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サイクルロードレース コラム 2026年9月2日

24歳のトロンションが逆転ゴールでサプライズ初勝利。首位はマスが堅持|ブエルタ・ア・エスパーニャ2026 レースレポート:第10ステージ

サイクルロードレースレポート by 山口 和幸
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ブエルタ・ア・エスパーニャ

トロンションが値千金の区間優勝

第81回ブエルタ・ア・エスパーニャは休息日明けの9月1日、アルカラス〜エルチェ・デ・ラ・シエラ間の184.7kmで第10ステージが行なわれ、グルパマ・FDJユナイテッドのバスティアン・トロンション(フランス)がグランツールで初優勝を遂げた。総合成績の上位選手は同じ集団の中でゴールし、モビスター チームエンリク・マス(スペイン)が首位のリーダージャージ、マイヨ・ロホを守った。

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ポガチャル不在の第2週が始まった

2度の休息日を含めて全23日間で争われるブエルタ・ア・エスパーニャはいよいよ2週目に突入。前日に最初の休息日を過ごした選手たちが6連戦に挑む。まずはアルカラスとエルチェ・デ・ラ・シエラ間の起伏に富んだステージだ。距離184.7kmの第10ステージには3つの山岳ポイントがあり、丘陵地帯のアップダウンを合わせると獲得標高はなんと3000mにも及ぶ。

第8ステージで、初制覇に向けて順風満帆だったタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ・XRG)が落車リタイアして、首位に浮上したマス(モビスター)はその座を守り抜くことを目指す。同時に多くの実力選手がステージ1勝を狙う。平坦ステージではないものの、長い上り坂はないのでスプリンターも脱落せずにクリアできるケースも想定できる。レース展開次第で巡航スピードの高い選手やロングアタックを得意とする選手がチャンスをつかむ可能性もある。

ブエルタ・ア・エスパーニャ

先頭グループ

スタート直後からアタックが飛び交うが、逃げ切れる実力を備えた選手はライバルチームからマークされ、すぐに集団に吸収される。15km地点でグルパマ・FDJユナイテッドのエンゾ・パレニ(フランス)、アルペシン・プレミアテックのミヒャエル・ゴグル(オーストリア)、チーム ジェイコ・アルウラーのヤシャ・ズッタリン(ドイツ)、チューダー プロサイクリングチームのファビアン・ワイス(スイス)、ブルゴス・ブルペレット・BHのミゲル・フェルナンデス(スペイン)、エキポ ケルンファルマのイバン・コーボ(スペイン)の6選手が抜け出すことに成功する。ウノエックス・モビリティのフレドリク・ドゥヴァーシュネス(ノルウェー)はチャンスを感じ、追走を開始する。ドゥヴァーシュネスは2026ジロ・デ・イタリア第15ステージで優勝していて、23km地点で先頭集団に加わる。

先頭の7選手の後ろではゴールスプリント勝負に持ち込みたいチームが追いかける。ここまでステージ2勝しているマシュー・ブレナン(英国)のチーム ヴィスマ・リースアバイクと、第8ステージで優勝しているブライアン・コカール(フランス)のコフィディスが、集団のペースメーカーとしてのポジションを奪った。47.6km地点にある最初の登り、プエルト・デル・ペラレホの手前で最大差は2分55秒。しかしメイン集団のペースは順調で、タイム差がこれを超えることはなかった。

ブエルタ・ア・エスパーニャ

コフィディスがメイン集団を牽引

パレニがこの日最初の山頂を制覇し、ワイスは86.3km地点に位置する2番目の山岳ポイント、プエルト・デ・アイナで山岳賞ポイント獲得し、さらにワイスは125km地点の中間スプリントポイントもトップ通過した。しかし逃げた7選手はいずれもポイント賞と山岳賞で上位に位置する存在ではなく、あくまでも逃げ切り勝ちが目的。ポイント賞トップのワウト・ファンアールト(ベルギー、チーム ヴィスマ・リースアバイク)、山岳賞トップのサンティアゴ・ブイトラゴ(コロンビア、バーレーン・ヴィクトリアス)のリーダージャージを脅かす存在ではなかった。

最後の1kmまでアタックに次ぐアタック

ズッタリンとフェルナンデスは、最後の登りであるプエルト・デ・ソコボス(163.2km地点)の手前で脱落した。峠の手前で集団は1分ほどの射程距離内で走る。先頭が近くなったことでメイン集団からのアタックが始まり、集団を揺さぶる。ピナレロ・Q36.5プロサイクリング チームのエディ・ダンバー(アイルランド)が脱げだし、さらにUAEチームエミレーツ・XRGのケヴィン・ヴェルマーク(米国)が数回加速する。ブレナンがチーム ヴィスマ・リースアバイクのためにこれらの動きに反応した。

「最後の30kmは混沌としていて、しかも非常に過酷。まるで終わりのない上り坂のようで、ずっと少しずつ登り続けているような感じだった」とこのときの模様をゴール後にファンアールトが回想している。

「今日はレースをコントロールしようと作戦を立てていた。最終的には成功したけど、集団スプリントに持ち込むためにチーム全員の力を使わなければならなかった」(ファンアールト)

ブエルタ・ア・エスパーニャ

リーダージャージをキープしたマス

総合成績の上位選手も動いた。3分26秒遅れの総合5位リチャル・カラパス(エクアドル、EFエデュケーション・イージーポスト)と3分55秒遅れの総合6位マティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック)も混戦に加わるが、マスがうまく反応して逃さなかった。

プエルト・デ・ソコボス山頂ではパレニ、ゴグル、ドゥヴァーシュネス、コーボが30秒の差を維持。ゴールまでは20km以上もあるので、すぐに追いつけそうに見えるものの、起伏の多い地形のためメイン集団は状況をコントロールするのが難しい。先頭に加わっているヴェルマークは諦めずに走り続け、ドゥヴァーシュネスは逃げ集団の仲間を一人ずつ引き離していくが、残り7kmでゴグルが力尽きる。ゴグルに代わって先頭に立ったのがエキポ ケルンファルマのイニーゴ・エロセギ(スペイン)、ピナレロ・Q36.5プロサイクリング チームのミラン・ファデル(オランダ)、チーム ヴィスマ・リースアバイクのセップ・クスだ。クスは4分09秒遅れの総合7位で、1分39秒遅れの総合3位フェリックス・ガル(オーストリア)のポジションを守るためにデカトロン・CMA CGM チームが懸命に追走した。

攻撃陣が残り4km地点で捕まるとピナレロ・Q36.5プロサイクリング チームのワルテル・カルツォーニ(イタリア)がアタックを仕掛けるが、残り2kmで捕まってしまう。さらにXDS・アスタナ チームのエフゲニー・フェドロフ(カザフスタン)が残り1km地点でアタックを仕掛ける。ピナレロ・Q36.5プロサイクリング チームのシャビエル・アスパレン(スペイン)がそれに続く。

この2人の動きはほぼ成功しかけたが、グルパマ・FDJユナイテッドのギヨーム・マルタンギヨネ(フランス)に牽引されたトロンションが残り50mで彼らを抜き去り、ウノエックス・モビリティのマグナス・コルト(デンマーク)、リドル・トレックのティボー・ネイス(ベルギー)、チーム ヴィスマ・リースアバイクのワウト・ファンアールト(ベルギー)を抑えてグランツール初ステージ優勝を果たした。

「どうやってやったのか自分でもわからない。スプリントを始めたとき、前にまだ何人かいるのかどうかわからなかった。だから両手を上げたりもしなかった」と、信じられないとばかりに何度もヘルメットを被った頭を叩いて喜ぶトロンション。

トロンションはスプリント力こそないものの、アップヒルで急加速して一気に抜け出すことが得意。プロデビュー以来、同じフランスのAG2Rで走ってきたが、2026年は春のクラシックレースでのエースを託されてグルパマ・FDJユナイテッドに移籍した。しかしシーズン前の調整に苦労し、春のレースでは1勝もできないどころか下位に低迷するばかり。それでも、これまでやってきたプロセスを信じて、なにができるかやってみようとブエルタ・ア・エスパーニャに臨んだ。同じフランスのコカールが初優勝した第8ステージで7位に食い込んだのもきっかけになった。

「ここ数日は本当に辛かったけど、今日は調子がよかった。ギヨーム(マルタンギヨネ)に『死ぬまで全力で走れ』って言ったんだ。そして優勝できた。最高だよ。ブエルタ・ア・エスパーニャでこんなことができるなんて思ってもみなかった。スタートした時点で自分の仕事は終わったと分かっていた。あとは自分の好きなようにレースをして、勝利を目指すだけだった。1日中、『この道は素晴らしい、とても美しい、とても気持ちいい』って言っていた。最高の1日だった。そして最後には優勝できた!」

上位は不動だったが、過酷な1日に

総合成績を争う戦いは、1分18秒遅れの総合2位プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)がトップとタイム差なしの区間35位、首位のマスが36位でゴールするなど変動はなかった。それでもマスは「とても大変な一日だった」と、マイヨ・ロホを守るために警戒を怠らなかったとゴール後にコメントした。

「常に安全な位置にいたかった。ブレナンが引っ張っている間は、彼の後ろにいた。今日は本当に大変な一日だった。ものすごく速くて、レース先頭には本当に強いライダーたちがいて、全力で走っていた。この経験が今後のレースにいい影響を与えることを願っている」とマイヨ・ロホを堅持したマス。

山岳賞ジャージを難なく守ったような感のあるブイトラゴも「脚が痛くなるようなステージだった」とハードな走りを余儀なくされた。
「逃げ集団にとっては厳しい展開になるだろうと思っていたけど、結局逃げ集団はあっという間に抜け出した。ヴィスマ・リース・ア・バイクとコフィディスチームがすぐにペースを上げ、メイン集団は楽なペースで走ることができなかった。脚が痛くなるようなステージだったけど、休日明けとしてはいいリスタートを切れたと思う。調子を取り戻すのは難しい時もあるけど、今日のようなステージならすぐに感覚を取り戻せる」

この日4位に終わったファンアールトは「私にとってはチャンスだったので、プランAとしてステージ優勝を狙った」という。結果的には優勝できなかったが、区間4位のスプリント賞ポイントを加算して、大量リードで緑色のリーダージャージを確保した。

「上り坂が多く、非常に過酷なコースは私に合っていたのでチャンスだった。もし私の調子が悪ければ、作戦を変更してマティ(ブレナン)がスプリントで勝負に出る。チームとしてうまくラストに持ち込めたが、最後の1kmで一人になってしまい、いいポジションを取るのが難しくなった。残念ながら最後の300mでは脚にほとんど力が残っていなかった。それでもチームは調子がいいので、今週も成功できると期待している」

第11ステージはカルタヘナ〜ロルカ間の平坦路。スプリンターたちにとって新たなチャンスとなるが、残り30km地点にあるカテゴリー3級山岳、アルト・デ・アレドで思わぬアタックが発生する可能性も秘める。

文:山口和幸

山口 和幸

ツール・ド・フランス取材歴30年超のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、東京中日スポーツ、ダイヤモンド・オンライン、LINEニュース、Pressportsなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、講談社現代新書『ツール・ド・フランス』。青山学院大学文学部フランス文学科卒。

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