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~アルゼンチン代表の“闘魂”パブロ・マテーラ~ 「ラグビーワールドカップ」「日本代表」への思い
“最強ラガーマン”列伝 ~ラグビーW杯2023~ by 多羅 正崇パブロ・マテーラパブロ(三重ホンダヒート)
アルゼンチン代表で91キャップを重ねる、三重ホンダヒートのパブロ・マテーラに独占インタビュー!
ラグビーワールドカップ(RWC)は2015年から2大会に出場。2019年大会では主将を務めた世界的なバックローワー(フランカー、ナンバーエイト)だ。
アメリカ大陸最強国、「ロス・プーマス」の愛称を持つアルゼンチン代表は、今年9月に開幕するRWC2023フランス大会で日本代表と同組。プール最終戦で激突する相手。
アルゼンチン代表の元キャプテンは日本代表をどう見ているのか?リーグワンの印象は?
パブロ・マテーラ
190cm111kgの熱血漢が、紳士的な語り口で大いに語ってくれた。
「日本代表は強い」。ボール保持した上でのゲームコントロール、アタックに警戒感
――いよいよ9月にRWC2023フランス大会が開幕します。ぜひプールステージ最終戦で対戦する日本代表の印象を教えてください。
日本が長けている点は、ボールキープをしてポゼッション(ボール保持率)を高めた上で、ゲームを上手くコントロールすることだと思います。
その中でアタックをすることに彼らの強みが出ている印象です。日本代表がボールを保持して長くアタックすれば、我々は長くディフェンスすることになり疲弊してしまうと思っています。
ラグビーワールドカップ2023 特集ページ
――印象に残っている日本代表の試合は?
一つを選ぶことが難しいくらい良い試合が多いですね。やはり2015年の南アフリカ代表戦を最もよく憶えています。ただ2019年の日本大会ではスコットランド代表、アイルランド代表に勝ちました。2022年もニュージーランド代表を相手に素晴らしいパフォーマンス(31-38で惜敗)をしました。
たくさん良いゲームをしており、日本代表は毎年どんどん強くなっていると思います。
――警戒している日本代表選手がいれば教えてください。
これも一人を選ぶことが難しいです。日本代表は1人、2人の強いボールキャリアーがいる分かりやすいチームというより、全員が一つのチームとして共にプレーしている印象です。チームとして機能しようとする意識を感じます。
とにかく日本代表は強いチームである、という認識を持っています。リーグワンに参加して感じていることは、プロチームがあり、プロ選手がたくさんいるということ。日本代表は倒すことが難しいチームであるという印象が強くなりました。
2007年フランス大会で芽生えた憧れ。「いつかプーマスでプレーしたい」
――RWCは過去2大会(2015、2019)に出場。最高の思い出は?
アイルランドと対戦した2015年の準々決勝ですね。会場はカーディフ(ウェールズ)で、ほとんどお客さんがアイルランドのサポーターでした。しかし我々は23点差(43-20)をつけて準決勝進出を決めました(準決勝ではオーストラリアに29-15で敗戦)。
2015年大会では、アルゼンチンで最も有名なラグビー選手の一人といってもいいエルナンデス(SO/CTBファン・マルティン・エルナンデス)ともプレーできました。2007年のフランス大会で見ていた選手だったので、夢が叶ったような気持ちでした。
――そのRWC2007フランス大会で、アルゼンチンは初の3位という快挙を達成しましたね。
それまでアルゼンチンがその順位(3位)に達したことはなかったので、アルゼンチン国内ではすごく大きな影響がありました。
3位決定戦ではアルゼンチンが初めてフランスに勝ちました(34-10)。私は当時14歳で、自分もいつかプーマス(ラグビーアルゼンチン代表)でプレーしたい、という思いが育まれた大会でした。
ラグビーワールドカップ2019 フランスvsアルゼンチン
――イングランド、フランスと同組になった前回のRWC日本大会については、どんな思いがありますか?
残念ながら日本でのワールドカップは最高の結果、パフォーマンスではありませんでした(プールステージ敗退)。しかし自分の国を代表してプレーできたことは誇りに思っています。次に繋がる学びも多く、我々を次のステージに運んでくれたと思っています。
アルゼンチン代表の強みを一つ挙げるなら「フィジカル」
――自身3回目となるRWC2023へ向けては、元オーストラリア代表指揮官のマイケル・チェイカさんがHC(ヘッドコーチ)に就任しましたね。
アシスタントコーチとしてアルゼンチン代表にいた時から、本当に素晴らしいコーチでした。彼がヘッドコーチになり、これから新しい試みも増えていくと思います。よりエキサイティングなラグビーになりそうです。今年もチームは大きな成長を遂げると思います。
――あらためてアルゼンチン代表の強みを教えてください。
強みを一つ挙げるのであれば、とにかく我々はフィジカルが強いチームである、ということです。大きくて素晴らしいフォワードがいて、スキルも豊かな大きいバックスがいます。
また才能も豊かであり、15のポジションには世界でも有数のプレイヤーがいます。フルバックのエミリアーノ・ボフェリ(28歳)もその一人です。スタンドオフには若いサンティアゴ・カレーラス(25歳)もいます。
ワールドカップを3、4大会経験している選手もいれば2回目、初めての選手もおり、若手とベテランのバランスが良いチームでもあります。
三重ホンダヒートでリーグ戦全試合出場。証明したいのは「一番強いのは我々」
――イングランド(レスター・タイガース)、フランス(スタッド・フランセ)、ニュージーランド(クルセイダーズ)を渡り歩き、今季はディビジョン2(D2)の三重ホンダヒートに新加入。日本のリーグに初参戦しています。
まず日本での時間を楽しんでいます。毎日クラブハウスに来て練習する環境がすごく好きです。チームメイトの日本人選手は心からラグビーを楽しみ、仕事に対する熱意も素晴らしく、プレイヤーとしての向上心があります。
――日本のラグビーの印象は?
とにかく展開が速いですね。日本の速い展開のラグビーは新しい挑戦でした。とにかく学ぶことが多く、自分のことをより良いラグビー選手にしてくれると感じています。また同時にリーグワンでのプレーをすごく楽しんでいます。
――今季はここまでリーグ戦全9試合(中止1試合)に出場してリーグ戦2位に貢献。これから順位決定戦、ディビジョン1チームとの入替戦が待っています(インタビュー実施日は3月末)。
我々、三重ホンダヒートには大きな志があり、強いチームだということを信じています。一番強いのは我々であることを証明し、ディビジョン2でチャンピオンになり、ディビジョン1昇格に繋げていきたいです。
――ちなみにチーム本拠地がある鈴鹿市のお気に入りスポットは?
鈴鹿サーキットが一番お気に入りの場所です。すでに年間パスポートを購入してしまいました(笑)。家族と一緒に行って乗り物に乗ったり、楽しい時間を過ごし、レースがあれば観戦しています。
「生まれた時からボールを蹴る」。並々ならぬサッカー愛
――ご家族の話が出ましたが、今年2人目の男の子が生まれたそうですね!
そうです。長男はフランス生まれ、次男は日本生まれになりました。
次男が生まれた日はとてもストレスを感じましたが、すべて順調に物事が進んだので本当に良かったです。自分の奥さんも子どもも健康でいてくれています。出産を通して、日本の医療システムの素晴らしさも知りました。日本での出産はベストな選択だったと思っています。
――ちなみに昨年(2022年)サッカーアルゼンチン代表がワールドカップで優勝(36年ぶり3回目)しましたね!
優勝した日(12月19日。日本時間午前0時キックオフ)は日本にいて、深夜に起きなければならないのですごく大変でした。
優勝した時は本当に素晴らしいフィーリングを得ました。子供の頃からサッカー代表のファンなのですごく誇りに思いました。同じことがラグビーに起きればいいなと思っています。
――サッカー歴を教えてください。
私は人生を通してずっとサッカーをプレーしています。アルゼンチンでもサッカーチームに所属し、参加できる大会は9番のストライカーとして全て出場しています。今年もトーナメントに参加する予定で、1、2試合に出場できたらと思っています。
――ラグビーのアルゼンチン代表に優秀なキッカーが多いのは、サッカー経験者が多いからでしょうか?
そうだと思います(笑)。アルゼンチンでは生まれた時からボールを蹴ることを覚えます。ボールを蹴ることに対しての抵抗はありませんし、恐怖感もなく、難しいとも感じません。
フォワードの選手であってもキックに対する恐怖心はないです。プレースキックを蹴ってほしいと言われたら、もちろん私も簡単にできます(笑)。
――お子さん達に最初にプレーさせたいスポーツは、ラグビーとサッカー、どちらですか?
両方です(笑)。
激戦のプールD。最高のシナリオは「日本とプレーオフ進出」
――いよいよ今年9月にRWC2023フランス大会が開幕します。あらためてマテーラ選手にとってRWCとは?
ラグビーワールドカップは間違いなくラグビーにおける最も大きな大会です。選手は国のために戦える名誉を手に入れることができます。また同時に、日頃の練習の成果を発揮する舞台でもあります。
大会に参加するチームは、プレッシャーなど様々な感情を味わいます。そこも含めてマネジメントしたチームが、一番強いチームになると思います。
――プールステージではイングランド、日本、サモア、チリと同組です。意気込みを教えてください。
私たちはとても競争率が高いプールに入りました。前回大会ではフランス、イングランドと同じグループに入り、我々はそこに対処できず敗れ去りました。
今回も同じようにイングランドがいて、日本という強いチームがおり、我々にとってとてもタフな挑戦になります。
我々はプールステージの最終戦で日本と試合になることになります。もしかしたら、そこで決勝ラウンド進出をかけて戦うようなゲームになるかもしれません。ただ私が思い描いている最高のシナリオは、日本代表と我々か共にプレーオフ・トーナメントに進出することです。
我々としては、まず必ずイングランドを倒すというマインドセットを持っています。まずイングランドとの試合にフォーカスをし、大会の中で大きなチャレンジを続けていきたいと思っています。
情熱的なイメージが先行するマテーラだが、インタビューでは、母国語(スペイン語)ではない英語で、的確に淡々と語る姿が印象的だった。
リーグワン、三重ホンダヒートの選手たち、そして日本代表へのリスペクトも忘れない、知性と野性を併せ持った29歳。リーグワン入替戦での闘いぶり、そしてRWC2023における日本代表との対決が待ちきれない。
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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