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その昔、W杯個人総合優勝争いの渦中にあった葛西紀明(土屋ホーム)にとって、因縁のリレハンメル(ノルウェー)。練習中に風にあおられ、着地直前に肩から落ちて鎖骨骨折。そのシーズンを棒に振った。このときはライバルのアンドレアス・ゴルドベルガー(オーストリア)が個人総合優勝を遂げた。
そんないわくつきのシャンツェではあったが、開幕戦は見るからに伸びやかにジャンプして、ノーマルヒル19位。そしてラージヒルでは日本選手トップの10位に入る健闘をみせた。
「大ベテラン40歳のカサイ、伝説のカサイだ!」
試合会場やテレビではそう何度も繰り返され、これが日本活躍の序章になった。
直後うれしいことに女子NHでは高梨沙羅(グレースマウンテン・インターナショナルスクール)がサラ・ヘンドリクソン(アメリカ)を抑えて優勝、伊藤有希(下川商高)が緊張しながらも着実に飛距離を伸ばしてきた。
他ではインサムの女子イタリアチームの強さが際立った。これは来年2月に開催されるバルディ・フィエンメ世界選手権へ向けた強化策が成功し、選手強化費も潤沢な好循環。しかもノルウェーの人気選手サゲンも好調、加えて爆発力あるオーストリアなど、これで俄然、2013世界選手権の男女ミックス団体が面白くなってきた。
このミックス団体において、日本チームは確実に表彰台を狙える。竹内択(北野建設)に葛西、清水礼留飛(雪印メグミルク)、渡瀬雄太(雪印メグミルク)の4選手がW杯にてコンスタントに30位以内に入り、ポイントを積み重ねていくことがそのベースとなる。
新ジャンプスーツに関しては、有力選手のコフラー(オーストリア)がミックス団体戦で失格、これはサイズ違反であった。いわゆる昨シーズン見られたスーツのふくらみを利した後半のひと伸び、それがなくなったための焦りがみられた格好か。
日本選手は夏場から-6㎝に慣れていた上に、再変更の+2㎝であるから、そこに余裕が生まれていた。そして先週クーサモW杯での、ひとケタ入りをみせた竹内と葛西だった。
今シーズン、好調とされるのはオーストリアのシュリレンツアウナーとモルゲンシュテルン、さらに復調したヤコブセンに強者バーダルと小柄な新鋭フランメルのノルウェー勢。
また勝者フロイントに若きヴェリンガーと、ドイツは魅力あるチームづくりができている。さらには気鋭のフバラとテペシュのスロベニアに注目したい。
ところが、有力選手のコウデルカ(チェコ)とクラニエツ(ポーランド)は新スーツによる迷いがみられ、前半は下落を余儀なくされている。
そしてコイブランタとハポネンなど有力選手に故障続出のフィンランドは、地元のクーサモでありながらチームから元気が消え、立ち直りにはしばらく時間が必要。
今週末のソチW杯(ロシア)は五輪一年前のプレオリンピックに位置づけられる。
現地の雪は少なく、ノーマルヒルに微妙な按配で張り付けられたのみ。つまり暖冬気味にあること。これで風が読めなくなってきている。冷えてきりりと、はりつめた空気と雪質であれば風の流れがまったく違ってくる。今回のW杯では、ほぼこれを体験できない。
しかも今週末にソチで開催される種目はラージヒルにあらずノーマルヒルのみ。これは何を指し示すかといえば、本番の五輪までベールに包まれた形のラージヒルシャンツェということ。もちろん地元のロシア選手はここでふんだんに練習ができる。それにより他国選手はサマーシーズンに、ほんの数本ジャンプしたのみという厳しい条件下に置かれる。
特にソチの南斜面は五輪のナイトゲームとなれば、風向きそして強さの急激な変化が予想される。気温と雪温の違いにアプローチでのスキーの滑走、さらに、ソチ五輪を想定してシャンツェに慣れることが肝心なのだが、いかんせん今回はノーマルヒル。そこからの来季2014五輪への対応は、開催地のロシアチームを除く欧州列強の各国は、ともに相当の負担を強いられることになりそうだ。
(Text & Photo by 岩瀬孝文)
岩瀬 孝文
ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。
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