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サイクルロードレース コラム 2026年9月13日

火花飛び散る最終山岳ステージ。ランダが不屈の勝利を飾り、マスは総合優勝に王手|ブエルタ・ア・エスパーニャ2026 レースレポート:第20ステージ

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ブエルタ・ア・エスパーニャ

ミケル・ランダが歓喜の区間勝利

何度つまずいても、そのたびに立ち上がってきた。そんな苦労人の信念が、最後の最後に大きな勝利を引き寄せた。美しく、感動的なフィナーレ。今年限りでワールドチームを離れるミケル・ランダが、2026年ブエルタ・ア・エスパーニャのクイーンステージを制し、長く苦しかった時間を最高の形で昇華させた。

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「信じられないほど感動している。シーズンもブエルタも、僕にとっては本当に厳しかった。でも今日が最後のチャンスだったから、逃したくなかった。期待はしていたわけではないけど、ずっと夢に見てきたことでもある」(ランダ)

波乱に満ちた午後の終わりに、エンリク・マスは危なげなく首位の座を守り切った。初めてのグランツール総合制覇まで、残すは1日。マイヨ・ロホを颯爽とまとい、最終日のグラナダへと進み入る。

ウノエックスの奇襲、大量の前待ち組。クレイジーなスタート

まるで打ち上げ花火だった。スタートフラッグが振り下ろされると同時に、ワウト・ファンアールトが導火線に火をつける。マイヨ・ベルデをまとう俊足は、5つの峠が待ち構える難コースへ、弾丸のように飛び出していった。

風が強い荒野の一本道で、次に仕掛けたのはウノエックス・モビリティだ。ランドアバウトで集団が長く伸びた隙を突いた。チームの8人中6人が塊となって突き進む。驚くべき「チームタイムトライアル」の始まりだった。

横風が、さらなる刺激をもたらした。メイン集団に分断が発生する。赤ジャージのマスや総合3位のフェリックス・ガルが後方に取り残されるカオスに、両者のアシストは必死の対応を迫られた。

幸い、すぐに丘陵地帯に入ると、メイン集団は再びひとつになる。前方では、ファンアールトを含む2人組とウノエックス集団の12人が合流。逃げの形が整いつつあった。

静かな時間は、長くは続かない。分断劇の終焉からわずか10km。モビスターが高速牽引に切り替えたかと思うと、2選手を前に送り出した。チーム伝統の前待ち作戦だ!

総合リーダーチームの動きに、総合2位プリモシュ・ログリッチ擁するレッドブル・ボーラ・ハンスグローエと、総合4位リチャル・カラパス率いるEFエデュケーション・イージーポストのアシストが即座に反応。これを合図に、脚自慢たちが次々と前へ抜け出していく。

ブエルタ・ア・エスパーニャ

ウノエックスが人海戦術

いつしか、14人の先頭集団とマイヨ・ロホ集団の間には、巨大な第2集団が出来上がっていた。総勢54人。今大会に参加する23チームすべてが、漏れなく人員を送り込んだ。

総合上位チームも例外ではない。EFからは最大の5人。モビスターは3人、レッドブルは2人+先頭集団1人。今区間を6人でスタートし、序盤の落車リタイアでさらにアシスト1人を失ったデカトロン・CMA CGMは、1人+先頭集団1人と最小限の前線配置に留まった。

またヴィスマ・リースアバイクは4人+先頭集団のファンアールトで、数的優位を築いた。スーダル・クイックステップからも、ランダを含む4人が飛び乗っていた。

クスとカラパス、同じ山で動き、違う運命をたどる

前線ではウノエックスが無我夢中で前進を続けた。この日最初の1級山岳に差し掛かる頃には、54人の集団に対して、3分半ほどのリードを築き上げた。メイン集団との差は、すでに11分を超えていた。

フィニッシュまでは、いまだ100kmも残っていた。ところが1級山岳の激勾配に差し掛かると、総合11位のセップ・クスが加速に転じた。2023年ブエルタ覇者はすでに総合で11分以上も遅れている。その動きを咎める者はいない。

だが、その3kmほど先で、カラパスが爆弾を投下する。

2019年ジロ総合勝者は、総合表彰台を狙って、連日のように山で揺さぶりをかけていた。この日も例外ではない。鬼気迫るダッシュで山を駆け上がり、クスに合流すると、後方のライバルたちを引き離しにかかった。

追走の全責任を負わされたのは、総合順位でひとつ上のガルだった。側に残った2人のアシストを使い切り、最後は自ら懸命に差を詰める。……マスとログリッチしか後輪に残れないほどの猛追だった。

こうして山を上り終える頃には、無事にカラパスとクスをとらえた。もし少しでもタイミングが遅れていたら、永遠に取り逃がしていたかもしれない。山頂を越えたところでは、巨大集団から下りてきたEF2人とヴィスマ1人が待ち構えていた。

ブエルタ・ア・エスパーニャ

クスとカラパスの攻撃

「僕らには失うものなんか何もなかった。今までのように終盤まで待つのではなく、異なる展開を試したかった」(カラパス)

同じ1級山岳を、この日のプロトンは立て続けに2度上った。いずれの山頂もファンアールトが先頭で通過し、山岳賞争いでも首位まで16ポイント差に迫るという、相変わらずの謎脚質を披露していた。その背後で、戦況はさらに熱を帯びる。

にらみ合う総合上位4人を尻目に、またしてもクスが前へ出る。数キロ先では、カラパスも再び飛び出した。

2人の運命は、ここで分かれた。カラパスを、もはやライバルたちは自由にはさせなかった。アシストのいないガルは迷わず腰を上げる。新たなEFの1人が、山頂の手前で待ち構えていたものの、アシストもろとも回収した。

一方のクスは、今度こそ誰にも追いつかれなかった。

当初はステージ優勝を狙うつもりだった。ただ、一度後方に引き戻された時点で、その可能性は消えていた。それでも、前で待っていたチームメイトたちは、献身を惜しまなかった。中間ポイントでも首位通過を決めたファンアールトは、その後の山岳ポイント収集を放棄し、クスの合流を待った。最後はヨルゲン・ノードハーゲンが、クスを叱咤激励しながら、フィニッシュまで運びきった。

総合順位は11位から5位へ、一気にジャンプアップ。今年のジロで区間勝利を上げ、嬉しい3大ツール全区間勝利を達成したクスは、2023年に続く人生2度目の「同一年3大ツール全出走」という挑戦を、笑顔で締めくくった。

「パズルのピースがすべて、あるべきところに収まったような感覚だった。チームメイト全員が今日の結果に貢献してくれた。これぞ僕らチームのアイデンティティそのもの。このチームの一員であることを誇りに思う」(クス)

最悪の1年の、最高の1日──不屈のランダ

1級山岳の二重登坂を終え、ダウンヒルに入った残り50km。ついにランダが先頭集団に合流した。

さらにはラムセス・デブライネも追いついた。大量の前待ち組を抱え、統制を失っていたであろう巨大な54人の集団から、勝負の場へたどり着いたのは2人だけ。そして先頭はこの2人と、ウノエックスのトビアス・ヨハンネセンの3人に絞られる。

ブエルタ・ア・エスパーニャ

先頭は3選手に絞られた

しかし3度目のグランツール出場ながら、初めて3週目までたどり着いたデブライネは、プロ初優勝には届かなかった。7月のツールでもブエルタでも繰り返し逃げたヨハンネセンは、今大会2度目の区間2位と、この日のウノエックスを象徴するような敢闘賞だけで、満足するしかなかった。

残り7km、最終峠でランダは立て続けに2度加速すると、ひとり栄光へと飛び立った。

「チームが僕を信じ続けてくれた。ブエルタの期間中もずっと気遣い、支えてくれた。そんな彼らのために、僕は頑張った」(ランダ)

今季はジロとツールを転戦する予定だった。ところが4月のイツリア・バスク・カントリーで、ドクターカーに接触され落車。骨盤を骨折し、2か月の戦線離脱を強いられた。その後も長く苦しい時を過ごした。このブエルタでも、存在感を示せず苦しんだ。

ランダのキャリアは、希望と不運の繰り返しだった。

ジロの総合表彰台には2度立った。アルやエヴェネプールの初めての表彰台に立ち会い、フルームのツール総合2勝にも貢献した。一方では絶対的エースの下で、自分の走りをさせてもらえないもどかしさも味わってきた。

2016年ツールの表彰台は1秒差で届かず、2019年ジロは、最終日に逆転で4位に転落した。なによりジロでは悲劇に何度も見舞われた。2017年大会は警察のオートバイによる落車、2021年大会はコース警備員による落車、2025年大会は第1ステージに骨折リタイア……。

それでも今シーズンが、ランダにとって「キャリアの中で最も過酷な1年」だった。

「子どもたちのことを考えた。このまま家に帰るわけにはいかなかった。いつか、彼らがこの走りを見て、その意味を理解してくれたとしたら、決して諦めてはならないんだと知ってほしい」(ランダ)

不屈の精神。長い苦しみの果てに、ランダに解放の日が訪れた。5年ぶりの勝利。9年ぶりのグランツール区間勝利。36歳大ベテランは喜びを噛み締め、静かに涙を流した。

「キャリア最高の日かもしれない。たくさん苦しい思いをした。今日は、すべてのことに意味があったのだと思える」(ランダ)

今季限りで現チームを離れ、来年からは古巣エウスカルテルで走る。14年ぶりに、オレンジ色のジャージをまとう。

最後の攻防、4人それぞれの戦い

マス、ログリッチ、ガル、カラパス。4人による複雑に絡み合ったバトルは、際どい均衡を保っていた。

総合3位ガルと4位カラパスの2分16秒差を巡る戦いは、3つ目の1級山岳でクライマックスを迎えた。前待ちのカードを早々に切り、すでに2度のアタックを試みていたカラパスは、さらに4度も仕掛けた。最後まで前で待っていた1人が、献身的に、何度でも発射台役を務めた。

もちろん、これまで2度も自ら穴埋めにまわったガルは、もはやライバルの後輪から目を離さなかった。残す4度の攻撃にも瞬時に反応。すべてを封じ込めた。

総合1位マスと総合2位ログリッチの1分37秒差の睨み合いは、3つ目の1級山岳の手前から始まった。前方にはそれぞれ3人のアシストを送り出していた。モビスターが最初の1人を下げたのに対して、レッドブルはここで2人を投入。速いテンポで上りへ突入する。

しかし、カラパスの猛攻が続くなか、2人を使い切っても、ログリッチは動かなかい。そのうち涼しい顔でペダルを踏み続けるマスには、新たなアシストが馳せ参じた。最終峠に入ると、レッドブル最後の1人が、エースの前に立ってペースを上げる。やはり、その作業が終わる絶妙なタイミングで、モビスター最後の1人が姿を表した。

1分24秒差の総合2位と総合3位が、入れ替わる可能性さえあった。前待ちの恩恵をほとんど受けず、1つ目の1級山岳からほぼ独力で切り抜けてきたガルが、最終峠の終わりに加速を切ったのだ。

ログリッチはここでも動けなかった。ガルは黙々とペダルを回し、遠ざかっていく。それでもブエルタ史上最多タイの総合4勝を誇る36歳──ランダと同い年──は、歯を食いしばって腰を上げた。最後の力を振り絞る。

単独最多となる5度目の総合優勝こそ果たせなかった。ただきっと、7月末のトレーニング中に自動車事故に遭い、出場さえ危ぶまれていたログリッチにとって、総合2位は勝利に等しい。総合29秒差まで追い詰めたガルも、今年のジロ総合2位に続く人生2度目のグランツール表彰台を、ほぼ確定させた。

マスはガルに素早く反応した後、落ち着いてマイペースに切り替えた。その地位を脅かすものは、もはや何もなかった。落車で大会を去ったタデイ・ポガチャルから、大会8日目に引き継いだマイヨ・ロホ。輝かしい王者の証を、総合リーダーにふさわしい堂々たる走りで、ついにここまで守り抜いた。

ブエルタ・ア・エスパーニャ

マイヨ・ロホを守りきったマスのフィニッシュ直後

「これまでにない感情がこみ上げてきて、何と言えばいいのか分からない。チーム、家族、友人、そしてファンの皆さんに感謝したい。自転車を始めた頃からの思い出が、次々と蘇ってくる。言葉にならない」(マス)

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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