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写真:2Aテキサスリーグ、フリスコ・ラフライダーズの本拠地ドクター・ペッパー・スタジアムでの試合風景、2019年 / 豊浦彰太郎撮影
MLBがキャンプ地での無観客開催による公式戦開幕を検討していることが明らかになった。しかし、マイナーリーグはそうはいかない。
新型コロナウィルス感染症の蔓延に出口が見えない中、MLBはアリゾナとフロリダの2つの春季キャンプ地での無観客での公式戦開幕、アリゾナのカクタスリーグ優勝球団とフロリダのグレープフルーツリーグ優勝球団によるワールドシリーズ開催という仰天プランを検討しているようだ。「USAトゥデイ」など複数のメディアが報じている。
確かにこのフォーマットなら、仕切り直しでのスプリング(サマー?)トレーニングからそのまま公式戦に移行できるし、選手の移動は最小限に留められる。特に比較的狭いエリアに各球団の施設が集中するアリゾナの場合、全選手がマイカーで無理なく全球場に通うことができる。
無観客も致し方ないだろう。「新型コロナウィルスに打ち勝った証としての完全な形での開催」を目指していると、いつになるかわからない。観客から感染者が出た、となれば即シーズン中止となってしまう。
良く言われることだが、無観客開催のもうひとつの意義は、これで放映権料だけは得ることができることだ。ベースボールは本来「興行」だが、現在の莫大な収入(昨年のMLBの総収入は107億ドル)の柱は過去5〜6年うなぎ登りだった放映権料だ。録画ではなくリアルタイムで観たい層が多い野球は視聴者からCMをスキップされないので、テレビ局にとって価値が高いのだ。入場料収入と場内での飲食やグッズ、駐車料金収入を放棄するのは痛いが、無収入よりマシである。
試合が開催されなければ、本来労使契約上は選手へのサラリーも支払われない。先日、試合が開催されないことが確定している3月26日〜5月24日までの給与として、総額1億7000万ドルが選手を在籍年数や契約内容に応じ4グループに分け支払われることが発表されたが、機構側だけでなく選手組合もとにかく試合開催に繋げたいのだ。だから、ダブルヘッダー案まで出てくる。
思い出して見れば、ロブ・マンフレッド・コミッショナーが3月12日にその後のスプリングトレーニングゲーム全試合のキャンセルと開幕の延期を発表した際も、「国として非常事態下」であることを強調していた。労使契約上、コミッショナーは「国家が非常事態下」であれば試合の開催を停止する権限を持つ。このことは、球団がサラリー支払い義務を免除されることを意味している(マンフレッドの発表の翌日にドナルド・トランプ大統領の「宣言」がなされている。コミッショナーはこれが発出される確証を掴んでいたのかもしれない)。
しかし、メジャーとは異なり、全米とカナダに広がる約250のマイナーリーグ&独立リーグ球団はそうは行かない。彼らには高額な放映権収入はない。提携関係にあるMLB球団からのサポート(独立リーグ球団にはそれもない)を除くと、独自の収入源はチケット売り上げだ。
ESPN電子版は、マイナーリーグ・コミュニケーション・ダイレクターのジェフ・リンツのコメントを引用し、「主催が年間70試合のマイナー・リーグ球団の場合、シーズン5〜6試合の雨天中止のリスクは年間経営計画に織り込んでいるが、それが7〜9試合になると黒字を確保きできるかどうかの瀬戸際になる」と報じている。中止試合は翌日にダブルヘッダーとして消化されるケースが多いが、その場合チケットは、メジャーとは異なり、2試合共通券になる。とてもではないが、無観客試合を開催する体力はない。
それでなくても、マイナーリーグは、42球団が昨年オフMLBから2020年シーズン後の提携解消を通告されている。マイナーリーグは米国人の生活に深く根差したナショナルパスタイムを草の根で支える存在だ。人々は、夏の日に球場で家族や友人との絆を確認し、明日のスーパースターに熱い視線を送る。しかし、それは現在大きな危機に瀕している。
文:豊浦彰太郎
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]
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