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野球 コラム 2023年8月31日

「ガラスのエース」らしい?エンディング、「ドラフト史上最高の選手」だったアンディ・ストラスバーグが引退

MLB nation by 豊浦 彰太郎
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スティーブン・ストラスバーグ

スティーブン・ストラスバーグ

ナショナルズのスティーブン・ストラスバーグ投手(35歳)が引退を決断したようだ。現地9月9日にも会見が持たれるという。

彼は2019年ナショナルズ世界一の立役者で、そのオフ残契約のオプトアウト(破棄)権を行使してFAとなった。その結果、同球団と7年総額2億4500万ドルで再契約したが、その後は胸郭出口症候群などに悩まされ出場は8試合31回1/3のみ。最後の登板は昨年6月だった。

ストラスバーグは2012年から19年までの8年間で7度2桁勝利を記録したが、プロ入り時の「ドラフト史上最高の選手」としての期待度からすると、通算113勝(62敗)少なくともファンの立場からは物足らないキャリアだった。その点では、日本の江川卓とダブって見える。高校・大学時代に「怪物」の名を欲しいままにし、プロでも圧倒的なパフォーマンスを見せたシーズン(1980年は20勝、221奪三振、防御率2.29で投手三冠)こそあったが、わずか9年135勝であっさり引退したからだ。

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サンディエゴ州立大学時代のストラスバーグの評判は圧倒的だった。当時からアドバイザーとしてしっかり付いていたあの辣腕代理人スコット・ボラスが、「契約金は総額5000万ドルが適当」と発言し物議を醸したこともあった。

そして、2009年のドラフトでイの一番の指名権を持つナショナルズに指名された。契約総額は4年総額1510万ドルと、ボラスの吹っかけ額には及ばなかったが、それでも当時としてはドラフト史上最高額だった。実質プロ初年度の2010年6月のパイレーツ戦でのストラスバーグのメジャーデビューは、それ自体が全米的なニュースだった。そして彼は7回14奪三振で、その期待に応えた。

しかし、彼はガラスのエースだった。100マイル近い豪速球を連発する負担に右ひじは耐えられず、その年の8月離脱。トミー・ジョン手術を受けた。そして、問題の2012年を迎える。本格的な復帰シーズンとなるこの年の開幕前に、球団は「今季は160投球回を上限とする」と発表し、それを実践した。ストラスバーグの活躍もあり、この年ナショナルズは2005年の首都移転以来初のポストシーズン進出となる地区優勝を果たすが、もっとも大切な9月の上旬にリミット(正確には159回1/3)に達すると、予定通り球団はストラスバーグをシャットダウンした。手術明けで無理をさせるべきではないというのはもっともだが、160回という数値自体には科学的根拠はない。これは、その先FA権を持つストラスバーグの商品価値を故障により減じたくないボラスが球団にプレッシャーを掛けたから、とのウワサも流れた。

その抑止策のおかげか否かは別にして、その後はコンスタントに活躍した。しかし、故障離脱はそれなりにチョコチョコあった。

実際、2013年にぼくはストラスバーグの登板を見たいがために渡米計画を組んだが、現地入りした後に彼は故障で離脱。生でその豪速球を見る機会を逃したこと。

2019年は、リーグ最多の209回を投げ、18勝で最多勝利のタイトルを獲得した。そしてポストシーズンでは5勝(0敗)を挙げる獅子奮迅の活躍を見せた。ワールドシリーズでは2先発で2勝をマークしMVPに選出された。しかし、この年の大車輪の活躍との因果関係は明らかではないが、結果的にはそれで彼のキャリアは終わった。

ナショナルズでは、2018年オフにもう1人のフランチャイズヒーローのブライス・ハーパーがFAで離脱している。しかし、ハーパー(同地区のフィリーズに移籍し2021年に自身2度目のMVP)を結果的には見送り、ストラスバーグを引き留めた決断は完全に失敗に終わった。

ナショナルズとストラスバーグの契約は来季以降あと3年1億500万ドルが残る。その行方は明らかになっていないが、故障による引退のためそのまま支払われる可能性は高い。「自分が投げられなくなって自分の意思で引退するのにサラリーはしっかり受け取ろうというのか」と怪訝に思われるかもしれないが、球団は故障のリスク込みでその契約をオファーしている。仮にストラスバーグが来年以降のサラリーを返上しようとしても、「世界最強の労働組合」である選手会はそれを許さないだろう。今後の悪しき前例となるからだ。

一般的には、そのようなケースに無駄に支払われるサラリーのそれなりの部分は保険でカバーされる。その場合、実質的な引退後もその選手の名は球団のロースター名簿に「故障者リスト入り」として載り続ける。球団としても、保険金を受け取るためにはあくまで「故障中」というタテマエが必要だからだ(実際にはそれは愚行なので、アンダーグラウンドで球団と保険会社が妥協点を探ることもある)。しかし、ストラスバーグの契約に関しては、「ワシントン・ポスト」は球団は保険に加入していない(故障が多い選手なので加入できなかった?)可能性を示唆している。

いずれにせよ、「ガラスのエース」らしい幕引きと言えなくもない。

文:豊浦彰太郎
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豊浦 彰太郎

1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]

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