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アルバート・プーホルス
11月頭に正式に引退を表明したカージナルスのアルバート・プーホルスが、2022年ナ・リーグのカムバック・プレーヤー・オブ・ザ・イヤーに選出された。と、思ったら今度はエンジェルスとの10年間に及ぶいわばアンバサダー契約も明らかになった。球団アカデミーでの若手指導や春季キャンプでの臨時コーチなどを務めるという。現地での報道によると、2011年オフに同球団と締結した契約に、引退後の待遇に関する条項も付随していたようだ。
2001年から11年までのセントルイスでの栄光に満ち溢れたキャリアの後に、総額2億4000万ドルの10年契約を結んだエンジェルスでは故障と衰えによる苦しみの日々で、最後はシーズン中に事実上の戦力外通告を受けた(その後、ドジャースに移籍)。
今年は3月末にカージナルスと250万ドルでの1年契約を締結した。ナ・リーグでの指名打者制の採用という背景こそあれ、これは思い出の地に別れを告げるためのセンチメンタルな帰還と見られていた。
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こういうケースは決して珍しくはない。ニューヨーク・ジャイアンツでデビューを飾り、同球団の西海岸移転でビッグアップルを去ったウィリー・メイズは晩年メッツへ、ブレーブス一筋22年だったハンク・アーロンは、そのキャリア前半に於いて同球団が本拠地としていたミルウォーキーにその後誕生したブルワーズに、引退前の2シーズン在籍した。近年では、ケン・グリフィー・ジュニアが全盛期を過ごしたマリナーズでその輝かしい球歴を締めくくったのは記憶に新しい。プーホルスのカージナルスとの契約も、半分は球団の温情と本人の感傷であると見られていた。
しかし、結果的にはそうではなかった。特に後半戦、その打棒は目を見張るものがあり、球宴以降は18本塁打。その間彼を上回ったのは、両リーグでもあのアーロン・ジャッジ(29本)だけだった。プーホルスの活躍はカージナルス4年ぶりの地区優勝の原動力のひとつだったと言える。本人も史上4人目の700本塁打を記録した(最終的には703本)。今季前半戦を6本塁打で終えた時点では700号にあと15本であり、この大記録達成の可能性を信じた者は決して多くなかった。
ある意味では、プーホルスのキャリアはグリフィー・ジュニアのそれのように終わると考えられていた。
1990年代を代表するスーパースターだったジュニアは、デビュー以降マリナーズでの11年間で打率.299、398本塁打、1152打点、167盗塁。タイトルもMVP1回、本塁打王4回、打点王1回。球宴選出、ゴールドグラブ受賞とも10度だ。しかし、30歳で移籍したレッズとホワイトソックスでの9年間では打率.269、213本塁打、620打点、9盗塁。球宴選出こそ3度あったが、タイトルやその他の表彰には縁がなかった。そして、シアトルに戻っての2シーズンでも特に結果を残せず、2010年6月に引退した。
プーホルスは、2001年にカージナルスでデビューすると10年連続3割、30本塁打、100打点。11年目も打率.299で99打点(37発)だった。その間チームの2度の世界一に貢献し、MVPには3度選出された。首位打者に1回、本塁打王に2回、打点王にも1回輝いている。当時、「MLB史上最高の打者」とする声も少なくなかった。
ところが、2012年にエンジェルスにFA移籍してからは生彩を欠いた。同入団での10シーズンでの通算打率は.256で30本塁打以上は2度のみ。守備や走塁で足を引っ張ることも多く、選手の価値を測る指標として信頼度が高いとされるWARで、両リーグ最低となる屈辱的なシーズン(2017年)もあった。ジュニア同様、あまりにも長い晩年で、overpaid(貰いすぎ)とも批判も浴びた。
しかし、セントルイスでの最終年の神がかり的な活躍が、それらをかなり帳消しにしたと言って良いだろう。聞けば、カージナルスとも同様なアンバサダー契約を結ぶ可能性もあるという。最高の形で、彼はその球歴を締め括ったと言って良いだろう。
文:豊浦彰太郎
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]
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