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サイクルロードレース コラム 2026年10月13日

120年の時を超えて―20歳16日のポール・セクサスが魅せた圧倒的独走劇|イル・ロンバルディア2026 レビュー

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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イル・ロンバルディア

優勝ポール・セクサス、2位エンリク・マス、3位ジュリオ・チッコーネ

1905年に行われた第1回大会を制したジョヴァンニ・ジェルビの当時の年齢は、20歳5カ月。それ以上に若い優勝者が生まれるまでに、実に120回もの大会を要したといえば、このレースが持つ歴史と格式の重さが想像できるだろう。

9月24日に20歳の誕生日を迎えたばかりのポール・セクサス(デカトロン・CMA CGM チーム)が、20歳と16日という若さでイル・ロンバルディア2026を制覇。勝負どころの「チヴィーリオ」で独走に持ち込み、ライバルの追随を一切許さない圧巻の走りを披露した。

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「レース中から“今日は最高の日だ”という感覚があったんだ。自分が狙った通りのタイミングで違いを生み出すことができたよ!」(セクサス)

苦悩を乗り越えた先に待っていた王座

新チャンピオンとなったセクサスだが、このレースが始まる前までは激しい自問自答を繰り返していたという。

きっかけは、9月27日に行われたUCI世界選手権大会だった。優勝候補のひとりに挙げられ、本人もその気満々だった。フランスチームのエースに任命され快調にレースを進めていたものの、終盤にまさかの失速。マイヨ・アルカンシエルを争う集団にその姿はなく、15位という失意の結果に終わっていた。

国を背負って走ることの重み、そして自分のためにすべてを捧げてくれた仲間たちの存在。それらを思うと不甲斐なさにさいなまれ、自らの惨敗に「自分がエースとしてふさわしい選手なのかさえ疑問に思う」とまで追い詰められていた。

それでも、時間は待ってくれない。シーズン最後の大一番「イル・ロンバルディア」では、絶対的なエースとしてチームの先頭に立たなければならない。己を否定する気持ちを力ずくで打ち消し、再び腰を上げた。

「いろいろな思いがめぐって、気持ちが切り替わるまでどのくらいの時間を要したか覚えていない。2時間だったかもしれないし、1日かかったかもしれない。でも、それほど長くはなかったと思うんだ」(セクサス)

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【フィニッシュシーン】イル・ロンバルディア|Cycle*2026

イル・ロンバルディア

世界選手権での悔しさを胸に、レースに挑むセクサス

世界選手権での敗北は、プレッシャーによるものではないと自らを納得させた。本人に言わせれば「単純なミスだった」。その苦い経験を糧に「ロンバルディアを走れば勝てるのではないか」―そんな思いを胸に、彼はスタートラインへと向かっていた。

チヴィーリオでライバルを圧倒

ベルガモからコモまでの239kmで争われた第120回イル・ロンバルディア。レーススタート時には、号砲が鳴っても選手が出発せず、5分間にわたってその場に待機する一幕があった。やがてレムコ・エヴェネプール(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)がマイクを手に取り、レース主催者と観衆に向けて声明を発表した。

これは、近頃多発しているレース中の車両接触事故に対する抗議と、安全確保を求める行動だった。トーマス・ピドコック(ピナレロ・Q36.5プロサイクリング チーム)とベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト)が中心となって動き、そこにレムコが賛同。スタート30分前に主催者側と協議し、大会責任者であるルカ・グエルチレーナ氏の承認のもとでメッセージを発信することとなったのだ。

選手たちの自発的なアピールを受け、レースは5分遅れでスタート。プロトンはもちろん、主催者側も理解を示した動きだったため、混乱なく本戦へと移行した。

30km地点を過ぎたあたりで数人が抜け出したのを機に、追走メンバーが次々とジョイン。14人の先頭グループが形成され、レース前半を引っ張る。メイン集団が本格的にペースメイクを始めたのは、フィニッシュまで100kmを切ったタイミング。UAEチームエミレーツ・XRGがコントロール役を担い、先頭とのタイム差をじわじわと縮めていく。

残り65kmを切って登坂区間「マドンナ・デル・ギザッロ」に入ると、ヴィスマ・リースアバイクが猛然とペースアップし、マッテオ・ジョーゲンソンを発射。そこへクイン・シモンズ(リドル・トレック)、ブランドン・マクナルティ(UAEチームエミレーツ・XRG)、クリスティアン・スカローニ(XDS・アスタナ チーム)が続く。

イル・ロンバルディア

強い選手しか残れない、長距離を走るモニュメント

ジョーゲンソンらの動きは決定打とはならなかったものの、メイン集団を活性化させるには十分だった。レッドブル・ボーラ・ハンスグローエが集団を牽引してコモの街を通過し、最後の周回コースへと向かう。

そして決戦の瞬間は、勝負どころの「チヴィーリオ」(登坂距離4.2km、平均勾配9.7%)で訪れた。

フィニッシュまで残り18km。セクサスが一気にギアを上げる。すかさずマクナルティがチェックし、その後ろにイサーク・デルトロ(UAEチームエミレーツ・XRG)が続く。さらにはジュリオ・チッコーネ(リドル・トレック)やピドコックの姿も。

しかし、セクサスが刻むペースに、ひとり、またひとりと脱落していく。頂上まで1.6km、セクサスはついに完全な独走態勢へと持ち込んだ。

「上り始めはペースを抑えめに入ったけれど、もっと加速するべきだと思ったんだ。差をつけるにはタイミング的に早すぎたかもしれないけれど、もう行くしかなかった。それでもペースをコントロールしながら急坂区間をクリアできたし、あとは自分にできる最高のタイムトライアルをするだけだった。自分自身との戦いだったね」(セクサス)

約30秒後ろではチッコーネとエンリク・マス(モビスター チーム)が追い、さらに後方ではレムコやマクナルティらが追走を試みる。しかし、上りのみならず下りや平坦の独走力にも秀でた20歳に、死角はなかった。

「後ろとのタイム差はきっちりとは把握できていなかったけれど、30秒から40秒という情報が入ってきて“悪くないな”と思いながら走っていたんだ。最後の上りを終えるまでは不安だったけれど、上りきったときに勝利を確信したよ。“あとは下りでミスをしないように……”と慎重に進んだ」(セクサス)

一瞬の爆発的なアタックで決めたわけではない。圧倒的なペースで坂を駆け上がり、純粋な「力」でライバルたちをねじ伏せてみせた。前年まで5連覇を果たしていたタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ・XRG)とはまた異なる強烈な存在感で、「落ち葉のクラシック」を制したセクサス。若き新チャンピオン誕生の瞬間だった。

イル・ロンバルディア

一番厳しい局面で強さをみせたセクサス

「クレイジーとしか言いようがないよ。夢のようで、何が何だかわからないんだ。理解が追いついていないね(笑)。ただ、今日のためにハードなトレーニングを重ねてきて、それが実ったことだけは確かだよ」(セクサス)

終わってみれば、2位のマスに48秒、3位のチッコーネに1分5秒という大差をつける圧勝劇だった。

新時代の到来を告げるセクサスの才能

世界選手権での失意から心身を奮い立たせ、見事な“復権”を果たしたセクサス。キャリア初のモニュメント制覇を成し遂げ、失いかけた自信と勢いを完全に引き戻した。

「タデイが出ていたら2位だったんじゃないかって? そうは思わないよ。勝っていたかもしれないし、負けていたかもしれない。たった1回のレース結果ですべてが決まるとは思わないけれど、きっとおもしろ勝負ができただろうね」(セクサス)

今シーズン、ストラーデ・ビアンケでポガチャルに真っ向勝負を挑み、イツリア・バスク・カントリーでは快勝。ラ・フレーシュ・ワロンヌでビッグクラシック初勝利を挙げ、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュでも2位に入った。さらにツール・ド・フランスでは個人総合4位と健闘し、最後にイル・ロンバルディア優勝。年齢やキャリアを考えれば、2026年シーズンの成果は破格と言っていい。

「タデイは常に僕の目標であり続けるし、彼に勝ちたいと思っている。世界一になるという野心もある。これからも挑戦者の立場で走り続けるよ。そうじゃなきゃ成功なんてあり得ないからね」(セクサス)

イル・ロンバルディア

20歳16日でイル・ロンバルディア戴冠

あらゆるコースレイアウトに対応できる万能性と勝負強さ。圧巻の独走力に、観客を魅了する華やかさ。新時代の到来を確信させるセクサスの走りは、2027年シーズンがさらに劇的でドラマチックなものになることを予感させる。ちなみに彼は、ロンバルディア翌日には自国フランスに飛び、マウンテンバイクイベント「ロック・ダジュールCIC」にゲスト参加。早くもオフのファンサービスに汗を流している。

キャリア最終戦を7位で締めくくったビルバオ

若き王者が誕生した一方で、このレースを最後に長年のプロキャリアに終止符を打つ選手たちもいた。

2019年大会の覇者バウケ・モレマ(リドル・トレック)をはじめ、ペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス)、ルディ・モラール(グルパマ・FDJユナイテッド)、オドクリスティアン・エイキング(ユニベット・ローズロケッツ)、ヨン・イサギレ(コフィディス)らが、スタート前にプロトンとファンから長年の活躍を称える温かい祝福を受けた。

なかでもビルバオは最後まで激しい上位争いに加わり、7位でフィニッシュ。プロとしての誇りと実力を最後の最後まで示し、プロトンに別れを告げた。

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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