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ビジャレアル対レアル・ソシエダ
ボール出しもそれへのプレスも成功すれば大きなチャンスになるが、失敗すれば大きなピンチになる。「両刃の剣」であることが良くわかったビジャレアル対ソシエダだった。
ともにボールをよく繋ぐチーム(支配率は52%対48%)だが、ボール出しへのこだわりに違いがある。ビジャレアルのセティエンはリスクを負ってもとことん繋がせる監督だが、ソシエダのアルグアシル監督は時にロングボールを蹴らせる。
自分のサッカーにこだわる点では両者とも同じなのだが、アルグアシルの方が現実的で柔軟で、セティエンの方が理想主義的で一徹である。
その性格の違いが攻防に反映していた。
ソシエダは2トップのセルロートと久保が両CBマンディとパウ・トーレスへプレスを掛けるだけでなく、GKレイナへのバックパスも追い掛けた。ボール出しの要パレホはきっちりシルバがマークしていた。それでもソシエダの3人(セルロート、久保、シルバ)に対して、ビジャレアルは4人(レイナ、マンディ、パウ、パレホ)なので数的優位ではある。なので、その優位さを利用してボールを出そうとした。
例えばこういうふうに。
レイナがパレホにパスを出し、パレホがワンタッチでレイナに戻すと、マンディをマークしたセルロートが詰めて来るので、マークが外れたマンディにレイナが間一髪パスを通す──これでボール出しは成功である。
この間のほとんどのアクションはワンタッチで行われ、GKへの危険なバックパスが2本もある。誰かがミスをすればセルロートや久保が即GKと1対1になり、ほぼ失点である。
なので、普通の監督ならレイナにロングキックをさせるのだが、セティエンはさせない。させないとわかっているから、アルグアシルも容赦なくプレスを命じる。
プレスをかわしたビジャレアルがリスクと引き換えに得るのは、目の前に広がっている広大なスペースである。
前掛かりになるソシエダは最終ラインをハーフライン付近まで上げる必要がある。必然的に、背後に大きなスペースが生まれる。裏へボールを送られると、CFモラレスとGKレミロの1対1がたちまちできてしまう。また、ボールを前に運ばれるとソシエダは背走せざるを得ない。セルロートと久保抜きでは数的優位で守ることができないからだ。
つまり、もの凄く単純に言うと、ソシエダ「プレスをかける」→「久保かセルロートがGKと1対1になる」VSビジャレアル「プレスをかわす」→「モラレスがGKと1対1になる+相手をペナルティエリア付近まで後退させる」という攻防だったわけだ。
この攻防には「フィジカル」という重要なファクターがあった。クライフが言うように、ボールは疲れないが、人は疲れる。
プロレベルで激しいプレスをかけ続けられるのは20分間前後。前後半のスタートから20分間は出足で上回ったソシエダのペースとなり、以降はパスの走りが上回ってビジャレアルのペースとなった。
両チームの主なチャンスはこの時間帯に生まれている。ビジャレアルではモラレスがGKと1対1になったのは3分、ジェレミのシュートがポストに嫌われたのは19分、得点は76分と82分だった。ソシエダの方は、久保のシュートは4分と52分(クロスバー直撃)、セルロートのシュートは14分と15分、久保のセンタリングをメリーノが外したのは59分だった。
ビジャレアルが勝ったことで4位ソシエダと4ポイント差。5位のベティスと合わせて、3チームで1枠のCL出場権を争うことになりそうだ。
久保はチームで一番危険な存在だった。前述のチャンス演出以外にドリブルで相手のイエローカード2枚を誘っている。だが、チームはここ12試合で8試合目のスコアレスに終わった。
得点不足は深刻だ。
前半戦大活躍のブライスは23年になってから無得点で、セルロートの当たりも止まっている。久保も良いプレーはしているもののゴールは伸びず、復帰してみたらポジションがなくなっていたオヤルサバルはベンチを温める時間が長くなっている。カルロス・フェルナンデスはまたケガ……。
ビジャレアル戦では久保とセルロートが下がって、オヤルサバルとチョーが入ると逆に攻撃力は落ちた。アルグアシルができることと言えば、システム変更くらいしか思い付かない。
ブライスを下げ、セルロートと久保とシルバとオヤルサバルを同時に起用して得点力アップを期待しつつ、守備力低下を防ぐ。もしかすると、イジャラメンディとメリーノの2ボランチ(スビメンディは出場停止)でトップ下がシルバ、左がオヤルサバルで右が久保、1トップがセルロートという[4-2-3-1]を、今週末は見られるかもしれない。
文:木村浩嗣
木村浩嗣
編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペインに拠点を移し特派員兼編集長に。15年編集長を辞し指導を再開。スペインサッカーを追いつつセビージャ市王者となった少年チームを率いた。現在はグラナダ在住で映画評の執筆も。
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