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サッカー フットサル コラム 2025年5月13日

指揮官が口にした「大切な人に誇れる言動や行動をしよう」という言葉の意味。帝京長岡の選手たちが粘り強く贈った“母の日のプレゼント 高円宮杯プレミアリーグWEST 帝京長岡高校×神村学園高校マッチレビュー

土屋雅史コラム by 土屋 雅史
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今シーズン初の連勝を飾った帝京長岡高校

3連敗中という苦境に立たされて迎えた、前節の大津高校戦。3月のサニックス杯で1-6という屈辱的な大敗を喫した相手に、粘り強く勝ち切った試合後。帝京長岡高校を率いる古沢徹監督は、こんな話を選手たちに向けて口にしたという。

「今回の試合前にサニックスの話はしなかったんです。試合が終わってから『あの時に「3か月やってきたこと」という話をしたけれども、ここで勝点3を獲れたということは、その“3か月”で少し誇れる部分があったから、この1か月で何とか頑張れたんじゃないか』と。『ただ、今度は3か月後にインターハイでまた大津とやることがあったら、今のままではたぶん勝てないから、そこでどう変えていくかというところだね』と。だからこそ、『大切な人に誇れる言動や行動をしよう』と。『もう自分次第だよ』という話は選手にさせていただきました」

指揮官が語った「3か月やってきたこと」という言葉の意味は、少し説明が必要だろう。昨シーズンの帝京長岡はインターハイでベスト4に入り、高校選手権でも悲願の日本一を狙い得る陣容を揃えていたものの、県予選の準決勝でまさかの敗退。冬の全国切符を逃してしまう。

その時点でまだプレミアリーグのシーズンは4試合が残されていたが、古沢監督は52人の3年生に対して、その4試合を1,2年生で戦いたいという自身の意思を伝え、頭を下げて納得してもらう。後輩たちのことを考えた“先輩”たちの厚意によって、新チームは一足早く貴重な360分の真剣勝負を経験することになった。

ゆえに、指揮官はサニックス杯の大津戦のピッチに立った選手たちに、我慢できなかった。それは1-6という結果に対してではない。戦わない姿勢に、ビビっているメンタルに、だ。

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帝京長岡高校を率いる古沢徹監督

「これがオマエたちがやってきた3か月の結果だ。3か月やってきたことの答えだ。自分で気づかないと何も変わらないんだよ」。古沢監督から厳しいメッセージを投げかけられ、中澤昊介は改めて自分を変える必要性を痛感していた。「フルさんに『オマエらのやってきたことは全然ダメだから』と言われて、『本当にそうだな。変わらなきゃいけないな』と感じました」。選手たちはもう一度自分たちの原点を、足元を、見つめ直す必要性に迫られていた。

それから1か月半。5月6日。リーグ戦は5試合を消化して1勝4敗。しかも前述したように3連敗中というシビアな状況で、帝京長岡は大津とのリターンマッチに挑むことになる。

「去年のプレミアでも大敗していたので、それも含めてサニックスの時は勝ちたいなと思っていたんですけど、そこでも大敗して、そのあとのチームのミーティングでも、『次の大津戦で絶対に勝とう』という話をして、この1か月はやってきました」(桑原脩斗)。まさにチームの真価が問われる90分間。今シーズンのこれからを大きく左右するような一戦だったことは間違いない。

帝京長岡の選手たちは、走った。戦った。諦めずに、何度倒れても、相手に立ち向かった。執念は実る。77分に1年生ストライカー児山雅稀のゴールで勝ち越すと、11人全員でそのリードを守り切る。

「本当に全員が一丸となって勝てたなと思います。ここで大津に勝てたことで、自分たちの中に大きなものが生まれたのかなと。あの勝利はここから先のシーズンにも、良い形で持っていける自信になるのかなと思いました」とは樋口汐音。前年のプレミア王者に果たしたリベンジ。ようやく彼らは少しだけ、自分たちに対する自信を取り戻した。

5月11日。今季初の連勝を懸けて臨んだホームゲーム。神村学園高校を相手に、帝京長岡は序盤から怯まない。GKの仲七璃が再三のファインセーブを見せれば、西馬礼が、桑原が、周囲を鼓舞する声を出し続ける。38分には樋口の先制ゴールでリードをもぎ取り、以降も丁寧に、丁寧に、時計の針を進めていく。

終盤は追い付きたいアウェイチームも出力を高めたものの、緑のコンセントレーションは途切れない。「前回の大津戦から続けて守備陣の集中力も凄く高くて、最後のところで身体を張ってゴールを守るところは本当に良かったと思います」(仲)「大津戦もみんなで身体を張って守れていたので、前節からだいぶみんなの意識が変わって、それが今日の試合も出て良かったと思います」(桑原)

スコアはそのまま1-0で終了。帝京長岡は7試合目にして初めてのクリーンシートを記録し、同時に連勝も達成。試合後にはスタンドから声援を送り続けたチームメイトたちとともに、歌い、飛び跳ね、笑顔で勝利の歓喜に酔いしれた。

ようやく今後への光が見え始めた今、古沢監督が口にした「大切な人に誇れる言動や行動をしよう」というメッセージは、選手たちにどう響いているのだろうか。彼らに直接その質問をぶつけると、こんな答えが返ってきた。

「自分の一番大切な人はもちろん家族なんですけど、地元の富山で一緒にサッカーをやっていた子たちが、試合の前にいつも『頑張れよ』とかLINEをくれたりして、そういうことが本当に力になるので、それに対して結果という形で恩返ししたいなと思いますし、地元のヤツらにはいつも勝利を届けたいなと思っています」(樋口)

「自分はそれを聞いて、一番は『仲間のために頑張りたいな』って。今日は勝ったら北信越大会に行けるというフットサルの試合に行っている仲間もいて、自分たちの試合を応援してくれる仲間もいて、自分の親ではないですけど、応援しに来てくれた保護者の方もいて、そういう人たちと一緒に最後にああいう形で歌えてよかったと思います」(桑原)

「自分の中で大切な人というと、いつも応援してくれる仲間とスタッフと、あとは家族が一番に思い浮かびます。今日も家族が遠くから見に来てくれましたし、これからもしっかり成長した姿を見せられるように1試合1試合頑張っていきたいと思います。今日は母の日なので、勝てて良かったです」(中澤)

会場に来ることは叶わなくても、彼らの活躍を、彼らの勝利を願っている人たちのパワーは、間違いなくピッチの中まで届いている。帝京長岡の選手たちが長岡の地から贈った『母の日のプレゼント』も、きっといつも彼らを陰日向から見守り続けているお母さんたちの元へ、しっかり届いたに違いない。

 

文:土屋雅史

土屋 雅史

土屋 雅史

1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。

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