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野球 コラム 2018年6月20日

「パインタール事件」「延長32回」再開試合のドラマ

MLB nation by 豊浦 彰太郎
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現地時間6月18日、首都ワシントンDCでナショナルズ対ヤンキースのユニークなダブルヘッダーが開催された。これは、雨天で6回に中断されたままの5月15日の対戦の再開部分、同じく降雨で中止となった翌日の同カードを本来両軍ともゲームが組まれていなかったこの日に押し込んだものだ。

5月15日のゲームは6回表終了3対3の時点で中断され、そのままサスペンデッドゲームとなった。この試合のヤンキースの先発投手は田中将大だったが5回を投げ終え代打を送られ退いていた。約1ケ月後に再開された際には、リリーバーのチャド・グリーンが変形先発として6回裏のマウンドに上がっている。

ルール上、サスペンデッドとなったゲームの再開においては、中断時点で既に退いていた選手には出場権はないが、その分中断時点で未出場の選手やロースターに入っていなかった選手(その後故障者リストから復帰したり、マイナーから昇格した選手)は出場資格がある。この再開試合の6回裏に代打で決勝2ランを放ったホァン・ソトは今季メジャー全体でもトップクラスの有望株で、中断後に昇格した選手だ。その点では、いかにもサスペンデッドゲームらしい展開だったと言えるだろう。

あちらではサスペンデッドゲームは珍しくないのだが、歴史に残る展開となった例を2つ紹介しよう。いずれもサスペンデッドとなった理由は荒天ではない。

<パインタール事件>

1983年7月24日、ニューヨークでのヤンキース対ロイヤルズ戦でのこと。9回表にロイヤルズのジョージ・ブレットがリッチ・ゴセージから逆転2ランホームランを放ったが、直後にヤンキースのビリー・マーチン監督がブレットのバットに塗られている滑り止めの松やに(パインタール)が規定を超えて塗布されておりホームランは無効と主張。審判団はこれを受け入れ、ブレットはアウトとなった。(ブレットは血相変えて猛抗議も受け入れられず)。実は、マーチンは随分前からブレットのバットの問題に気づいていたが、抗議はここぞという場面に取っておいたという。

しかし、後日ロイヤルズがア・リーグに提訴するとリー・マクフェイル会長は「悪意なし」と判定を覆し本塁打を認め、9回表二死5対4でロイヤルズリードの場面からやりなおしとなった。一旦、完了した試合がサスペンデッド扱いになったのだ。そして、西地区所属(当時は東西2地区制)のロイヤルズが東海岸(ボルティモア)に遠征する途中の8月18日にヤンキー・スタジアムでゲームは再開され、ロイヤルズの勝利で終わった。このやりなおし試合を見届けんと球場に足を運んだ観客はわずか1200人だったのだが、その後は大げさに言えば球史に残る大珍事として語り継がれている。その理由には、顛末のレア度に加えキャストの豪華さもありそうだ。ブレット、ゴセージ、マクフェイルの全員が殿堂入りしているし、仕掛け人のマーチンも背番号1はヤンキースの欠番となっている。

<ザ・ロンゲスト・ゲーム>

もうひとつはマイナーリーグでのものだ。1981年4月18日、ロードアイランド州ポータケットでのポータケット・レッドソックス対ロチェスター・レッドウィングス戦は午後8時に開始されたが、2対2のまま延長32回終了の時点でサスペンデッドゲームとなった。この時翌19日の午前4時過ぎ。ヘトヘトになって帰宅した選手の中には、奥様に超深夜残業を信じてもらえずロックアウトされた者もいたとか。この試合は6月23日に再開されたが、ポータケットのジョー・モーガン監督は4月18日に22回の時点で退場を食らっていたため、再開試合もベンチには入れなかった。ちょうどMLBが選手会の長期ストライキでペナントレースが中断していたこともあり、再開試合は全米メディアの注目を集めたが、33回裏にあっさりポータケットのサヨナラ勝となった。再会後わずか18分での幕切れだった。しかし、2ケ月以上にまたがった試合時間は8時間25分。この試合には、後に殿堂入りを果たす名選手も出場している。ポータケットには首位打者5回で通算打率.328のウェイド・ボッグスが、ロチェスターには2632試合連続出場を果たすカル・リプケン・ジュニアがいた。成績はそれぞれ12打数4安打1打点と13打数2安打だった。

代替画像

豊浦 彰太郎

1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]

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