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サイクル ロードレース コラム 2021年6月23日

プリモシュ・ログリッチ物語《栄光の欠片》| フライングイエローマシーン

ツール・ド・フランス by 宮本 あさか
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フライングイエローマシーン

フライングイエローマシーン

掴みかけた栄光は、わずかばかりの欠片を残してその男の手からこぼれ落ちたーー。あの衝撃的な敗戦の記憶を背負い、失った栄光を取り戻す戦いに再び挑む、プリモシュ・ログリッチという一人の男の物語。全6話。

4話:フライングイエローマシーン



真夏を全開で駆け抜け、8月29日のツール開幕地に乗り込んだユンボ・ヴィスマの勢いは、まるで留まるところを知らなかった。



昨年31年ぶりにツールに復活したオルシエール=メルレット。1971年初登場時にルイス・オカニャがあのメルクスから黄色いジャージを奪い取った地として、自転車界にその名を轟かせているその山を制したのはログリッチだった。

昨年31年ぶりにツールに復活したオルシエール=メルレット。自転車界にその名を轟かせている1級山岳を制したのはログリッチだった。



4日目にプリモシュ・ログリッチが大会初の山頂フィニッシュで自らの優位を示すと、翌5日目にはワウト・ファンアールトが区間制覇。



第5ステージに続き、第7ステージでも区間勝利を手にしたワウト・ファンアールト。

第5ステージに続き、第7ステージでも区間勝利を手にしたワウト・ファンアールト。



風分断で荒れた7日目には、ログラは問題なく先頭集団で切り抜け、再びワウトが驚異的なスプリントの脚を見せつけた。





この強い風の中で、タデイ・ポガチャルは、1分21秒ものタイムを失う。優勝戦線からの一時脱落。





ところが翌8日目、最終盤のアタックで、あっさり40秒回収を成功させてしまうのだ。「総合首位でもないのに」と揶揄されながらも、ユンボ・ヴィスマが責任を持って戦況制御を務めていたにも関わらず。



レース前に笑顔で会話するポガチャルとログリッチ。スロベニア人の二人は、ライバルであり、良き友でもある。

レース前に笑顔で会話するポガチャルとログリッチ。スロベニア人の二人は、ライバルであり、良き友でもある。



もしかしたら、前秋ブエルタで見事な協力者となってくれた9歳年下の可愛い後輩に対して、ログラの中に少し甘い想いがあったのかもしれない。





むしろ厳しく警戒していたのはエガン・ベルナルだった。結局イネオス・グレナディアーズのソロリーダーとして乗り込んできた2019年ツール総合覇者は、「ボーナスタイム差」のみで、ピタリと後を追いかけてきていたからだ。



フィニッシュライン手前250mからのスプリント勝負を制したポガチャルがツール初区間勝利「どうやってスプリントを勝ったのか分からない。可能な限り強くペダルを踏み込んだだけ。クレイジーだ。これほどハードな1日の終わりにステージを勝てるなんて、ただただ信じられない」(ポガチャル)

フィニッシュライン手前250mからのスプリント勝負を制したポガチャルがツール初区間勝利「どうやってスプリントを勝ったのか分からない。可能な限り強くペダルを踏み込んだだけ」(ポガチャル)



そして第9ステージの終わり、大会1週目の締めくくりに、ついにログリッチはマイヨ・ジョーヌをその肩に羽織る。できる限りボーナスを収集したいユンボのリーダーを、フィニッシュラインで蹴散らしたのは、ポガチャルだった。





ひとたび黄色い衣を手に入れてからは、ユンボの威力はますます拡大した。



マイヨ・ジョーヌを纏ったログリッチを黄色い護衛隊が囲む。プロトン内の勢力争いで優位に立つイエローマシン。

マイヨ・ジョーヌを纏ったログリッチを黄色い護衛隊が囲む。プロトン内の勢力争いで優位に立つイエローマシン。



数年前のチーム・スカイ列車が「自動制御装置」などと恐れられたのだとしたら、イエロー隊列はまるで意思を持ったひとつの有機体。チームのゼネラルマネージャーは、オランダの英雄ヨハン・クライフとサッカーオランダ代表を例にあげながら、「体現するのはトータルサイクリング。我々をイエローマシーンと呼んでくれたまえ」と高らかに宣言さえした。



大会史上初の無観客山頂フィニッシュを制してたポガチャルが2020年大会2つ目の区間勝利をもぎ取った。僅差で敗れたログリッチはレース後に「ギフト?いやいや、違うよ。彼の方が強かっただけ。僕は本当に勝ちたかったんだから!だから少しがっかりしてる。でも彼はとにかく強かったんだ」とコメント。

大会史上初の無観客山頂フィニッシュを制してたポガチャルが2020年大会2つ目の区間勝利をもぎ取った。僅差で敗れたログリッチ「ギフト?いやいや、違うよ。彼の方が強かっただけ」



13日目を境に、背中に爆弾を抱えたベルナルは減速し、第16ステージを最後に大会を離れた。一方のポガチャルは、その13日目に総合2位へと軽やかにジャンプアップした。15日目にはユンボの5人隊列をたったひとりで打ち破り、2つ目の区間勝利をさらい取った。



無料動画

ツール・ド・フランス 2020 第15ステージ ハイライト

大会終盤も高いチーム力を発揮したイエロー隊列。セップ・クスに導かれたログリッチはライバルたちを蹴落とし、総合優勝へと確実に、一歩ずつ近づいているように誰もが思っていたはずだったが...

大会終盤も高いチーム力を発揮したイエロー隊列。セップ・クスに導かれたログリッチはライバルたちを蹴落とし、総合優勝へと確実に、一歩ずつ近づいているように誰もが思っていたはずだったが...



しかし17日目、大会最高標高地点へと向かう恐ろしい山道で、山岳隊長セップ・クスの見事な働きに最後まで支えられたログラに対して……孤独なポガチャルは力尽きた。総合差は57秒。翌日すかさず反撃を試みるも、エース役から献身的なアシスト役に転身したトム・デュムランや、超級山岳すら軽々超えたファンアールトにガッチリと支えられた国の先輩に、軽くいなされた。





「難しいステージが連日続いたけれど、チームが一丸となって凄まじい仕事をしてくれた。全てが上手く行ったし、僕も脚の調子はすごく良かった。つまり、僕にとっては、またしても良い1日だったというわけ」(ログリッチ)


ーーー続く。(4/6)

文:宮本あさか

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宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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