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しかし、いずれも最終的に日の目を見ることはなく、新球場話に関してアスレチックスは「狼少年」と化した。
この中で個人的に最も残念だったのは、サンノゼ案だ。
サンノゼは多くのIT企業が本社を構える通称シリコンバレーの中心都市で、近隣には全米有数の名門スタンフォード大学がある。同じベイエリアでも、ハードボイルドなオークランドとは対極にある?富裕層の多い洗練されたマーケットだ。しかし、ここへの移転は前述の通りジャイアンツが断固として承認しなかった。
MLBには2球団を抱えるマーケットが複数ある。ヤンキースとメッツのニューヨーク、ホワイトソックスとカブスを抱えるシカゴがそうで、ロサンゼルスにはダウンタウンにドジャース、郊外のオレンジカウンティにはエンジェルスが存在する。これらの球団は互いにひとつの商権を共有している。
しかし、アスレチックスとジャイアンツは違う。経済圏としては同じサンフランシスコ湾岸エリアだが、MLBのテリトリーの概念ではこの2球団のそれは重なっていない。
ここで時計の針を30年以上前に戻す。1988年から1990年まで3年連続ア・リーグ王者だったアスレチックスは、メジャー有数の人気球団だった。当然観客動員も多かった。それに対しジャイアンツは当時の本拠地がサンフランシスコ国際空港から近いキャンドルスティック・パークだった。しかし、この球場はダウンタウンからのアクセスが悪く、海からの強烈な風で夏でも夜間ゲームは凍えるような寒さだったため、とにかく客が入らなかった。
そして、移転が検討された。この時候補にあがったのがサンノゼだった。当時はどこの球団のテリトリーでもなかったが、近隣のアスレチックスは気前良く?この案を承認した。敵に塩を送る行為だが、我が世の春を謳歌するアスレチックスにはそれくらいの余裕があった。
しかし、ジャイアンツのサンノゼ移転は実現しなかった。住民投票で球場建設への税金投入が否決されたからだ。結果、球団は身売り。新オーナー(現オーナーとは異なる)はダウンタウンでの新球場建設計画をぶち上げた(これが現在のオラクル・パークだ)。しかし、サンノゼにおけるジャイアンツのテリトリー権だけは残った。アスレチックスにとっては、ジャイアンツのサンノゼ移転が実現しなかった時点で、同地区への権利も白紙に戻させるべきだった。結果的にはこのことが命取り(オーバーか?)になった。
もっとも、ジャイアンツを責めるのは筋違いだ。アスレチックスのサンノゼ移転を却下した当時のオーナーは、商圏としてのサンノゼエリアの魅力も込みで買収金額を支払った、とも言えるからだ。
しかし、歴史に「if」はつきものだ。もしあの時、アスレチックスがジャイアンツに対し情けを掛けなかったら?と思わざるを得ない。
文:豊浦彰太郎
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]
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