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すると、イタリアは後半はレアリスモ(現実主義)に切り替えた。今年のEUROで、イタリアは準々決勝まで5連勝。5試合で11ゴールを奪い、かつてのカテナッチョの時代とは違って攻撃力が注目を集めていた。
だが、本当に強い相手(スペイン)との試合で、その本来持っている勝負にこだわるメンタレティーを発揮。「引いて守ってカウンター」というコンセプトに切り替えたのだ。
そして、60分に相手のクロスをキャッチしたGKのジャンルイジ・ドンナルンマからつないで、最後はこぼれ球をフェデリコ・キエーザが決めて、そのミッションを完遂した。
一方、スペインはパスはつなげるのだが、得点がなかなか生まれなかった。パスがうまく回ったのは「偽の9番」ダニ・オルモの存在が大きかったが、そこにストライキング能力の高い選手がいなかったのだ。結局、スペインは交代で投入したアルバロ・モラタが80分に同点ゴールを決めることになる。
1対1というスコアは、まさに試合内容を反映した妥当なものだったろう(PK戦も4対3の接戦)。つまり、イタリアのレアリスモとスペインのパス能力という異なったコンセプトが、ともに機能した試合だった。
僕はこの試合を見て、前からプレスをかける際の組織の緻密さに感嘆した。彼らの守備組織は川崎フロンターレの「鬼プレス」をはるかに上回っているし、日本代表が挑んでも勝機を見つけることはかなり難しそうだ……。
翌日のもう一つの準決勝はイングランド対デンマークの顔合わせで、こちらも1対1のスコアで延長に入り、最後はPKを獲得したイングランドが2対1で勝利した。
そして、この試合でも両チームがハイプレスをかけ合う場面はあったが、とくにデンマークは割り切って中央を固める時間も長かった。また、プレスをかける時でもスペインやイタリアのような緻密さはなく、せっかく前線がプレスをかけているのに最終ラインが下がりすぎていたり、最終ラインが上がってもラインに凸凹が生じて危険なスペースが生じてしまうような場面が散見された。
これなら、川崎の「鬼プレス」の方が上かもしれない(もちろん、フィジカル能力など「個の力」に差があるから、イングランド代表は川崎フロンターレより強いだろうが)。
ちょっと気が早い話かもしれないが、川崎がもしACLを勝ち抜けばFIFAクラブ・ワールドカップに出場することとなる(2021年大会は日本開催だから、ACLで勝てなくても開催国枠で出場する可能性は高い)。そのクラブワールドカップで川崎はUEFAチャンピオンズリーグ優勝のチェルシー(イングランド)などに挑戦するわけだ。それまでに、「鬼プレス」の強度と緻密性をさらに一段と上げておく必要があるだろう。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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