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キングスベリーはトップを走り続ける。アンソニーは同い年のラフォンを追い越した印象だ
大観衆のディアバレー大会が帰ってきた。男女とも総合優勝が決まる!
■MO第5戦ディアバレー大会RESULT
〈女子〉
1位:ジャカラ・アンソニー(AUS)
2位:ジェイリン・カーフ(USA)
3位:ペリーヌ・ラフォン(FRA)
〈男子〉
1位:マット・グラハム(AUS)
2位:ミカエル・キングスベリー(CAN)
3位:ベンジャミン・キャヴェ(FRA)
今回は、2月に行われた3戦の結果を中心にお届けしたい。まずは、アメリカのディアバレーでの2戦から。ユタ州にあるディアバレーは世界でもっとも多くの観衆が集まるW杯会場として知られていたが、ここ2シーズンはパンデミックの影響で寂しい状況が続いていた。しかし、今回は3シーズンぶりにかつての盛り上がりが戻ってきたのである。これは、なによりうれしい出来事だといえる。
ナイトレースとして行われた初日モーグル(以下:MO)は、硬いコブに苦しめられる選手が続出。男子ではニック・ペイジ(USA)、そして堀島行真(JPN)という総合ランキング上位選手が予選落ちするハプニングがあった。なお、この予選落ちは、堀島にとってMO総合優勝の可能性を遮断するものだった。
女子MOでは、逆転総合優勝を狙うペリーヌ・ラフォン(FRA)、川村あんり(JPN)にとっては、トップを走るジャカラ・アンソニー(AUS)の優勝を阻むことが必須条件だった。上位3選手は順当にスーパーファイナルに進出。3番目に滑ったラフォンは全体的にアグレッシブさに欠ける印象があったが、その時点でトップに躍り出た(77.17点)。次に地元のジェイリン・カーフ(USA)は持ち味を生かした攻めのターンでラフォンを抜いた(77.35点)。これで、ラフォンの総合優勝が遠のく。続くアンソニーは、80.15点とカーフに大きく点差を付ける。残るは川村だ。
実はこの時点で、最終戦を残しアンソニーの総合優勝は決まっていた。仮に川村がこの大会と最終戦の両方で優勝しても、アンソニーの得点には追いつけない。スタートエリアで川村がどんなことを考えていたか分からないが、ミドルセクションの途中まではいつもの彼女だった。ところが……珍しくバランス崩し転倒してしまうのだ。DNFにより川村は5位に終わった。
男子MOのスーパーファイナルには、昨季は総合4位の実力者・杉本幸祐(JPN)の名前があった。今季は好調とはいえず、これが初のスーパーファイナルとなった。そして、杉本もミドルセクションの硬いコブに泣いた。弾かれるようにターンのリズムがズレてコースアウト!
その後、上位陣には意外な結果が待っていた。まず、4番目に滑ったベンジャミン・キャヴェ(FRA)がトップとなり表彰台を確定させる(82.82点)。次はミカエル・キングスベリー(CAN)だ。実はその時点で総合優勝は決まっていた。しかし、その状況でも絶対王者は手を抜かない。2位に終わったファイナル1のときよりも明らかに攻めたパフォーマンスを見せ、83.65点という高得点をゲットしたのである。ところが、最終滑走者のマット・グラハム(AUS)は、コブの捉え方、板の操作技術の面でパーフェクトといえるパフォーマンスをみせ、85.35点でキングスベリーを超えたのだ。負傷により、一時はピークを過ぎたとグラハムだったが、完全復活を成し遂げたどころか、MOでは’17シーズン以来のW杯優勝をゲットしたのだ。
日本勢は男女9名がファイナルに進出するなか、男女常勝チャンプが強さを発揮
■DM第4戦ディアバレー大会RESULT
〈女子〉
1位:ペリーヌ・ラフォン(FRA)
2位:ジェイリン・カーフ(USA)
3位:ハナ・ソアー(USA)
〈男子〉
1位:ミカエル・キングスベリー(CAN)
2位:マット・グラハム(AUS)
3位:ウォルター・ウォルバーグ(SWE)
2日目のデュアルモーグル(以下:DM)で女子は川村あんり、冨高日向子、柳本理乃、中尾春香、梶原有希の5名、男子は堀島行真、村田雄太郎、藤木豪心、松田颯4名と、ジャパンチームからは合計9名がファイナルに進出した。新鮮なメンバーも多い日本チームだが、明らかに全体のレベルが上がっている。
そこから、エイトファイナルを突破した女子は柳本と川村、男子は村田と松田だ。クォーターファイナルでオッリ・ペンタラ(FIN)と対戦した堀島はミドルセクションのターンが乱れて敗戦に。今季のディアバレー2戦は堀島に苦い思い出を残した。
女子クォーターファイナルでは、柳本がアンソニーを破ったものの、ソアーと対戦した川村はミドルセクションでバランスを崩し敗戦。やはり、かなり難しいコースなのだろう。男子のクォーターファイナルでは村田vs松田の対戦が実現し、村田が勝った。今季よりW杯にフル参戦している村田にとっては未知の領域であるベスト4に進出だ。
女子セミファイナル、柳本はラフォンの胸を借りたが、双方の細かいミスが目立つ中で惜しくも敗北となった。ビッグファイナルは、ラフォンvs.カーフという組み合わせとなる。カーフがまたしても超アグレッシブターンをみせたが、途中でバランスを崩し、ラフォンが今季初優勝を果たした。
キングスベリーはディアバレーのDMセミファイナルで、イエロービブをつけていたウォルバーグを倒している
男子は注目の村田がグラハムと対戦した。途中までは悪くなかった。しかし、堀島や川村も苦しんだ魔のミドルセクションでコブに弾かれるように転倒し、二度、三度と地面に体を打ちつけた。ビッグファイナルではキングスベリーがグラハムを圧倒し、前日の雪辱を果たすのだった。
なお、柳本はスモールファイナルでソアーに敗れ4位、大転倒した村田は出場を回避した。
堀島が北米でのネガティブな流れを払拭し、絶対王者を撃破!
■DM第5戦ヴァルマレンコ大会RESULT
〈女子〉
1位:ペリーヌ・ラフォン(FRA)
2位:エリザベス・レメリー(USA)
3位:川村あんり(JPN)
〈男子〉
1位:堀島行真(JPN)
2位:ミカエル・キングスベリー(CAN)
3位:ジュリアン・ヴィル(USA)
舞台を再びヨーロッパに移し、2月11日にDM第5戦がイタリアのヴァルマレンコで行われた。イエロービブを着用したのは、女子が川村、男子はキングスベリーだ。
日本勢は男女で明暗が分かれた。男子はファイナル進出者が堀島と島川拓哉の2名。これに対し、女子は川村、冨高、柳本、中尾、梶原、さらに伊原遥香と出場した6選手全員が予選を突破したのだ。これはおそらく初めての例だろう。
ただし、世界の壁は高く、クォーターファイナルで冨高、中尾、梶原、伊原が、エイトファイナルで柳本が消えた。
総合優勝を狙う川村はセミファイナルで成長株のエリザベス・レメリー(USA)と対決。中盤までリードしていたがボトムセクションで追い抜かれ1点差で惜敗する。そのレメリーはビッグファイナルでラフォンにねじ伏せられた。ラフォンはDM2連勝。川村からイエロービブを奪い取った。
一方男子では、島川はクォーターファイナル止まりだったが、堀島はすいすいと勝ち進んでいった。そして、もう片方のブロックを勝ち抜いたのはキングスベリーだった。堀島vs.キングスベリーという頂上決戦はこれで何度目だろうか?
今回もギリギリのバトルだった。キングスベリーは第2エアのあたりでちょっとしたミスをしたように見えた。しかし、わずかに速くゴールした。ジャッジの判定は? 堀島は18点、キングスベリーが17点。堀島の勝利となった。
ディアバレーの悪夢がウソのようだった。堀島はいいかたちで、2月19日よりジョージアで開催される世界選手権に挑む流れを作ったのである。
川村、堀島にもチャンスあり!MO総合優勝争いはどうなる?
さて、カザフスタンでのMO、DMそれぞれのW杯最終戦を前に、総合優勝争いの最新状況をチェックしよう。
■女子MO総合TOP5(第5戦終了時点)
1位: ジャカラ・アンソニー(AUS)480
2位:ペリーヌ・ラフォン(FRA)330
3位:川村あんり(JPN)293
4位:ジェイリン・カーフ(USA)261
5位:エリザベス・レムリー(USA)190
女子MOはアンソニーが、北京五輪金メダル、昨季のW杯DM総合優勝に続くビッグタイトル獲得となった。彼女はこの勢いで、世界選手権のMO、DMの二冠も狙ってくるだろう。
最終戦で面白いのは総合2位争いだ。現状で2位のラフォンと3位の川村の点差は37点。川村は最終戦で優勝(100点)し、ラフォンが3位(60点)以下ならば逆転が可能だ。3シーズン連続総合2位を狙う川村の戦いに注目したい。
■男子MO総合TOP5(第5戦終了時点)
1位:ミカエル・キングスベリー(CAN)440
2 位:堀島行真(JPN)297
3 位:マット・グラハム(AUS)276
4 位:ニック・ペイジ(USA)247
5 位:ウォルター・ウォルバーグ(SUI)204
男子MOはディアバレーでの堀島、ペイジの失速があり、あっさりキングスベリーの連覇が決まった。これで、MOとDMのリザルトを合算していた時代から数えてMOで通算11度目、昨季のDMも含めると通算12度目の総合優勝である。
他方、2位以下が拮抗しており、堀島は最終戦の結果次第で一気にランキングが落ちる可能性もある点に注意が必要だ。川村同様、堀島も定位置ともいえる総合2位を死守すべく高い緊張感を持って最終戦に挑む。
イエロービブが板についている川村だが、ヴァルマレンコでそれを失った。最終戦で雪辱なるか?
自力優勝はないが川村にはチャンスあり。男子はキングスベリーが断然有利に
■女子DM総合TOP5(第5戦終了時点)
1位:ペリーヌ・ラフォン(FRA)420
2位:川村あんり(JPN)380
3位:エリザベス・レムリー(USA)280
4位:ジェイリン・カーフ(USA)232
5位:ジャカラ・アンソニー(AUS)229
MOと異なり、波乱続きのDMは最終戦までもつれ込んだ。まず、女子はトップのラフォンと2位の川村は40点差。最終戦で両者は別のブロックに振り分けられるだろう。すると、川村は自身が優勝して100点を獲得(トータルで480点)し、ラフォンの得点が4位(50点)以下となれば逆転総合優勝が確実とすることができる。他力本願ではあるが、DMなら十分にありえるシナリオだろう。
ただし、ビッグタイトルコレクターのラフォンにとって、まだ手にしていないW杯DM総合優勝はなんとしても手に入れたい栄冠であり、確実に勝ちを狙った滑りを戦略的にしかけてくることは間違いない。
■男子DM総合TOP5(第5戦終了時点)
1位:ミカエル・キングスベリー(CAN)362
2位:ウォルター・ウォルバーグ(SWE)294
3位:堀島行真(JPN)281
4位:フィリップ・グラベンフォース(SWE)250
5位:マット・グラハム(AUS)196
男子のDMは、数字の上では3位の堀島までに総合優勝の可能性が残されている。ただし、キングスベリーが圧倒的に有利であることは動かしがたい事実である。仮に、堀島が優勝して100点をプラスしても381点。つまり、キングスベリーが14位(18点)以下の場合のみ堀島の総合優勝が実現するのだ。ウォルバーグも最大が394点なので、キングスベリーが上位に進出すれば総合優勝の可能性はなくなる。30代になったキングスベリーだが、まだまだ世界のトップなのである。
ディアバレーでは不調だったがヴァルマレンコで優勝した堀島。今季、3勝目となった
最終戦の行方は、ジョージアで開催される世界選手権の内容やリザルトも大きく影響してくるだろう。そちらの動向にも注目したい。
文:STEEP
STEEP
スキー・スノーボードの本質を追いかけるWEBメディア。90年代からフリースタイルスキーを追う編集部による、モーグルW杯の見どころを紹介。サイトでは様々な情報を更新中。https://steep.jp/
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