯札幌大会をキャンセルして、体調万全で大観衆の期待に応えようとしている。さらにW杯優勝経験のあるフライタクに、アイゼンビヒラーやガイガーの若手、そこに故障中のべリンガーが復帰してくれば盤石なのであるが。ベテランのノイマイアと中堅ヴァンクなどによる安定路線でぬかりない印象。
オーストリアは、遠路、W杯札幌大会に出場してイエロービブをキープするクラフトと、ハイベックのいまや2トップをメインに団体戦の組み立てが可能。これには今シーズン新たに就任したクッティンヘッドコーチの腕の見せ所になってきそう。そこにシュリーレンツアウァーをからませ、あとのひとりにベテランのコフラーないしは、ディートハルトやフェットナーにポッピンガーなのか、その選択が優勝への足掛かり。
昔ながらの一発の飛ばし屋がたくさん控えるノルウェーは、手首の故障でバーダルが欠場しているもののベテランのヒルデを筆頭に、ファンネメルやフォルファン、新鋭ショーンがおおらかに飛んでくれそうだ。 さらに上位を伺ってくるのは強者プレフツ、テペシュ、ダミアン、クラニエツなどと豊富にコマが揃うスロベニアは、プレフツのW杯札幌大会優勝でいよいよ団体戦、連続の表彰台を狙える好位置にきている。 あるいは五輪メダリストの強豪ストッフが足首のケガから復帰して一気にチーム力が上昇するポーランドは加えてコット、ジラ、ジオブロなどが意気揚々と構える。
もしかすると欧州と札幌間の移動に起因する疲労感が充満していた日本チームは、最近の定位置となる6位なのだろうか。 メンバーは伊東大貴(雪印メグミルク)、竹内択(北野建設)、エースのレジェンド葛西紀明。そして2番手には作山憲斗(北野建設)もしくは国内大会を好調で乗り切って遠征組の清水礼留飛(雪印メグミルク)と入れ替えになった栃本翔平(雪印メグミルク)を置くのが妥当か、あるいは遠征先のユニバーシアードから合流する小林潤志郎(雪印メグミルク)か、それも現地での調子の良さが優先されそう。 願うことなら、2月後半に行なわれるファルン世界選手権(スウェーデン)までに、ここらあたりで表彰台に上がっておきたい日本、そしてまことしやかにチーム力をアピールできればしめたものだが。
もともと排他的な感覚がある北部ドイツなだけに、ビリンゲンにあるプレスハウスでも、どことなく居心地がよろしくなく、それも風土によるものかと思ったりした。ただ、それでもバイアスロンの聖地オーベルホフよりはましではあるが。これはよくいう南ドイツのバイエルン地方にある4ヒルズ開幕戦の街オーベストドルフや、ミュンヘン近郊のスキー保養地ガルミッシュ・パルテンキルヘンの方が落ち着くことうけあいだ。
まずは大型LHジャンプ台のビリンゲンで、超ビッグフライトを堪能しよう。
岩瀬 孝文
ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。
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