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ダルビッシュ有の好投が続いている。27日ニューヨークでのメッツ戦では今季最長の8回を投げ1失点で5勝目(6敗)を挙げた。それにしても、ここ2ケ月のダルビッシュの変身ぶりは眼を見張るものがある。
今季は開幕から苦しんだ。特に四球が激増し、5月末時点では9回平均での与四球は6.05で両リーグワーストだった。ところがそこから豹変。6月は平均以下の2.45と改善し、7月以降はなんと0.44で両リーグトップだ。7月30日のカージナルス戦から8月21日のジャイアンツ戦まで5試合連続で8奪三振以上&無四球で、1893年!以来という極めてレアな記録も打ち立てた。これは27日のメッツ戦の5回に6試合ぶりの四球を与えストップしてしまったが、それでもこれが8月初の四球(7月23日のジャイアンツ戦以来)でしかないとは驚異的だ。
その結果、もともと奪三振率は高いので、彼の奪三振と与四球の比率(K/BB)は7月以降に限定するとメジャー断トツトップの26.00だ。彼に続くのはジャスティン・バーランダー(アストロズ)の12.00なので、その傑出ぶりが分かろうというものだ。
米スポーツ専門チャンネルのESPNは「今季のナ・リーグカムバック賞有力候補」と報じたが、確かに昨季までの故障欠場や不調からの復活というだけでなく、今季中での劇的なカムバックという点でも相応しい。
しかし、なぜここまで急激に四球数が減ったのか?
セイバー系サイトのfangraphsは8月中旬のコラムでダルビッシュのモデルチェンジを取り上げ、その要因として配球と心理を挙げている(https://blogs.fangraphs.com/yu-darvish-makes-a-trade-off/)
まずは配球だ。ダルビッシュといえば大きく、鋭く変化するスライダーが武器だが、6月以降はその比率を減らし、その分カットファストボールを多用しているという。確かにこれは分かりやすい。変化の大きなスライダーはその分ストライクゾーンを外れる可能性も高いが、カッターは微妙な変化でバットの芯を外す球種であり、ストライクゾーンに集めやすい。
もうひとつは、ストライクゾーンの四隅を執拗につくのではなく、結構真ん中にポンポン投げ込んでいることだという。
これはある意味「吹っ切れた」ということだ。真ん中周辺にタマを集めることはリスクもある。しかし、それをあまり気にせずのびのびと勢いのあるタマを投げることを重視する。甘いコースに投げているのだから結果的に被弾も多くなるが、それは仕方ないことと捉えているのかもしれない。
7月以降四球が激減していることは日本でもかなり報じられているが、実は被本塁打の多さは相変わらずで、むしろそれ以前よりも増えている。前述の四球と同じスパンで9回平均の被本塁打数をチェックすると、5月末時点で1.62、6月単月は2.15、7月以降は1.89だ。これは一流投手としてはかなり多い部類だ。
しかし、全体で見れば投球内容が改善されていることは間違いない。このスタイルチェンジは少なくとも現時点では功を奏している。
突然四球が減ると「急に制球力って改善されるものなのか」という疑問が湧く。しかし、日本では「制球力」で括られてしまうが、アメリカでは「コントロール」とはストライクを取る能力で、狙ったスポットに投げ込む能力は「コマンド」と呼ばれ、別のスキルとして区別される。
したがって、ダルビッシュの場合は「コマンド」に必要以上に気を遣いすぎることを避け「コントロール」を重視した投球を展開している、と解釈することは可能だと思う。
いずれにせよ、先日の米記者とのツイッター上での配球と被本塁打の関係に関するやりとりでも感じられる通り、彼は聡明でその思考はロジカルだ。加えて、決断力と勇気のあるアスリートだと言って良いだろう。
<数字は全て、現地時間8月28日時点>
文:豊浦彰太郎
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]
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