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サイクルロードレース コラム 2026年7月20日

ヨナス・ヴィンゲゴーの落車リタイアは「深夜のドーピング検査」にあった? ポガチャルとレムコが会見で問題提起をした現在の検査手法とは|ツール・ド・フランス2026

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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ツール・ド・フランス

落車リタイアをしてしまったヨナス・ヴィンゲゴーハンセン

それが知られることとなったのは、レースを終えて現地放送局フランスTVのインタビューに臨んだときだった。マイヨ・ジョーヌを着るタデイ・ポガチャルUAEチームエミレーツ・XRG)は、最大のライバルであるヨナス・ヴィンゲゴーハンセンチーム ヴィスマ・リースアバイク)の落車負傷によるリタイアについて、「ドーピング検査による睡眠不足があったのではないか」と口にした。その後のプレスカンファレンス(記者会見)では怒りともとれる言葉を発し、時間をおいて会見の席に着いたレムコ・エヴェネプールレッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)も同調。彼らはともに、「非人道的」との表現まで使い、検査における問題点を投げかけたのだ。

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無念にも大会を去ることになったヴィンゲゴーの動向と合わせ、ポガチャルとレムコの会見の内容をこの機会にお届けしたい。

グランツール10戦目にして初のリタイア

まず、ヴィンゲゴーの落車負傷について振り返っておきたい。

クラッシュが発生したのは、第15ステージの残り約20km付近。その時点でメイン集団を牽引していたのはヴィンゲゴーのチームメートたちで、最終登坂である超級山岳プラトー・ド・ソレゾンへ向けてペースを上げている段階だった。下り基調で、スピードに乗ったまま右コーナーへ。トラフィックアイランド(車道内にある制限区域、歩道など)をかわしながらアウト側のラインをとった際に、ヴィンゲゴーがバランスを崩し落車。自チームのアシスト数人のほか、イサーク・デルトロ(UAEチームエミレーツ・XRG)らを巻き込んだ。

巻き込まれた選手たちは早々にバイクに戻って走り出したが、ヴィンゲゴーはその場で強い痛みを訴えて再出発は難しい状態に。右腕を吊られた状態で救急車両に乗り込み、リタイアを決断。キャリア10度目のグランツールにして初のリタイアとなり、3年ぶりのツール制覇、さらにはジロ・デ・イタリアとの2冠「ダブル・ツール」へのチャレンジは霧散してしまった。

ツール・ド・フランス

連日過酷なステージをこなしている選手たち、この週末は山岳超えが詰め込まれている

チームを指揮するスポーツディレクターのマルク・レーフ氏によれば、「選手たちから聞いた話だが、集団の前にモーターバイクが走っていて、コーナーで少し減速したようだ。それを見た選手たちがブレーキをした際に、ヨナスがクラッシュしてしまった」と説明する。

チーム ヴィスマ・リースアバイクは第一報でヴィンゲゴーの右鎖骨骨折と複数の擦過傷を負ったと発表。その後ヴィンゲゴーは自国デンマークメディアのインタビューに答えている。

「こんな形でリタイアするのはとても残念。ツール・ド・フランスを去るのは辛いけど、サイクルロードレースはときにそんなこともあるんだ。鎖骨骨折だけで済んだことは幸いだったと思いたい」

深夜2時の「抜き打ちドーピング検査」

ポガチャルのレース後の発言を機に、現場ではヴィンゲゴーが深い時間帯にドーピング検査のために起こされたことに注目が集まった。複数の証言を総合すると、ヴィンゲゴーが起こされたのは深夜2時だったという。

本記執筆時点ではヴィンゲゴーによる睡眠不足であった旨の言及はないので、実際にそれが落車の要因となったのかまでは分からない。ただ、そのように推察できる状況にあったのは事実のよう。

世界アンチ・ドーピング機構(WADA)や、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が公式に明らかにしているドーピング検査には2種類あり、ひとつは「競技会検査」、もうひとつが「競技会外検査」。前者は競技終了後に行われるもので、後者は競技会とは関係のないところで行われる、いわば「抜き打ち検査」。ツール・ド・フランスを走るクラスの選手たちは、日頃からトレーニング時間と過ごす場所を「居場所情報」として提出する義務があり、検査官はそれに基づいて選手たちのもとを訪れる。ヴィンゲゴーが前夜に受けたものは「競技会外検査」にあたる。

選手としては、自身がクリーンであることを証明するためにこうした検査を受け続けることが宿命でもある。居場所登録が実際と異なっていたり、検査を拒否したりするとアンチ・ドーピング規則違反となることから、トップライダーたちは日常生活から慎重を期し、検査を求められた際には指示にしたがわなければならない。

ツール・ド・フランス

前日は観客が大勢詰めかけており移動に時間がかかっていた

とはいえ、深夜2時に検査を受けるよう求められるのは、ヴィンゲゴーとしては苦痛でしかなかっただろう。前日は第14ステージ終了後、多くのチームがホテル移動に2時間30分近くを要しており、チェックインしたのが午後9時を回っていたとみられる。そこから食事をして、マッサージを受けて……となれば、就寝時間がいつもより遅くなったとしても仕方のないタイムスケジュールだったはずだ。

ポガチャル、レムコ会見まとめ

華のあるライダーのひとりが大会を去ったとなれば、プロトンにも衝撃が走る。ポガチャルやレムコもショックを隠そうとはしなかった。トップライダーたちは、ヴィンゲゴーのリタイアや彼を取り巻いた事情をどう捉えているのだろうか。このあたりは、彼らの言葉を直接お届けした方が伝わることだろう。レース後に行われたプレスカンファレンスでの報道陣とのやり取りを以下に記す。なお、ヴィンゲゴーに関連しない問答については省略する。

──ヴィンゲゴーの落車リタイアについて、いまの思いをお聞かせください

ポガチャル「ヨナスにとっては本当に厳しい1日になってしまったと思う。彼は深夜2時にドーピング検査で起こされたと聞いた。これははっきり言って非人道的だよ。睡眠を台無しにされてしまったんだ。

フランスTVのインタビューでも話したけど、彼の落車には睡眠不足も関係しているように感じている。僕も今朝は5時に起こされたから、その辛さは手に取るように分かる。幸い、僕は深く眠れていたから良かったし、深夜2時よりはずっとマシ。睡眠不足だと体は回復しないし、集中力も削がれてしまう。今日のように街の中を走るコースは特に危険なんだ。

彼がリタイアすることは本当に残念。彼がツールにいるのといないのとではまったく違うものになってしまう。ヨナスとは2021年から戦ってきているんだ。鎖骨骨折だと思うけど、早い回復を願っている。深く落ち込まず、良い休暇を過ごしてほしい」

──ヴィンゲゴーがリタイアし、今後何がどう変わるとお考えですか?

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直接のライバル関係の2人は常に互いをチェックしている

ポガチャル「僕としては、彼と戦うことに慣れてしまっているんだ。今日(第15ステージ)の山岳では彼をマークするつもりだった。第3週にはアルプ・デュエズで彼は飛ぶように駆け上るはずだったんだ。だからヨナスがいなくなって本当に悲しいよ」

──ドーピング検査は通常、午後11時から翌朝6時までは行われないとされていますよね。それなのにヴィンゲゴーを午前2時、あなたを午前5時に検査した理由はどこにあると思いますか?

ポガチャル「分からない。今年に入ってからドーピング検査自体が今までと違った運用になっているように感じている。1月1日から春のクラシックシーズンまでに、僕は何度も検査を受けた。家にいるときは、毎朝6時に呼び鈴がならないかを確認するのが日課になっているくらいだよ。検査官がいつ来るか分からないから、夕食やスーパーへの買い物だって躊躇するほどだった。

ストラーデ・ビアンケ(3月7日)のレース後には血液検査があって、それが奇妙な感じだった。2026年4月より前のルールでは、サウナや激しいトレーニングの直後は2時間の空白時間をつくらなければならないとされていたんだ。だけど、そのときは記者会見などを終えてフィニッシュから1時間半後に検査会場へ行ったら6人が順番待ちをしていた。何事かと思ったら“レース終了1時間後から検査を開始している”と説明されたんだ。当時のルールから外れているよね。

ちなみにいうと、今朝5時に僕を起こしたドクターは早朝であることを謝りながら検査をしてくれたよ。“本来は午後11時から翌朝6時までは検査しないのではないの?”と聞いたら、“ナイトコントロールだ”と言われたんだ。再び寝られることを願って文句は言わなかったんだけど、やっぱり眠ることはできなかったね。

ドーピング検査に少々不可解なことがあるとは感じている。でも僕らがクリーンであることを証明できるものなら受け入れるよ。でも、3週間に及ぶツール期間中に4時間睡眠の日があるなんて、到底信じられない。

ツール・ド・フランス

常に近くでレースをこなすライバルたち

深夜2時に起こされたヨナスに至っては、きっと4時間も眠れなかったと思う。それはアスリートのコンディショニングとしてはさすがに厳しすぎる。これもルールだというならしたがうしかないけどね。うまく説明できていれば良いのだけれど……」

──深夜や早朝のドーピング検査についてどうお考えですか?

レムコ「僕から言えることがあるとすれば、深夜にライダーを叩き起こして検査を行うのは、非常にリスペクトを欠いた行為だということ。深夜2時や早朝5時に起こされるなんて、ライダーとしては受け入れられないよ。

プロサイクリスト協会(CPA)は、これに対する何らかの行動を起こしてほしい。深夜に起こすなんて本当に非人道的としか思えない。

特に昨日は、レース後に2時間30分以上の長距離移動があったんだ。厳しいステージだったし、今日だってハードだった。消耗しているライダーたちを深夜や早朝に起こして検査しようだなんて、本当に不愉快極まりないよ。

アスリートとして、こうした行為を受け入れるべきなのかは正直疑問に思う。睡眠こそが、僕らが夜間に回復できる唯一の方法なのは誰でも分かるはず。それらが妨げられてしまえば、世界で最も過酷で壮大なレースが、より一層過酷なものになってしまう。

このような事態が二度と起きないことを願うよ。どうか僕たちライダーをリスペクトしてほしい」

ロードレース、個人タイムトライアル、それぞれの世界チャンピオンである両選手が挙げた声は、この競技の、さらにはスポーツ界全体へと轟くだろうか。

文:福光 俊介 from Plateau de Solaison, France

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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