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前ステージの余波は、今朝になっても収まることはなかった。ガゼッタ・デッロ・スポルトの一面には「キンタナ・ローザ・コン・ジャッロ=まるで推理小説のように、キンタナがマリア・ローザ獲得(ローザはばら色、ジャッロは黄色で、犯罪小説のペーパーバックの色を指す)」という大見出しが踊った。
この日の朝、スタート地では、複数チームのゼネラルマネージャーや監督がチームバス駐車場の影に寄り集まって、なにやら話し合いを行っていた。「撮影をしないでくれ!」「ジャーナリストはあっちへ行ってくれ!」というかなりピリピリした状況の中で、とりあえずレースボイコットだけはしないことに決めたようだ。ただ、ナイロ・キンタナとライダー・ヘシェダル、ピエール・ローランにペナルティとして2分を課すべきだ、という主張を開催委員会に訴えた。
「最初にこの話を聞いたとき、冗談かと思った。笑っちゃったよ。だって全員が前にいたわけだし、テレビを見ていた人たちは、実際に何が起こったのかを全て見届けたはずなんだから。ボクは自動車やバイクの後ろにくっついて下りたわけじゃない。自転車で、他のみんなが走った道を、降りただけ。たとえば車に引っ付いて下ったとか、近道をしたとか言うなら、2分ペナルティが課されてもしょうがないけど……。でもボクは他の選手と同じように走って、勝ったんだ!どうしてボクのタイムを削ろうとするのか、分からないよ」(ナイロ・キンタナ)
白熱した議論を、最終的に、UCI国際自転車競技連合が収めた。オメガファルマ・クイックステップのマネージャー、パトリック・ルフェヴェルと同じように、ツイッターで意見を述べて。
「安全に配慮して、ステルヴィオ峠からの下りで各グループの前にオートバイを配置するよう、オーガナイザーは率先して行動した。この行為は審判団によって承認され、チームカーにはもっと効果的に伝えられるべきであった。しかし、安全こそが、当然ながら、あらゆるレース開催委員会とUCIにとって最大に配慮すべき事項なのである」
もちろん現時点では、キンタナに2分のペナルティが課されることもなければ、ルフェヴェルが望むような「ジロ開催委員長の辞任」も予定されていない。
肝心のレースのほうは、とてつもない速度で始まった。最終日の平坦スプリントステージを除けば、この日が最後の、「非」難関山岳ステージ。言い換えれば、最後の「大逃げ」向きデーでもあった。ところが序盤から猛烈なアタック合戦が巻き起こる……というよりは、誰も飛び出せないほどのハイスピードなテンポが刻まれた。なにしろレース1時間目の走行時速は、52.100km!!
ようやく70km以上走った後に、大量26選手が大逃げへの許可を与えられた。逃げの口火を切ったのは、トーマス・デヘント。ステルヴィオへのロングエスケープを成功させ、2012年ジロを総合3位で終えた「逃げスペシャリスト」だ。しかも前に選手を送り込めなかったのは、参加22チーム中コロンビア、ガーミン・シャープ、ネーリソットーリ・イエローフルオ、オリカ・グリーンエッジの4チームのみ。もっともデヘントは総合で2時間23分以上遅れていたし、集団内で総合最高位につけていた2004年総合覇者ダミアーノ・クネゴさえ48分50秒の遅れを喫していたから、後方メイン集団が邪魔立てする理由は一切なかった。26人は大量のリードを頂戴し、2014年ジロ4度目の(ステージ序盤からの)大逃げ勝利は確実となった。
おとなしくタイム差確保に努めてきた逃げ集団は、ラスト30km、デヘントのアタックで再活性化した。さらにポッジオの「壁」通過を利用して、ステファノ・ピラッツィ、マッテオ・モンタグーティ、ジェイ・マッカーティー、ティム・ウェレンスが前方へと追いついてきた。区間の勝負はついに5人へと絞られた。
「データの面では、ボクが一番、スプリントに弱かった」(ピラッツィ)
1年前には山岳ジャージを持ち帰ったイタリア人は、こう打ち明けた。そもそも去年はジャージのために、たくさんの逃げに乗って来た。今年は目標を区間勝利一本に絞り、無駄なエスケープは控えてきた。本人は「これまで2回のみ」とのことだが、ちなみにスタート直後からの大逃げは第8ステージだけで、第14・15ステージは終盤に飛び出しを仕掛けている。
「だからフィニッシュに向けて、できる限りエネルギーを温存しておく必要があった。ゴール前2.5kmにアタックしたけれど、それは追いつかれた。さらにフィニッシュラインまで1.2kmで飛び出した。そのまま、先頭を保ち続けられた。タイミングがぴったりだったんだね」(ピラッツィ)
27歳のプロ初勝利。プロコンチネンタルチームのバルディアーニ・チエセエフェにとっては、なんと今大会3勝目!……ただ残念なことに、ゴール時に「観客に対して不適切な行為があった」として、200スイスフランの罰金を取られてしまうオチが待っていた。イタリア語で言うところの「Gesto dell'ombrello(雨傘ジェスチャー)」、つまり左手を右肘の内側に力強く当てながら右の裏握り拳を見せる行為は、米国で中指を立てるのと同じくらい、欧州では侮辱的行為として受け止められる。
「何というか、自己解放に近かったんだ。自分はいつか勝てる、ってずっと信じていた。でもひどく批判されることが多かった。何も考えずにアタックを打つ、と酷評されてきた。だから今日勝てたことは、ボクにとっては本当に大切だった。感情がそのままジェスチャーに表れてしまった。あんなポーズを取ったことを後悔しているし、皆さんには深く謝罪したい」(ピラッツィ)
メインプロトンは15分36秒遅れでフィニッシュラインへとたどり着いた。外野はさんざん議論したけれど、キンタナは笑顔で再びマリア・ローザを身にまとった。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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