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山岳ステージで輝くエンリク・マス
かつてのチームメートに敗れて初チャンスも区間2位
2026ジロ・デ・イタリア第11ステージ。大会初出場のエンリク・マス(スペイン、モビスター チーム)は当初のアタックに遅れたものの、最終的には17人の集団に加わった。ステージ終盤でマスが幾度かのアタックでペースを上げると、最後の登坂でマスに唯一ついていけたのは、ジョナタン・ナルバエス(エクアドル、UAEチームエミレーツ・XRG)だけだった。
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スペイン・マヨルカ島出身のクライマーは、2017年にクイックステップでワールドチームデビューを果たす。翌年に加入してきたのがナルバエスだ。つまり第11ステージで優勝を目指して戦った2人はプロデビュー直後の時期のチームメートだった。
2人でフィニッシュに向かう中、マスはペースメーカーとしての役割を担い続けた。「今日はナルバエスを振り切るのは不可能だった。それに加えて、先頭からのアタックのタイミングが非常に悪かった」と2位に甘んじたゴール後に敗因を語った。
「登りで彼を振り切ることができず、最後の賭けでスプリントを試みた。彼の方が速いのは分かっていたが、リスクを冒すしかなかった」とマス。「2位は決して理想的ではないけど、チームは徐々に回復している」
この大会でモビスター チームはほぼ全員がウイルスに感染してしまい、マスは序盤の落車もあって総合優勝争いから脱落。厳しい1週間を過ごしたが、コンディションは回復している。「脚の調子はよくなっていると感じている。今日、私より強かったのはジョニー(ナルバエス)だけった。短い登りが続くこのコースは彼にとても合っていたので、互角の戦いだった。最後の登りで彼を振り切れるか試すためにアタックして先頭に立ったが、無駄だった」
ブエルタ・ア・エスパーニャ総合2位3回、区間2位5回
マスはツール・ド・フランスとブエルタ・ア・エスパーニャにそれぞれ7回出場しているが、ジロ・デ・イタリアは満を持しての初参戦だった。これまでプロレースで41回トップ3入りを果たしてして、その内訳は優勝6回、2位18回、3位17回。2022年のジロ・デッレミリアでの優勝以来、マスは14回表彰台(ステージレースの区間を含む1〜3位)に上がっているものの、その中央に立つことはできていない。
第11ステージでは勝負にでたマス
2018年のブエルタ・ア・エスパーニャでアンドラの山岳ステージを制して初優勝。その年はスペイン期待のアレハンドロ・バルベルデが絶不調で、総合2位とヤング・ライダー賞を獲得したマスが一躍脚光を浴びた。クイックステップ3年目の2019年にはツール・ド・フランスに初参加し、山岳を得意とするマスが総合のリーダーになる予定だった。ところがチームのジュリアン・アラフィリップがマイヨ・ジョーヌを獲得したことで急きょアシストに回ることになった。
2020年に地元スペインのモビスター チームにエース待遇で移籍。それにしても2位が多い。メジャー優勝は前出の2018ブエルタ・ア・エスパーニャの区間1勝のみと言っていい。ブエルタ・ア・エスパーニャは2018・2011・2012総合2位、2024総合3位。ブエルタ・ア・エスパーニャでのステージ2位は5回。2022イル・ロンバルディア2位。ちなみにツール・ド・フランスでは2020年が総合5位、2021年が総合6位である。
かつてフランスにレイモン・プリドールという選手がいて有望視された。ツール・ド・フランス5勝のジャック・アンクティルと時代を同じくしてしまった不幸があり、プリドールはなかなか勝てなかった。アンクティルが引退するとエディ・メルクスが登場し、プリドールはいつも2位だった。「エターナルセカンド(万年2位)」というニックネームさえつけられたが、それでもフランスのファンは怪物たちに果敢に挑む姿を称賛し、その人気は絶大だった。御存知のとおり、マチュー・ファンデルプールの祖父である。
マスも31歳とベテランの域になり、心機一転でジロ・デ・イタリアに初めて乗り込んでみたが、まだ勝てない。このままエターナルで終わるのか? コンディションを上げつつあるマスが1位を取るステージが実現するか?
マスが女子チームのジャージを着用していたワケは
大会期間中、「マスが着用するモビスター チームのジャージに、UCI Women's WorldTeamのロゴがプリントされている」というSNS投稿があった。モビスターの男女のチームジャージはデザインが酷似しているが、マスが着ていたものには男子の「UCI WorldTeam」ではなく、女子ワールドチームのロゴが胸にプリントされていると気づいたファンがいたようだ。
1位を取るステージが実現するか?
これがコメント付きで転載され、「身体が細いので女子ジャージを戦略的に選んでいるのかな」「こだわりがあるのだろう」などといった憶測が飛び回る。
実際には、どうやらマス自身は指摘されるまで全く気づいていなかったようだ。第8ステージ終了後の夜、チームメートのイバン・ガルシアから教えられて初めて知り、「みんなで大笑いした」という。
原因は開幕時にチーム内でウエアを支給・分配する際のパッキングミス。着用してレースで使っていてもなぜ気づかなかったのかというと、マスは普段から「Sサイズ」のタイトなジャージを着用していて、「受け取ったジャージのサイズ感やビブショーツのフィット感が自分の体に完璧にフィットしていたため」そのまま着用したというのが真相だ。
マスは第9ステージから本来の男子用ジャージに着替えてレースを続行。そんなほほえましいエピソードを作ってくれた選手のガッツポーズをぜひみたい。
文:山口和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴30年超のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、東京中日スポーツ、ダイヤモンド・オンライン、LINEニュース、Pressportsなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、講談社現代新書『ツール・ド・フランス』。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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