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サイクル ロードレース コラム 2024年5月20日

【ジロ・デ・イタリア2024 レースレポート:第15ステージ】天下無敵。最難関ステージを射止め、ポガチャルのピンクはさらに色濃く。「今の自分に満足している。タイム差も、チームも、すべてにおいて」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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思い出の地で特別な勝利を挙げたポガチャル

思い出の地で特別な勝利を挙げたポガチャル

あらゆる喝采も、あらゆる栄光も、ただマリア・ローザのためだけに存在した。今ジロで最も長く、最も獲得標高が多く、最もフィニッシュ標高の高いクイーンステージで、タデイ・ポガチャルが王としての格を見せつけた。ラスト15kmの一人旅。雪の残る山頂でステージ4勝目を祝い、総合2位以下との距離を、さらに6分41秒へと押し開いた。大会2週目の終わりに、2024年ジロ・デ・イタリアの総合優勝争いは、どうやら完全に決着がついた。

「キャリア最高とは言えないまでも、本当に素晴らしい1日だった。チームは素晴らしい仕事をしてくれたし、イタリアでお気に入りの場所、ここリヴィーニョでの最難関ステージを勝つことができて、すごくハッピーだ」(ポガチャル)

シモン・ゲシュケの意地が巨大な逃げ集団を生み出す

ゲシュケの意地が巨大な逃げ集団を生み出す

すべては壮大な前座に過ぎなかった。スタート直後にあっさりと12選手が飛び出すが、それを良しとしないコフィディスが、執拗に高速テンポを刻み続けた。2022年ツールではヨナス・ヴィンゲゴーのお下がりで山岳ジャージを最終日まで身にまとい、この日も山岳賞でダントツ首位を突っ走るポガチャルの代わりにマリア・アッズーラを着ていたシモン・ゲシュケが、どうしても逃げを諦められなかったのだ。チームメイトの助けを得たヒゲのベテランは、ステージ最初の3級山岳の上りで、毅然と先頭集団との3分差を埋めにかかった。とてつもなく大量の仲間を引き連れて!

スタートから64km、続く2級山岳の山頂手前で、ゲシュケはついに先頭へと合流を果たす。終わってみれば、最高で山岳157ポイント収集可能なところ、たったの19ポイントしか収集できないのだけれど……58人という巨大な逃げグループの形成には一役買った。つまりこの朝スタートラインに並んだ151選手の、3分の1以上が最前線に集い、今ジロに参戦する全22チーム中19チームが選手を送り込んだことになる。VFグループ・バルディアーニCSF・ファイザネが前に6人も揃えた一方で、イスラエル・プレミアテックとバーレーン・ヴィクトリアス、そしてポガチャルのUAEチームエミレーツだけは全員がメイン集団に留まった。

カーデン・グローブスカレブ・ユアン、2人のピュアスプリンターさえ潜り込んだ逃げ集団は、最大5分半のタイム差をつけた。総合最上位は9分11秒遅れのマイケル・ストーラーで、逃げの途中には暫定表彰台まで競り上がった。もちろん、すでに総合2位以下に3分41秒差をつけていたポガチャルにとっては、痛くも痒くもなかったはずだ。

虎視眈々とメイン集団を牽引するポガチャルとUAEチーム

虎視眈々とメイン集団を牽引するポガチャルとUAEチーム

それでもUAEは、チーム一丸となって集団牽引に励んだ。理由はただひとつ。12月のコース発表時から、ポガチャル本人が、この日は絶対に勝とうと決めていたから。フィニッシュ地のリヴィーニョは、繰り返し高地合宿に訪れた地だったし、なによりも婚約者の「ウルシュカと初めてデートをした想い出の場所」だったから!

そんなエースの野望を叶えるために、2級山岳後の谷間の平地では、スプリンターのフアン・モラノを含む3人が長らく先頭を引いた。1級モルティローロでは、まずはヴェガールスターケ・ラエンゲンが、さらにはドメン・ノヴァクが、黙々と任務を全うした。他のチームは一瞬たりとも作業に協力しなかったが、構わなかった。

一方、人数が多すぎたせいか、先頭集団の足並みは必ずしも揃わなかった。アスタナカザクスタンやバルディアーニは早めに仕掛けることを好み、そのたびに他の山岳巧者たちは脚を削っていく。繰り返される離合集散。残り24km、この日4番目の、すなわち最後から2番目の1級山岳に足を踏み入れる頃には、先頭は10人にまで絞り込まれていた。いまだリードは3分以上も残っていた。

実はこの3分という差に、UAEの監督勢は、少々焦りも感じていたのだという。しかも1級に上り始めた直後、逃げ集団内から、ゲオルグ・シュタインハウザーが加速を切った。元プロ選手の息子にして、元ツール総合覇者ヤン・ウルリッヒの甥である22歳は、たくましい足取りで先を急ぎ始めた。マリア・ローザ集団に対するリードも、3分45分にまで押し広げた。

ポガチャルに敗れるも山地での実力を示したキンタナ

ポガチャルに敗れるも山地での実力を示したキンタナ

さらには残り17km、ナイロ・キンタナが追走に転じた。チームメイト2人とともに逃げに潜り込み、静かに、その時を待っていた2014年ジロ総合覇者が、ついに動いたのだ。数々の不遇が重なり、もはやグランツール表彰台常連だったかつての勢いこそないものの、コロンビアの高地で生まれ育ったピュアクライマーの攻撃は、紛れもなく驚異になり得た。

もちろんUAEのチームメイトたちは、エースを信じ続けた。険しい上りの始まりとともに、いつもどおりにフェリックス・グロスシャートナーが最前列で汗を流した。残り18km前後からは、「まったく心配なんてしていなかった」と笑い飛ばしたラファウ・マイカが、発射台作業に取り掛かった。あらん限りのスピードを振り絞り、すでに20人ほどにまで小さくなっていたメイン集団を長く細く引き伸ばし……ある瞬間でふと脇にそれた。残り15kmのアーチの手前だった。同時にポガチャルが、前方へとしなやかに躍り出た!

ただ一度の加速で、すべては決した。総合3位ダニエル・マルティネスだけは、とっさに後を追いかけようとした。しかし総合2位ゲラント・トーマスがピクリとも反応せず、淡々とリズムを守り続け、総合4位ベン・オコーナーがアシストに牽引役を託したのを知るや、マルティネスもおとなしく引き下がった。「元」総合ライバルたちは、もはやポガチャルに張り合おうとはしなかった。誰もが残された表彰台の場所を確保するための、小さな戦いに集中した。

「アタックは予想していた。だってUAEは1日中ハードに牽引を続けていたからね。彼らは正々堂々ステージを獲りに行ったんだ。ポグが飛び出したとき、一緒についていきたいとも思ったけど、実際にそうしていたらあっけなく後方へ吹き飛ばされていただろう」(トーマス)

走行距離はすでに200kmを超えていた。高みへと大きく羽ばたいたポガチャルの、勢いはますます増していった。ラスト9kmでシュタインハウザーを捕らえた。1級山岳を先頭でこなし、短いダウンヒルへと高速で突っ込んだキンタナをも、ラスト2kmでついに前から引きずり下ろした。10年前のマリア・ローザを、2024年のマリア・ローザは、一瞥もせずに抜き去った。

「キンタナと(クリス)フルームが互いに争っていた時代、彼がフィニッシュの間近まできてからようやくアタックに転じる姿勢に、僕はいつも腹を立てていたものさ。だってキンタナは決して遠くからトライしなかったから。でも今日の彼は、本当に素晴らしい走りを見せた」(ポガチャル)

今大会の最難関ステージで「怪物」が圧倒的な力を見せつけた

今大会の最難関ステージで「怪物」が圧倒的な力を見せつけた

細くうねる土の道も、フィニッシュ直前に立ちはだかる壁も、もはや障害にはならなかった。獲得標高差5400mを脚に溜め込んでもなお、ポガチャルの顔は生気で輝いていた。標高2387mの山頂では、空に向かって、大きく両手を投げ出した。これにて区間4勝目。昨季まで新人賞候補だった25歳の、グランツール全体の区間勝利は早くも18に達した。6.5ステージに1つは勝っている計算になる。さすがにマーク・カヴェンディッシュの現役最多54勝には遠く及ばないが、あと1つ勝てば、プリモシュ・ログリッチの現役2位記録に並ぶ。

キンタナは「良き後味」を抱きつつ29秒遅れの2位で終えた。また今区間にした山岳65ポイントだけで、山岳賞争いは一気に3位へと浮上した。区間3位シュタインハウザーは初めてのグランツールで初めてのひと桁台を射止めた。あれだけ大量の逃げ集団から、好成績を残せたのは、この2人だけだった。

ポガチャルの「元」総合ライバルたちの中では、ロマン・バルデだけが最終盤に小さな加速を試み、2分47秒遅れで先着した。総合15秒差でにらみ合うマルティネスとトーマスは、揃って2分50秒遅れで山頂にたどり着き、オコーナーはその8秒後に1日を終えた。最後までエースを支え続けた総合6位テイメン・アレンスマンは、3分05秒差でフィニッシュ。前日のタイムトライアルでの疲労がたたり、人生最悪のバッドデーを経験したというアントニオ・ティベーリは、3分55秒遅れた。つまりマリア・ビアンカと総合トップ5の両方を脅かす危険人物から、51秒を失ったことになる。かろうじて19秒のリードを保ち、勝負の3週目へと臨む。

歴史的なタイム差をつけてジロ制覇へ突き進む

歴史的なタイム差をつけてジロ制覇へ突き進む

ジロ・デ・イタリアは決して終わるまでわからない。過去10年のうち、7大会で、3週目にマリア・ローザが交代してきた。しかし2024年は、数少ない例外かもしれない。ポガチャルは総合2位とのタイム差を6分41秒へと拡大した。第15ステージの段階で、総合首位がこれほどまでに大きなリードを有していたのは、なんと1954年ジロ以来70年ぶりなのだ。

「今の自分に満足している。タイム差も、チームも、すべてにおいて。もしかしたら、この先は、もう少しリラックスして走れるかもしれない。とにかく1日、1日、状況を見ながら組み立てていく。とにかくローマまでジャージを持ち帰ることに集中していく」(ポガチャル)

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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