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現地時間7月21日、ニューヨーク州クーパーズタウンで2019年の野球殿堂入り記念式典が開催された。今年も前年に並ぶ6名ものかつての偉大なプレーヤー達が選出されたため、式典が開催されたクラーク・スポーツ・センターには史上2番目に多い約5.5万人のファンが詰めかけた。
ここでは、殿堂入り6人のキャリアと選出のポイントを解説したい。
まずは、野球殿堂入りのシステムを紹介しておきたい。野球殿堂入りには2つルートがある。ひとつは「王道」とも言える元選手のみを対象とする全米野球記者協会(BBWAA)の記者投票によるのもので、もうひとつは、時代委員会(Eras Committees)による選出だ。「敗者復活戦」の側面もあるこちらは、BBWAAでの資格を失った選手に加え、監督、審判員、経営者などの選手以外もカバーしている。ともに、得票率75%以上で殿堂入りとなる。
今回、BBWAAから以下の4名が選出された。
■マリアーノ・リベラ
歴代最多の652セーブを記録した。ポストシーズンでの圧倒的なパフォーマンス(141投球回で防御率0.70)もあり、一発選出は間違いないと見られていたが、史上初の満票を得た。
それまでの史上最多得票率は2016年のケン・グリフィー・ジュニアだが、彼の場合も99.32%で3名が彼に投票しなかった。歴代2位の98.84%のトム・シーバーの場合、5票を逃している。常にへそ曲がりはいるものなのだ。リベラの場合も、投票結果発表1ヶ月前の昨年12月下旬にマサチューセッツ州ローカル紙記者が「救援投手は殿堂入りに値しない」との考え方から白票を投じると発表し物議を醸したが、結局彼も翻意した。「悪者」になるだけの覚悟もなかったということだろう。そして、リベラの満票選出は来年殿堂入り対象となるデレク・ジーターの満票への道筋をつけたとも言える。
■エドガー・マルティネス
ミスターDH。被投票資格を保持できる最終の10回目での選出だった。彼の選出は、近年のセイバーメトリクスの急速な普及の賜物だろう。2010年の初回から20〜30%台で足踏みを続けていたが、7年目に43.4%に達してからは、着実に票を伸ばし、今回85.4%を得た。守備の貢献がないDHの選出は昔から議論の的だった。しかし、彼の場合、通算のOPS+(OPSがリーグ平均に比べてどれだけ傑出しているかを示す、これにより時代を超えた比較が可能になった)が147で、WARが68.4など偏見を打ち破るに十分なセイバー的実績があった。数字の裏付けが「DHは殿堂入りに値するか?」といいイデオロギー的議論を駆逐したのだ。
プエルトリコ系の彼は、式典でのスピーチの冒頭部分をスペイン語で行った。昨年のブラディミール・ゲレーロ(ドミニカ出身)に次ぐ、史上2人目の英語以外でのスピーチだった。これで、2025年と予想されるイチローのケースも日本語で行われる可能性が高まった、とも言えそうだ。
■ロイ・ハラディ
2017年11月に飛行機事故で死去したロイ・ハラデイも、リベラ同様に引退後5年が経過したため今回候補者となり初回選出となった。
通算勝利数は203だが、2度のサイ・ヤング受賞、完全試合、ポストシーズンでのノーヒッターなどハイライトが多い。しかも、通算WAR64.3はリベラの56.2を大きく上回る(先発投手とリリーフ投手の違いはあるが)。しかし、初回での選出に関しては、非業の死の影響も否定できない。彼が存命でもいずれは殿堂入りする可能性は高い。しかし、初年での選出があり得たかどうか?それは疑問だ。
■マイク・ムッシーナ
こちらは6回目でようやく75%に届いた(76.7%)。通算270勝でWAR82.8は投手として歴代23位だ。これらは、ハラディを文句なしに上回るが、一方でサイ・ヤング受賞などの突出した成績を残したシーズンはなかった。20勝以上も18年のキャリア最終年の一度だけだった。現役を継続すれば、300勝は十分可能だったろう。
概ね下馬評通りだったBBWAA経由に比べ、時代委員会選出の2人には多くの疑問符と感嘆符が寄せられた。
■リー・スミス
16人の委員から万票を得た。1980年から18年間の現役生活で478セーブを挙げた。93年に358セーブ目を挙げてからは歴代1位だったが、その後トレバー・ホフマン、マリアーノ・リベラに抜かれた。また、セーブ王には4回輝き、シーズン30セーブは10度達成しているが、圧倒的な全盛期や語り継がれるべき名場面に欠ける。そのためBBWAA経由では規定の15年(現在は10年)を経ても選出には至らず、昨年資格を失っていた。
その実績が殿堂入りに値しないと言うつもりは毛頭ないが、15年という長きに渡って散々議論(投票だが)を尽くした結果がNGだったのだ。それが、翌年に別ルートではいきなり満票では、BBWAAでの15年は何だったの?との思いは拭えない。両ルートでの評価は時間軸では接近しすぎている割には結果は極端すぎた。
■ハロルド・ベインズ
そのキャリアの中盤にはすでに背番号「3」がホワイトソックスで欠番化されたシカゴサウスサイドのヒーロー。通算成績は2866安打&384本塁打だ。打率3割を8度記録しており、最後は40歳での達成だった。ただし、30本塁打以上のシーズンはなく、タイトル獲得等のブレイクイヤーもない。実際、BBWAA経由では最高で6.1%の票しか獲得できず、ノミネート後5年で翌年以降に資格を継続するために必要な5%を割り、候補者名簿から消えていた。正直なところ、彼の選出は殿堂入りのバーを大きく下げたと言えるだろう。
摩訶不思議な選出結果が図らずとも露呈した選出の問題点として、この時代委員会の構成がある。
まずは、その投票者数の少なさだ。BBWAA経由での400人以上に対し、時代員会では16人のみだ。もちろん選出は投票式だが、その前に討議のセッションがある。声高に主張する者がいると、この人数だと全体の投票に影響を与えてしまうことは充分考えられる。
実際、委員の中の重鎮であるジェリー・ラインズドルフはホワイトソックスのオーナーで、同球団に3度、都合14シーズン在籍したベインズの大ボスと言える存在だ。他の委員には、ベインズにとっての監督(トニー・ラルーサ)、同僚(ロベルト・アロマー)、GM(パット・ギリック)が含まれていたことも見落とせない。
スミスの場合も、ジョー・トーリとオジー・スミスははカージナルス時代の監督と同僚だった。グレッグ・マダックスもカブスで同じ釜の飯を食った仲だ。
ベインズ&スミスには何の責任もないが、制度の在り方が大いに問われているのは事実だ。
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]
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