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小林陵侑
2021/22 シーズンに北京五輪金メダル、ワールドカップの総合優勝と最高の結果を残した小林陵侑選手。シーズン序盤こそ様々なトラブルに見舞われ順調なスタートとはいかなかったが、シーズンを終えてみれば日本のエースとしてこれ以上ない結果を残してみせた。また、競技での注目度もさることながら、地上波のテレビ出演、YouTuberデビューと話題に事欠かないのも同選手の魅力。本インタビューでは、そんな小林選手の競技生活からプライベートまで、たくさんのことを語っていただいた。(取材日:10月5日)
■序盤は苦しいスタート。それでもマインドはプラスに切り替えた
── 21/22シーズンは、オリンピックで金メダルを獲り、ワールドカップでも総合優勝。開幕前からこのようなシーズンになると想像していましたか?
オリンピックはもちろん金メダルを目標にしていましたし、ワールドカップも勝利を目標にしていました。それでも、あまり(そこまでの結果は)想像していなかったです。一戦一戦の積み重ねが、結果につながりました。
昨シーズン自身2度目の総合優勝を果たした
── 昨シーズンは最高の結果でしたが、序盤は開幕戦で表彰台に上ったものの、スーツ規定違反もあり、コロナの隔離期間もあり、結構難しいスタートだったと思います。
調子は悪くはなかったので、総合を目指したいなとは思っていました。なので、2戦目の失格(※1)、コロナでフィンランドに出られない(※2)ってなったときは、結構(メンタルに)きましたね。
フィンランドでの隔離期間は、結構つらかったです。フィンランドは日が昇るのが遅くて…明るくなるのが9時過ぎ、暗くなるのが午後3時過ぎ、ずっと暗いんです。チームスタッフとも別になったので、ひとりぼっちだったこともあり寂しかったですね。
※1:2021年11月のワールドカップ第2戦でスーツ規定違反により失格
※2:2021年11月のワールドカップ第4戦は新型コロナウイルスの検査で陽性のため欠場
── しかしその後は調子を立て直して、勝利を積み重ねていくわけですが、何かきっかけはありましたか?また、「今シーズンは調子がいいな」と思ったタイミングはありましたか?
あの期間(コロナの隔離期間)も、長いシーズンのいい休みだと思って過ごしましたし、ホテルでも体を動かしたりできたので。シーズンも序盤なので、プラスにマインドを切り替えました。
調子に関しては、あまり良いとは思っていなくて。オリンピック前もヴィリンゲンでようやく表彰台に上れましたけど、その前までは結構「大丈夫かな…」みたいな。
── 視聴者側としてはシーズンを通して、2本目も安定していて余裕そうに見えていたのですが、本人としてはがむしゃらだったのですか?
ジャンプ週間が終わるくらいから、どんどん(調子が)狂い始めていって、どうにかヴィリンゲンで表彰台に立てた感じですね。
── まさに、一戦一戦の積み重ねですね。それでも、ジャンプ週間を圧倒的な力で制覇して、北京オリンピックに臨むわけですが、日本の絶対的エース、メダル確実のように言われていてプレッシャーはありましたか?
ぜんぜんそこは気にしていなくて。国内に戻ってくることもなかったので、特に(ニュースとかを)目にすることもなく…。あまりプレッシャーは感じていなかったのかなと。
── 変に肩の力がかからないっていうのも、小林選手の強さですね。ちなみに金メダルを獲り、ワールドカップも総合優勝。周囲の目は変わりましたか?
シーズン終わってからしか日本に帰ってこられなかったので。ほとぼりの冷めたタイミングだったというか(笑)。
■他の競技のアスリートや、アーティストと触れ合うことがモチベーションに
── そんな中、オフシーズンには地上波で「逃走中」などに出られていましたが、思い出はありますか?
逃走中は好きな番組だったので、出ることができて良かったです。(逃げ切るのは)やっぱり難しかった。運も大事な要素ですね(笑)。
それでも、自分の好きなアーティストに会うことができたので、結構うれしかったです。シーズン中とは違う人や環境に触れあうことで、やっぱりモチベーションになるというか、いい気持ちの切り替えになりました。
所属チームの土屋ホーム本社で行われたインタビュー。終始リラックスした雰囲気で語ってくれた
── 他の競技ですと、FIの角田選手と対談されていましたが、他競技のアスリートに会われたことで刺激になったり、この競技すごいなと思ったことはありますか?
裕毅(角田裕毅選手)もそうですし、アーティストさんもそうですけど、みんなそれなりに、それぞれの意思をもってやっているので、すごくリスペクトしています。
── YouTuberデビューのお話も聞かせてください。きっかけは何ですか?
スキージャンプという競技は、地上波の放送も少ないので、僕が金メダル獲ってもそれで終わりってなり兼ねない。気軽に見てもらえるプラットフォームに継続して自分のコンテンツを上げていったら、競技としての観られ方も変わってくると思いますし、残り方も違いますからね。
── YouTubeをやっていて楽しかったり、難しいなと感じている部分はありますか?
YouTubeは難しいですよね。企画とか全然思いつかないですし。今後ちょっとずつ方向性も変えていこうかなと考えています。
── YouTubeきかっけで小林選手のファンになって、スキージャンプを観始めたという人もいると聞きました。そういったファンの声は参考になったりしますか?
YouTubeのコメントは結構見ていますし、励みになります。コメントは、ファンからの需要が分かっていいですよね。
■連覇というよりは、まずは一勝を目指して。体と道具ひとつで自然に立ち向かう姿を観てほしい
── 今シーズン、ライバル選手は海外にも国内にもいると思いますが、注目している選手や、危険だなと思う選手はいますか?
クバツキ選手は毎年夏にすごく調子がよいのですが、この前グランプリを回って、今年は冬まで引っ張れそうなくらいの内容のジャンプをしていました。マテリアルも変わっていますし、それがハマるかなと。開幕戦もクバツキ選手の地元ポーランド開催なので注目しています。
グランネルー選手も今はかみ合ってないですけど、彼もマテリアルが変わって冬中盤、ジャンプ週間くらいには合わせてくるんじゃないかなと勝手に思っています。
小林陵侑の連覇に向けた飛翔に期待したい
── 日本の若手も伸びてきていると思います。二階堂選手をはじめ、この選手は伸びてくるかもしれない、というのは先輩から見てありますか?
(二階堂蓮選手は)経験が少ない割にはよく戦えていると思います。今年の冬にいろんな経験をできれば変わってくると思いますし、慧一(佐藤慧一選手)にもすごく期待しています。
── チーム・ジャパンとしては、今年は団体戦のメンバーも揃ってきたなという感じですか?
そうですね。直幹(中村直幹選手)もいいですしね。楽しみですね。
── 先ほどマテリアルの話もありましたが、今年の小林選手はマテリアルも含めて新しいスタイルはどのように考えていますか?
(チーム・ジャパンの)みんなもそうですけど、スーツのカットが変わったので(※3)。若干空中が変わるんですけど、そこがどうハマってくるか。
※3:新スーツはウエストが緩めになり、逆に腕と膝が厳しく絞られたデザインとなる。これらにより股下が長くなるなど変化している。
── スキージャンプの選手はそのように変わっていくものに自分から合わせているのですか?それとも、何本も飛んだシーズン中盤に合ってくるものなのでしょうか?
それに関しては、自分というよりはスーツの内容、カットの話になってきますね。合う場合もあれば、合わない場合もあるし、とても難しいです。
── オリンピックの時もそうでしたが、スーツが注目を集めました。観ている方としては、なんで規定違反になるの?とか思ったりしますが(※4)、選手として思うところはありますか?
ぜんぜんありますね。(今年の)サマーグランプリも2戦出るつもりでいましたが、初戦は不正失格で、何しにここまで来たんだろうってなっちゃいますよね。
※4:スーツのルールはFISの規則で定められている。ジャンプはスーツで浮力を得られることから、毎年のように規定が変わる。寸法は体と一致していなければならないため、体形の変化などでも失格になりうる。
── 移動疲れで体形が変わってしまう場合もあるとお聞きしています。ずっと体形維持しなければならないですもんね。
そうですね。そこがやっぱりフル参戦するうえで難しいです。
── 今年、連覇に挑みます。連覇自体の前例がなかなか無い。日本人も当然いない。今シーズンの目標含め、もちろん連覇は狙っていますか?
いえ、そんなに狙っているというわけではないです。まずは一勝を目指してっていう感じですね。
── 五輪での活躍もあり小林選手のファンが増えはじめ、スキージャンプを観る人が増えていると思います。そういった方たちに対して、ワールドカップならではの観るべきポイントや、観てほしいポイントはありますか?
世界の各国トップ6が出てきている大会なので、国内では観ることができないくらいハイレベルですし、誰が勝ってもおかしくない試合が続くと思うので、総合順位とか結構面白いと思います。継続して観ることができたら結構面白いんじゃないかと思います。
── 毎戦ヒリヒリする戦いが観られると思いますが、開幕戦のヴィスワは毎年より早いタイミング、終わりも遅い。かなり長丁場になりますが、まずは開幕戦のヴィスワでここを観てほしいというポイントはありますか?
本当にあのジャンプ台は特殊で、難しいです。小さいですし、風も巻きます。何より今年はアイストラックのレールでサマーランディングというワールドカップでも初の内容なので、怪我人が出る可能性も大いにある。(怪我をしてしまったら)開幕戦でシーズンオフになってしまう可能性もあるので。
── そういった緊張感がある部分も含め、観てほしいですか?
そうですね。大事な初戦ですし。
── 最後に、小林選手が考えるスキージャンプの魅力を教えてください。
スキージャンプは、体と道具ひとつで自然に立ち向かって、何百メートルも飛ぶ競技。心理状況とか、風の状況とか想像して観てくれたらより面白いんじゃないかなと思います。
文・J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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