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今季、ダブルツールを狙うヴィンゲゴー
サイクルロードレース2026年シーズン最初のグランツール、ジロ・デ・イタリアの開幕に向けて、あらゆる側面からレース観戦の楽しみ方を探っていくコラム。第1回は、今大会の個人総合優勝候補筆頭にして、いまのプロトンを引っ張るグランツールレーサー、ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ヴィスマ・リースアバイク)にフォーカス。初となるジロ・デ・イタリアへの意気込みから、期待される戦い方、さらには人間性にまで触れてみる。
グランツールのタイトル残りはジロ・デ・イタリア
世界最大の自転車ロードレース、ツール・ド・フランスでは2022年と2023年に個人総合優勝。一昨年と昨年は同2位。いまのサイクルロードレースシーンを牽引するタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ・XRG)と対峙するのは、常にヴィンゲゴーである。ツールで勝ったときも、また負けたときも。いつだってこの2人のマッチアップになる。
昨年のツールこそ敗れたが、ほぼ休みなしの連戦になったブエルタ・ア・エスパーニャでは快走し、初制覇。途中で体調を崩しながらもチーム戦で苦しい局面をしのぐと、大会第3週でライバルを引き離すことに成功。ツールを勝っているその脚は伊達ではないことを証明している。
ブエルタでも総合優勝を果たした
これで、グランツールは2大会で勝った。ブエルタを戦い終えるや2026年のジロ参戦を期待する声が上がると、「視野には入れていきたい」。本気ともリップサービスとも判断しがたい口ぶりだったけれど、実際は前者だった。
2026年が明けると同時にチームが発表したヴィンゲゴーのレースプログラムに、それはあった。ジロ・デ・イタリア。その次には、ツールも記されている。つまりは、ジロとツールの2冠を目指すということである。機は熟した。
実際のところ、ヴィンゲゴー自身があまりグランツール2冠への意欲を口にしていないようなので、ひとまずはジロをどう戦うか注視していく方が賢明だろうか。意外にもジロは初出場。それで個人総合優勝となれば、史上8人目となる全グランツール制覇者となる。
ヴィンゲゴーのストロングヒストリー
ヴィンゲゴーが初めて大きな注目を集めたのが、2021年のツールだった。当時のチームリーダー、プリモシュ・ログリッチ(現レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)を支える山岳アシストとしての参戦だったが、ログリッチが負傷リタイアしたことで、役回りが変わった。その頃すでにトップを走っていたポガチャルに対し、名峰モン・ヴァントゥ―で一時的ながらリードした姿は、そう遠くない未来に王座に就くことを誰もが確信した。
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そこからさかのぼること14年。ヴィンゲゴーは11歳のときに初めて自転車競技に触れた。地元クラブの体験会で、ホームトレーナーに乗ったのがきっかけだった。幼い頃は同年代と走るレースで上位に入れば良い方だったが、アンダー23カテゴリーに上ったタイミングで覚醒。世界的に有名になった下積み時代の水産加工工場で働く姿は、ちょうどその頃の話である。
プロ入りは2019年。現チームでキャリアをスタートさせ、同年のツール・ド・ポローニュ第6ステージでプロ初勝利。翌年のブエルタでは、ログリッチのアシストとして勝利に貢献している。そうして、前記した2021年シーズンへとつながる。
切磋琢磨するヴィンゲゴーとポガチャル
2022年のツールで、ヴィンゲゴーの地位は確立される。前年の走りから、ポガチャルとの2強と目された戦いは、予想をはるかに上回る大激戦。第11ステージのコル・デュ・グラノンでついにポガチャルを引き離すと、第18ステージのオタカムではワウト・ファンアールトらとの好連携でダメ押し。ツール挑戦2回目で初となるマイヨ・ジョーヌ戴冠を果たした。
その強さがより顕わになったのが2023年。怪我明けでツール入りしたポガチャルに対し、ヴィンゲゴーは好調を維持。終始優位にレースを進めると、第6ステージでマイヨ・ジョーヌを確保。ときにポガチャルに先着を許す場面こそあったが、個人タイムトライアルでの圧勝でリードを拡大。最終目的地パリでは、2年連続で表彰台の中央に立った。
2024年は春のレースでの大事故を乗り越え、ツールでは個人総合2位。2025年も春に体調を崩しながらも、コンディションを持ち直して2年連続の2位。どちらも勝ったのはポガチャルだったが、ヴィンゲゴー自身はマイヨ・ジョーヌを奪われた悔しさよりもツール本番で復調できたことを喜んだ。
そこからの流れで挑んだ昨年のブエルタは、前述したように安定感のある走りで初の個人総合優勝。そして2026年シーズンは、ジロを最初の大きな目標として、パリ~ニース、ボルタ・ア・カタルーニャをテストレースに位置付け。どちらもライバルを寄せ付けず、個人総合優勝を決めてジロ本番へとつないでいる。
脚質はツールよりジロ向きか
実績は申し分なし。注目度は今大会ナンバーワンだ。
ヴィンゲゴーの強さは、すべてをハイクオリティにこなす総合力の高さにある。一番の強みと言える登坂力は、標高2000m級の長い上りにも対応し、さらには山岳ステージに多い複数の山々を越えるコースにも高い適性を持つ。その意味では、急峻な山岳地帯がコースに組み込まれるジロのセッティングにはピッタリといえる。何より、北欧デンマークで生まれ育っているから、寒さにも強い。実際に、前記した今年のパリ~ニースでは極寒冷雨の山岳ステージを飄々と走り抜いている。
また、タイムトライアル能力もグランツールレーサーでは随一。過去にツールではタイムトライアルステージで勝ったこともあるし、勝てずとも上位でしっかりまとめるだけのテクニックもある。TTスペシャリストのような大きな体躯ではないけれど(身長175cm・体重58kg)、細身のカラダでもグイグイと踏み込むあたりに巧みさを感じさせる。
平坦ステージで目立つことはあまりないが、レース展開がハイペースになっても集団前方をキープするだけのスピードとハンドリングテクニックはあるので、個人総合争いにおいて一度優位に立ったらその位置を守り続けることができる。
ちなみに、スプリントではこれまでポガチャルとバチバチにやり合ってきているあたりで、決して不得手ではないことが分かる。いざとなれば、山岳ステージを主に猛プッシュ…なんてシーンが見られるかもしれない。
強さと優しさを持ち合わせた紳士
力強い走りにインパクト十分のヴィンゲゴーだけど、ひとたびバイクを降りれば家族思いに良きパパである。グランツールでは、妻のトリーン=マリーさんと2人の子供たちがフィニッシュで出迎える姿も多く見られている。トリーン=マリーさんはもともと自国チームのスタッフを務めていて、ヴィンゲゴーは競技を通じて知り合ったという。
ヴィンゲゴーは現在2児の父親でもある
デンマークの首都コペンハーゲンが開幕地を務めた2022年のツールでは、自国民の大熱狂に感動し、レース前に涙した話はあまりにも有名。サイクルロードレーサーの多くが地元を離れてトレーニング環境の良い地域に移り住む中、ヴィンゲゴーはデンマーク国内にとどまることが多いといい、自国の自転車熱の高まりを日頃から肌で感じている。
レーサーキャリアの前にはビジネスを専門的に学び、その頃に身につけた語学力がインタビュー時に見せる英語の堪能さに起因しているとか。レース内外での取材対応も真摯で、ある年のツールでワインの産地を通った際、レースの話題から脱線し好きなワインの銘柄を聞かれると超真面目に答えて取材陣の爆笑をさらった一面も。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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