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野球 コラム 2018年5月31日

メキシコの愛すべき街モンテレイはMLBを誘致できるか?

MLB nation by 豊浦 彰太郎
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大型連休後半の5月4日、ぼくはメキシコのモンテレイに向けて自宅を早朝に発った。パドレス対ドジャースの3連戦を観戦するためだ。

MLBは、3年前にロブ・マンフレッド・コミッショナー体制になってから、以前にも増して海外進出に意欲的だ。今年は4月中旬にはプエルトリコのサンファンでツインズとインディアンスによる2連戦を開催しているし、モンテレイでの3連戦終了直後には来年6月末にレッドソックス対ヤンキースの2連戦をロンドンで開催することを発表している。そして、来年春には東京でのアスレチックス対マリナーズの開幕シリーズが控えているのはご存知の通りだ。

海外興行が持つ意味は何といっても市場の開拓だ。テレビ放映権やグッズを少しでも多く、高く売り込みたい。そして、有望選手の供給ソースに育成することも長期的には重要だ。

時を同じくして、マンフレッドは球団数拡張(エクスパンションと言う)にも大きな意欲を示している。現在の30球団をもう2つ増やせば両リーグとも同数での偶数となり、毎日どこかでインターリーグ戦をやっているという状況からも脱することができる。現時点では、モントリオール、メキシコシティ、ポートランド、シャーロットなどの都市がエクスパンションの候補地として取りざたされているのだが、今回のモンテレイシリーズ初日の試合中、マンフレッドはテレビインタビューでエクスパンションについて触れ、「モントリオールとメキシコのどこかの都市が有力」とコメントしている(懸案のレイズとアスレチックスの新球場問題が解決することが前提、としているが)。

ともにアメリカ国外だが、MLBマーケットの地理的拡大という観点からはむしろ当然と言えるだろう。しかし、モントリオールとは異なりメキシコの場合は具体名がないのは、このシリーズの開催地に配慮したということだろう(2年前にはメキシコシティの名を挙げた)。確かに、長期的視野での市場性なら圧倒的にモンテレイよりメキシコシティだ。なにせ、周辺も含めた都市圏人口はモンテレイの約380万人に対し、こちらは2000万人超なのだから。

実際、モンテレイを今回訪れてみた上での印象も「ちょっと難しそう」というものだ。単純な人口数ではアメリカ国内のMLBフランチャイズ都市に引けを取らないが、人々の暮らしぶりは「経済発展著しいメキシコ第3の都市」という先入観からはかけ離れたものだったからだ。ぼくが体験できた範囲でも、地下鉄は4.5ペソ(約25円)、屋台での食事(メキシコではこれが一般的)はタコス5個セットで25ペソ(約140円)と物価は低く、街中では1970年代のフォルクスワーゲン・ビートルが普通に足として使われていた。

彼らの生活ぶりを見る限り、MLB球団を維持するのは難しそうだ。何せ、メジャーリーグ観戦は今や大衆娯楽とは言い難い。家族4人で出掛ければ、チケット、飲食、パーキングで軽く300ドルは覚悟しなければならない。これは決して誇張ではない。チケットはそこそこの席なら50ドルくらいはするし、ビールは一杯14~15ドル!とクレージーな水準だ。パーキングも3時間強でしかない時間にも関わらず概ね20ドル、球場入り口に近いエリアなら35ドルくらい掛かるから、1時間10ドルと六本木並み?だ。

MLBのフランチャイズであり続けるには、このような散財?を厭わないリッチなお客を1試合平均3万人集めなければならない。今回の3連戦は連日ほぼ満員(それでも2万人強)だったが、それもこの街では19年ぶりの公式戦開催だったからだ。その5割増しの観客を年間81試合、それをこの先数十年継続するには、彼の地の平均所得が劇的に向上することが必要だろう。

今回、試合前には街歩きを楽しんだ。宿から徒歩圏のメルカドは、決して裕福とは言えない市井の人々の生活を支えており、活気に満ちていた。ここでは就学前のお子さんも家族経営の店舗での重要な戦力で、その様子にはちょっと複雑な思いも禁じえなかった。しかし、売る側もお客も表情は明るく、貧しさに打ちひしがれている様子は感じられない。こちらの一般の人々は基本的に三食全て外食だ。街中に安くて美味くてボリュームたっぷりの屋台が溢れているからだ。ぼくも、お母さんが仕切りその娘と思われる3人の少女が目の前で調理してくれるメキシカン・ソウルフードに舌鼓を打った。

メルカド探索の後は、そこからすぐの公園で開催されていたMLBロードショウを見に行った。日本でもお馴染みのアレだが、ぼくは足を運ぶのは初めてだ。スピードガンコンテストに挑んだが48マイルしか出ない。トシを痛感しガッカリ。人出はまあまあと言ったところで決して混んではいない。メキシカンの大人たちの投球や打撃のフォームを観察すると、少年時代に野球経験がないと思わせる人が多かった。グッズ類を販売していないのがビジネスマンの立場からはもったいなく思えたが、公共の場ということで物販行為は禁止されているのかもしれない。

試合終了後は球場周辺のアングラスーベニアの出店を冷やかした。しかし、キャップも、ジャージも海賊版ながら良くできている。ご丁寧に今回のシリーズのロゴもしっかり複製して貼り付けてある。ただし、これらはほとんどドジャースものだ。メキシコとの国境の街サンディエゴに本拠地を置く主催球団パドレスの関連商品はほとんど見当たらない。観客席のファンが身につけているウェア類は目勘定で9割ドジャースだった。フェルナンド・バレンズエラがデビューした同球団がメキシコでも人気なのは理解できるが、そのせいかそれとも溢れるアングラスーベニアのせいか、タマゴと鶏だ。

率直なところ、もしマンフレッドが語った通り数年後メキシコにMLBフランチャイズが設置されることになったとしてもメキシコシティ有利は動かないだろう。ぼくはメキシコシティには行ったことはないが、仮に人々の生活水準がモンテレイと同レベルであったとしても、米国内の都市との差を「数」でカバーできるかもしれないからだ。

それでもモンテレイに可能性を見出すとすれば、米国境に近いこと、メキシコでは有数の野球好きの街であること、そして地元メキシカンリーグ球団スルタネスのオーナー、ホゼ・マイズが球団誘致に並々ならぬ意欲を見せていることだろう。今回を含め計3度のメキシコでの公式戦開催が全てモンテレイであるという事実がその熱意と政治力を物語っている。彼は、1998年のエクスパンション(最終的にタンパとフェニックスが選ばれた)や2000年代に入ってエクスポズが移転先を探していた際(結局ワシントンDCに落ち着いた)にも名乗りを挙げている。

モンテレイを訪れた身としては、この街に幸あれと祈りたいところではある。

代替画像

豊浦 彰太郎

1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]

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