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野球 コラム 2021年8月16日

「フィールド・オブ・ドリームス・ゲーム」が問いかけるベースボールへの愛と郷愁

MLB nation by 豊浦 彰太郎
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サウスカロライナ州グリーンビルにある“シューレス”・ジョー・ジャクソンの墓

サウスカロライナ州グリーンビルにある“シューレス”・ジョー・ジャクソンの墓

MLBの「フィールド・オブ・ドリームス・ゲーム」が終わった。ホワイトソックスとヤンキースが合見えたこの試合の内容は、やたらホームランと三振が多いというイマドキのMLBゲームの典型だったが、トウモロコシ畑に本塁打がポンポン飛び込むのは、現場に居合わせた約8000人の幸運なファンには堪らなかっただろう。もちろん、最終回に双方が逆転するという展開はスリル満点だった。

この試合で感心したのが、まずは演出だ。1989年の映画「フィールド・オブ・ドリームス」へのトリビュートが溢れていた。主人公のレイ・キンセラ役のケビン・コスナーが、トウモロコシ畑から映画の中での“シューレス”・ジョー・ジャクソンら選手の亡霊のように姿を現す。そして、両軍の選手もだ。もうこの場面だけで、胸に熱いものが込み上げてきた。試合開始後、陽が沈む頃の美しい夕闇も幻想的だった。ファウルエリアの芝生上や投手プレート後部のダート部分に、MLBが昨季から導入した広告がないのも良かった。手動スコアボードもノスタルジーに溢れていたと思う。

一方で、チト残念なこともあった。まずは、両軍の復刻ユニフォームだ。MLBは昨季からナイキと10年10億ドルのユニフォーム提供契約を結んでおり、右胸にナイキのロゴであるスウッシュが入るようになった。それは今回のようなスローバック(復刻)ユニフォーム企画においても同様なのだ。普段のレギュラージャージなら「まあ、これも時代の流れか」と受け入れてきたが、復刻企画の場合は興醒めを超えて、バチ当たりに思えてしまう。

また現場には、コスナーとともに、映画で親子のキャッチボールという感動的なエンディングシーンを演じたレイの父親ジョン・キンセラ役のドワイアー・ブラウンも居合わせながら、彼らを始球式に起用しなかったのは理解に苦しむところだった。

商魂逞しいMLBは、来年もフィールド・オブ・ドリームス・ゲームを開催するそうだ。惜しまれるうちにやめておいた方が賢明だと思うが、この映画というか、WP・キンセラによる原作の小説「シューレス・ジョー」において、家族愛と並ぶ重要なテーマのひとつがベースボールへの愛と郷愁なので、セイバーメトリクスと高性能電子デバイスによる解析だらけの現在のMLBにおいて、それはそれで意味があると思う。

原作では、隠遁状態の作家JD・サリンジャー(映画では架空の人物テレンス・マン)がこう語る。「長い年月、まったく変わらないもののひとつが野球だった」(永井淳訳・文藝春秋刊)。確かに野球は世代を超えて愛されるold ball gameだが、実は、必ずしも不変ではない。MLBはその1世紀半の歴史の中で、ルールも、戦術も、運営も著しく変化し、ビジネス規模は別次元の域までに拡大した。

だからこそ、ベースボール本来の魅力を見直したいと思う。原作の中でトウモロコシ畑から出てきたシューレス・ジョーがベースボールへの愛を語る場面がある。「あんたはバットかボールに顔を近づけたことがあるかい。ニスの匂い、革の匂い。(中略)そういうものについて話すだけで、生まれてはじめてダブル・ヘッダーを見に行く子供みたいに体じゅうが疼きだすんだ」。ぼくは映画での涙を誘うラストシーン(実は原作にはない)以上に、この場面が好きだ。

恐らく数年のうちに、MLBはストライク・ボール判定において球審がAI判定を参照する通称「ロボ審判」を導入するだろう。ベースボールは今までも、これからも変わり続けるだけに、この映画と原作が語りかけるその変わらぬ部分の魅力を再認識することはとても大切だと思う。

文:豊浦彰太郎

代替画像

豊浦 彰太郎

1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]

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