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野球 コラム 2023年7月14日

MOBYのMLB取材ノート 〜ジャパニーズ『ウィチタ・ラインマン』~

野球好きコラム by オカモト"MOBY"タクヤ (SCOOBIE DO)
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ウィチタ・ウィンドサージのベンチコーチ、三好貴士さんと

ウィチタ・ウィンドサージのベンチコーチ、三好貴士さんと

昨年8月の「フィールド・オブ・ドリームズ」ゲームを中心とした取材旅行に続き、今年も6月にMLB取材旅行に行ってきました。今回はカブスファンでもあるボクにとっては“里帰り”でもあるシカゴ・リグレーフィールドから始まり、アメリカを周遊してから大西洋を渡り、4年ぶりに開催されたロンドン・シリーズで〆る8泊10日、7試合の観戦旅行。ヒューストンではマックス・シャーザー(メッツ)の力投、ミネアポリスでは復帰登板を二日後に控えた前田健太(ツインズ)の珍しいショート守備練習(「カルロス・コレアがもし怪我をしたら代役に立候補しようと思っている」と発言していました!)、吉田正尚(レッドソックス)の躍動、フィラデルフィアではアーロン・ノラ(フィリーズ)とブライス・エルダー(ブレーブス)の気迫溢れるエース同士の投げ合い、そしてロンドンでの2試合は、まるでアメリカ野球博覧会の様相を呈していました。ロンドンシリーズに関するレポートはまた別の機会で触れられたらと思います。

さて、今回はマイナーの試合も観戦してきました。場所はヒューストンから直行便で2時間弱、アメリカ本土の中心部に位置するカンザス州最大の都市、ウィチタ。世界最大のピザチェーン「ピザハット」が生まれた街であり、1968年にカントリー歌手グレン・キャンベルが歌った大ヒット曲『ウィチタ・ラインマン』がご当地ソングとして知られています。

オレはこの州の電線保安作業員
車で幹線道路を走り
太陽の熱でやられてしまった電線がないか点検している
キミが電線を伝って歌うのが聞こえてくる
風の音がキミの声みたいだ
それでもウィチタの作業員は未だ仕事中なのさ

少しくらい休みたいけど 雨は降りそうにないし
もし雪が降って電線に積もったら 重みには耐えられそうもない
キミが必要なんだ ただ会いたいだけじゃなくて
いつまでも一緒にいたい
それでもウィチタの作業員は未だ仕事中なのさ

雰囲気を出す意味でこの曲を機内で聴いたりしながら、飛行機はウィチタ・アイゼンハワー空港に着陸。UBERでホテルを経由して午後2時過ぎに到着したのは、ミネソタ・ツインズ傘下AAクラス、ウィチタ・ウィンドサージの本拠地リバーフロント・スタジアム。収容人員12,000人の非常に立派なスタジアムで出迎えてくれたのは、今シーズンからこのチームのベンチコーチを務めている日本人、三好貴士さん。「日本から取材に来てくれたの、MOBYさんが初めてです!本当に来てくれたんですね!」と諸手を挙げて出迎えて頂いたのも束の間、既に練習は始まっていて、ボクを広報の方に紹介してすぐに、室内打撃練習場に戻られていきました。

 

三好さんは高校を卒業後、憧れのジャッキー・ロビンソンに導かれアメリカに渡り独立リーグでプレイ、その後コーチを経て監督を務め、所属リーグの最優秀監督賞を受賞するなど手腕を発揮。その実績が認められ、18年からミネソタ・ツインズ傘下のマイナーリーグのコーチに採用されました。日本人としてMLB傘下やNPBでのプレイ未経験ながらMLB傘下のコーチに就任したのはMLB史上初のこと。ルーキーリーグのコーチ、監督を経て21年はシングルAのベンチコーチ、そして今シーズンからダブルAのウィチタ・ウィンドサージにてベンチコーチに就任、監督に次ぐNo.2的存在として選手の指導を担当しています。

休養日明けのこの日は19時試合開始でしたが、三好さんは既に昼には球場入りし捕手の指導、室内打撃練習の補佐を担当し、びっしょり汗をかいている状態。15時くらいから投手たちはブルペンに入りセッション、野手たちはフィールドに出て来て練習開始。先ずはライト点滅を使ったダッシュ練習からスタート。三好さん曰く「この練習は週2回必ず行います。他の種類の全体練習もメジャーからルーキーリーグまで全レベルが基本的に統一したプログラムを行っています。」とのこと。つまりツインズの戦術はどのクラスにおいても基本は一緒、それを徹底して仕込んでいく、という形を取っていることになります。それを浸透させる役割を担う巡回コーチの存在も教えてくれました。

「長年、ケビン・モーガン巡回コーチが全組織を巡回し、チームの戦術や育成方針を各レベルに伝え、それを徹底させています。彼は21年にMLBのフィールド・コーディネーターに就任したんですが、マイナー組織の意思統一が弱くなってしまい、また彼自身もマイナーを指導している方が性に合う、と1年だけでその場を離れ、22年から再び巡回コーチとして戻って来てくれました。とにかく若手には規律を徹底させています。時間の厳守を始め、例えばツインズのマイナー選手はクリーツ(=スパイク)の下にゴムを通すタイプのフレア型ロングパンツは禁止、ユニフォームをしっかり着こなすことなども指導しています」とのこと。この日はたまたまモーガン巡回コーチがいて選手たちにノックを打っていたのですが、声もよく出されていて、若手ひとりひとりにしっかり向き合い指導している様子がこちらにも伝わってきました。

打撃練習が始まると、三好さんはマウンドに立ち打撃投手を務め、通常のマウンドの位置から近い場所で、打者に向かってどんどん投げこんでいきます。その横でチームのボス、ツインズ傘下マイナー組織で監督として通算600勝以上を挙げ、23年WBCではベネズエラ代表で三塁コーチを務めたラモン・ボレゴ監督が内外野を守る選手たちにノックを放っていました。首脳陣のNo.1とNo.2が徹底した現場主義を貫き、選手と同様、もしかしたらそれ以上に汗をかいている。メジャーリーガーを目指す若者たちに、言葉だけではなく、フィールドで一緒にプレイで向き合うことで、その信念や哲学が伝わるのだろうな、と首がもげるほどに頷かざるを得ませんでした。

ツインズは昨今のトレンドでもある、プロ未経験ながら有名大学を卒業したアナリストタイプの打撃・投手コーチも採用している一方で、元メジャーリーガーを筆頭にプロとしてプレイし、引退後に下部組織から現場で指導してきたコーチをバランス良く配置し、それぞれの良さを指導に活かす方針を採っていて、三好さん曰く「自分はある意味“野球”を教えている感じですかね」とのこと。また決して予算が潤沢ではないツインズが、今後ポストシーズンを勝ち抜き、ワールドシリーズを制するため、全組織で徹底している事例を、投手の例を例えに教えてくれました。

「近年はオープナーなどの戦術もあり、先発投手の存在がないがしろになっている傾向にありますが、ツインズはポストシーズンを勝ち抜く為の施策として、マイナーのうちから先発投手には5〜6回をしっかり投げさせて、ローテーションを守らせること、それを夏から秋まで持続させることを徹底しています。チームの投手陣の中で、レベルの高い投手が先発を担う。その後に出てくるリリーフ投手たちは、相対的にレベルが落ちてくる。そのリリーフ投手たちへ、有利な状況を作るのが先発投手の重要な役割でもあります。

これはツインズのレジェンド、そして殿堂入り投手でもあるバート・ブライレブンが若手投手陣に口酸っぱく指導していたのですが、とにかく“ピッチイン”だ、と。先発投手は相手打者の内角を攻めてストライクゾーンを広げ、有利な状況を作ってリリーフ投手にバトンタッチするんだ、と教えてくれました。」 球速が上がれば負担もかかり、登板あたりのイニングが短くなり、消耗しシーズン後半戦まで持たなくなる。先発投手の役割こそが投手陣全体のカギであり、それを全組織で徹底し、三好さんもその重要性、つまりは“野球”を教えている、ということなのでしょう。

試合が始まると三好さんは一塁コーチを務め(監督が三塁コーチ)、試合後にはレポートを作成しフロントに報告、全てが終わるのがいつも天辺越えという激務、それを年間138試合。メジャーへの扉がほんの少し見える位置であろうダブルAで、未来のメジャーリーガーたちを指導する三好さん。つまりウィチタでミネソタ・ツインズの未来を育てる役割を担う、『ウィチタ・ラインマン』で歌われた主人公そのものではないか、と感じずにはいられませんでした。そしていつの日か、トリプルAセントポール・セインツを経由して、日本人史上初となるMLBクラス、ミネソタ・ツインズのコーチに就任されるのを期待しつつ、ツインズの今シーズンの今後の戦い振りも注目して見ていこう、と思います。前田健太投手も復帰したし!

 

文・オカモト"MOBY"タクヤ (SCOOBIE DO)

オカモト"MOBY"タクヤ (SCOOBIE DO)

1995年結成、"LIVE CHAMP"の異名を持つロックバンド「SCOOBIE DO」のドラマー兼マネージャー。
MLBコメンテーターとしても精力的に活動し、J SPORTS「MLBミュージック」メインMC、そして2023年シーズンからMLB中継の解説を担当予定。2022年4月には初の著書『ベースボール・イズ・ミュージック~音楽からはじまるメジャーリーグ入門』(左右社)を出版。MLBに関するラジオ出演や執筆活動も多数。2021年にはテレビ東京系ドラマ『生きるとか死ぬとか父親とか』で俳優としてもデビュー。

SCOOBIE DO http://www.scoobie-do.com/
Twitter: @moby_scoobie_do
Instagram: @moby_scoobiedo

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