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ポガチャルがアルプ・デュエズで歴史的激走 満身創痍のチームへ、強い意志と勝利を届ける|ツール・ド・フランス2026 レースレポート:第19ステージ
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介アルプ・デュエズを制したタデイ・ポガチャル、登坂タイムも記録更新
王者の真の姿である。何日も前から人が押し寄せていたというアルプ・デュエズに、プロトンが足を踏み入れたツール・ド・フランス2026第19ステージ。“アルプ・デュエズ2連戦”の初日にわれわれは、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ・XRG)の激走を見ることとなった。今大会5度目のステージ優勝で、ツール通算では26勝目。大事な一戦で勝ち切る強い意志と勝負強さに、観る者はため息しか出ないのである(もちろん良い意味で)。
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「個人的には、これまでの25勝と同じ価値があると感じている。ただ、アルプ・デュエズは特別だとあらゆるジャーナリストから告げられて、少しずつ理解しているところなんだ。きっと、時間が経ったら自分がすごいことをしたと実感できるのだろうね。確かなのは、勝てて本当にうれしい……ということだよ」(ポガチャル)
アルプ・デュエズ2連戦の幕開け
昨年の10月、このツールのコースが発表になったときに驚きを持って迎えられたのが、「アルプ・デュエズ連続登頂」だった。第19・第20ステージ、2日続けてツールが誇る秀峰を上るという。それも、3週間の旅の最後に。
その日がやってきた。これまたツールではおなじみのギャップの街を出発し、3つの山越えをしたのちに真打ちアルプ・デュエズへ。頂上のフィニッシュまでは、登坂距離13.8kmで、平均勾配8.1%。中腹を過ぎたところでは11.5%の急勾配が待っている。
さらには、先にも触れた大観衆である。フィニッシュ取材をするわれわれプレスを含め、多くの大会関係車両が実際のコースを通って頂上へ向かったわけだけど、ただでさえ狭い道が人の壁によって一層タイトになっている。興奮した人たちに執拗にクルマを叩かれ、山頂に到達する頃にはおびただしい数の手形を付けられてしまっていた……。
レースに話を戻すと、リアルスタート直後から続いた幾度かの出入りを経て、30人近い選手たちが先頭グループを形成。その流れから2級山岳バイヤールへと入っていって、ヴァランタン・パレパントル(スーダル・クイックステップ)とリチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト)が山岳賞争い。ここはV・パレパントルが1位通過して、バーチャルながら同賞の首位に立つ。
大きな先頭グループができあがった
やがて先頭グループは42人まで膨らんで、次の登坂となる1級山岳ノワイエへ。V・パレパントルとカラパスのマッチアップは続いて、再び前者が一番に山頂通過。その後約25kmにわたって下りが続き、細かな高低の変化に対応しながら次なる山岳地帯へと向かっていく。この間、89.4km地点に中間スプリントポイントが置かれていて、マイヨ・ヴェールのマッズ・ピーダスン(リドル・トレック)がねらい通りの1位通過。連日先頭グループに入り、ポイントを加算し続けてきた。ポイント賞獲得に大きく前進し、マイケル・マシューズ(チーム ジェイコ・アルウラー)に祝福された。
「(マイヨ・ヴェール確定へ)かなり良い状況を作り出すことができた。明日も中間スプリントポイントを狙っていきたい。パリではステージ優勝を目指すよ」(ピーダスン)
4分以上タイム差は開いた
その頃、メイン集団ではピナレロ・Q36.5プロサイクリング チームやレッドブル・ボーラ・ハンスグローエが牽引して、4分以上に広がった先頭グループとのタイム差を縮めている。3つ目の上りである2級山岳オルノンでは、先頭グループ、メイン集団ともに人数が絞られていった。
驚異の追い上げからステージ優勝へ
ついにアルプ・デュエズへ。21ものヘアピンコーナーを抜けた先にある景色はいかなるものか。
先頭グループでは、セップ・クス(チーム ヴィスマ・リースアバイク)がペースアップ。これにカラパスとレニー・マルティネス(バーレーン・ヴィクトリアス)が反応し、3人逃げに。そこからは、カラパスがステージ2連勝を目指してアタックの連続。マルティネスがすぐに反応する一方で、クスは一定ペースで再合流。3人が牽制気味になる時間も増え、自然とメイン集団とのタイム差が縮まっていく。
その集団では、上りの入口でポガチャルが動いた。個人総合争いのライバルたちを一瞬で引き離すと、逃げから下がって前待ちをしていたアダム・イェーツと合流。アシストを受けながら前を目指していく。
沿道には大勢の観客が押し寄せた
完全にペースに乗ったポガチャルは、かなりの勢いで先頭3人に迫る。上り始めに2分以上あったタイム差は、残り4kmで約30秒に。この状況を見たカラパスがフィニッシュ前3kmでアタックし、マルティネスとクスを引き離したが、すぐ後ろにポガチャルが迫っている。
そして残り1.8km、ポガチャルがカラパスを捕らえた。必死に食らいついたマルティネスも含めた3人で最終局面へ。決定打は最終の800m。残してきた脚をフル稼働させたポガチャルは、カラパスとマルティネスを引き離して大観衆の待つアルプ・デュエズの頂上へと到達した。
独走でどんどん追い上げるポガチャル
「もう少しで追いつける……というタイミングでセップ(クス)がアタックしたり、レニー(マルティネス)が僕の後ろにピタリとついてきたりと、ヒヤヒヤさせられたよ。カラパスに追いついたときはギリギリだった。みんな限界に達していたんだ。最後はスプリントにしたくなかったから残り800mで加速したけど、誰が勝ってもおかしくない素晴らしいレースだった。今までで一番大変な勝利で、力強い走りを見せた選手たちみんなを心から労いたい」(ポガチャル)
チームメートに捧ぐ勝利
勝つことにこだわったステージだった。第3週に入ってから、大事なアシスト陣が体調不良や怪我で苦しんでいた。アダムの胃腸炎に始まり、ティム・ウェレンスやフェリックス・グロスシャートナーも風邪に近い症状を訴える。フロリアン・フェルミールスは負傷が伝えられ、ブランドン・マクナルティは第18ステージでレースを去った。
「僕たちは本当に大変だった。数日前には顔色が悪かったアダムが回復して、今日は最後の上りで僕を助けてくれた。彼の後ろを走れるだけですごくうれしかったんだ。辛い日々から僕たちは立ち上がって、“絶対に勝つんだ”との思いで今日を迎えていた。この勝利はチームメートに捧げるためのものだよ(ポガチャル)
強い意志は走りに表れた。アルプ・デュエズ登坂タイムは35分26秒。マルコ・パンターニが持つ36分40秒の最速記録を大幅に更新した。30年のときを経て、新たな歴史を作った。
フィニッシュ後、勝利を喜んでいたポガチャル
「ここしばらくはインターネットの情報を遮断していたので、パンターニの記録についてはまったく知らなかった。でも、新記録だと聞いて素直にうれしかったよ。30年も破られていなかった記録を更新できて、勝利までついてきたんだから最高だよ」(ポガチャル)
この走りで、個人総合2位のレムコ・エヴェネプール((レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)との総合タイム差は7分11秒に。2ステージ残ってはいるけど、パリでのマイヨ・ジョーヌ受け取りに大きく前進したことは間違いない。
各賞を整理しておくと、マイヨ・ジョーヌのポガチャルのほか、マイヨ・ヴェールでは前述の通りピーダスンがリードを拡大。山岳賞のマイヨ・アポワは、この日ステージ3位で終えたカラパスが首位浮上。ヤングライダー賞のマイヨ・ブランはイサーク・デルトロ(UAEチームエミレーツ・XRG)が保持している。
山岳決戦はあとひとつ。第20ステージは標高2000m級の超級山岳を3つ越える、ツール2026のハイライト。4賞ジャージや個人総合成績をかけた勝負は実質このステージでクライマックスとなる。それが終われば、最終目的地パリへ向かうのみである。
文:福光 俊介 from Alpe d'Huez, France
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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