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世界選手権2023で銀メダルを獲得した小林陵侑
スロベニアのプラニツァで行われたノルディックスキー世界選手権のジャンプ男子個人ラージヒル。世界選手権で開催地元選手の個人メダルがなければどうなるのか、ここが唯一最大のポイントであった。
1本目を首位で折り返した小林陵侑の2本目、先に飛んだ地元のザイツ(SLO)が抜群のジャンプを見せて重圧をかける。しかもインターバルがあり、しばらく待たせられるという難しい状況、ただそこに何かありそうだとストーリー性を感じてしまう。
ノーマルヒルにおける通気量違反のスーツ失格から立ち直った小林陵侑。早く飛びたいと思い、そのジレンマに少しだけ力んでアプローチ姿勢に小さな乱れが加わり、しかも飛び出してからは完全に追い風。いくらウインドファクターで+10.7がついても、これはキツイという印象。レッドランプで外して仕切り直しはないのかな?と単純にファン目線にもなってしまう。
その中を本当によく飛び129mでテレマークを決めた小林陵侑。自ら拍手し、ついでに優勝したザイツ、そして大勢の地元観衆にも軽く拍手をして、さらりと試合を終わらせた。
直後のインタビューでは、「2本とも良いジャンプができました」とシンプルに語る。 興奮気味のザイツに「良かったね」と話しかけ、すっくと横に並んだ。2023世界選手権の銀メダリストとなった小林陵侑には潔さがあった。
金メダルを逃した悔しさは、いつもの宿舎に戻り、一人になった時にこみあげてきてという状況だったようだ。それでいいのだろう。彼はまたそこから成長をみせる。
これで終盤W杯のビケルスンや最終プラニツァのフライングもなおさら面白くなってくる。リアルな強者は誰なのだと、クールに構えて飛んでいく“強者”小林陵侑の姿を世界は目の当たりにすることになる。
通気量まで、取りざたされてしまったスーツ問題
1980年レイクプラシッド五輪の開催地は、吹きさらしの丘の上に90m級と70m級のシャンツェが2台並んで聳え立つ。このノーマルヒルで八木弘和さんが銀メダル、時のヒーロー秋元正博さんが4位に入った。さしずめ素晴らしい日本旋風が巻き上がりだった。 当地が改築されて久方ぶりのW杯ジャンプを待っていた。
我等のエース小林陵侑がヒルサイズをゆうに超えてバッケンレコードを記録、意気揚々とプラニツァ世界選手権へ挑んでいった。こういうのも先人の選手たちの想いを充分に受け継いでの大きなジャンプであろう。
その長閑な頃と異なり、今のW杯シーンではスーツが勝利の大きな鍵を握っているといっても過言ではないだろう。股下はとめどもなく下がり、ここに色々と抜け道がありそうで。ならばやってしまおうとの海外有力選手らが目に見えて増えてきていた。ならば、勝つためにはどうするか表彰台に上がるために日本はどの手を打つべきなのか。
ゆとりが2~4cmルールでは股下の他に、肩先のとんがり、わきの下が逆三角形に伸びて、ふくらみあるウエスト部分などなど。分かりやすく言えば首後ろあたりから空気を取り込み各部分へためて膨らます。そういう高度な縫製技術などにおいてあらゆる箇所が目についてくる。そこで公平論を唱えても通用し得ないのが世界のジャンプ最前線である。
そのような欧州でのルールに対応するためには交渉力が必要であり、コーチたちに交渉の資質をつけるのが要になってくる。この意味において、現状の日本チームは若手コーチに経験を積ませていく段階にある。
世界選手権ではスーツの形状はもとより、ついには通気量まで、取りざたされてしまった。 ややうがった見方をすれば、有望選手をとことん失格にしたいのだろうかとファンのみならず熱くなりがちになる。
「これはもう、どうしようもなくて」と小林陵侑は述懐する。そこでギリギリを狙うとうよりは、常に攻め込みながら良い風を受けてその結果どうであるかだ。いつも鷹揚に構えて進んでいきたい。そこに真の実力が宿ってくる。
岩手八幡平国体に出場した葛西紀明
また海外選手に睨みが効き、さらにチームに活を入れられる葛西紀明(土屋ホーム)がいるとまた現場の意気上がるのだが。今回、彼は岩手八幡平国体で田山矢神シャンツェを飛んで、観衆の皆さんの声援に応えながら「これからも頑張ってジャンプを続けようね」と地元女子選手にサインと激励、ジャンプ競技の普及に寄与していた。もちろん心の中では小林陵侑の健闘を祈りながら。帰ってきたら鹿角の幸楽の美味な味噌ホルモンをたんとご馳走するから頑張りなさいなどと。
いよいよ終盤戦に突入するW杯
3月には、久しぶりにRAWAIRシリーズが始まる。
RAWAIRは、ノルウェー地元選手が活躍するための試合と揶揄もされるが。そこでしっかりと名を残したくもある。
田舎の質素な街リレハンメル、大都市オスロ濃霧のホルメンコーレン、そして、関連として改修が済んだトロンハイムは伊東大貴(雪印メグミルク)が得意としたジャンプ台で2025年には当地で世界選手権が開催される。トロンハイムでの世界選手権開催は1997年以来であり、あのときは荻原健司さん(現・長野市長)と原田雅彦さん(雪印メグミルク総監督・全日本スキー連盟副会長)が見事に金メダルに輝いた。
“飛ばせ台”として名高いフライングのビケルスンでは、女子のフライングが初開催される。いよいよ、ルンビvs.伊藤有希‘の“ロングジャンパー対決”が見られる。
小林陵侑はどこまでロングジャンプで魅せてくれるのであろうか、それが今から楽しみでならない。今回の世界選手権では鳴りを潜めていた格好のグラネル、尻上がりに好調なリンビク、意地を見せるフォルファンに髭がピンと伸びるヨハンソン、精悍なタンデらが果敢に地元ノルウェーの台を飛び出していく。
いよいよシーズンは、終盤戦を迎える。
注目のW杯個人総合優勝争いはだが、安定の強者クバツキ(POL)はフライングではそこまで伸ばせない選手である。そのような状況下では競り合いになりそうな雰囲気がありつつも、グラネルの独壇場になりそうとの気運に満ちている。
文・岩瀬孝文
岩瀬 孝文
ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。
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