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北京で金メダルを逃したキングズベリーだが、モチベーションが低下した様子はみられない
フランス・メジェーブでの2戦が終了し、今季のモーグルW杯は終了。今回は男子モーグルを総括しよう。女子編と併せてチェックしてもらいたい。
全体の話の前に、まずはメジェーブ大会での男子の結果を確認だ。3月18日に行われたモーグル(以下MO)最終戦では、逆転Vを狙う堀島行真(JPN)をポイントで上回ったミカエル・キングズベリー(CAN )が優勝。3位は北京五輪金メダリストのウォルター・ウォルバーグ(SWE)だった。
19日のデュアルモーグル(以下DM)最終戦は、決勝がシーズンの最後にふさわしいキングズベリーと堀島の頂上対決に。ここでも、絶対王者が堀島をねじ伏せた。なお、3位決定戦で盟友のウォルター・ウォルバーグ(SWE)を倒したルドヴィグ・ジャルストロム(SWE)が表彰台をゲット。堀島はMO、DMともに総合2位となった。
この2戦の結果で、MO、DMの総合ランキングは下記のように決まった。
■W杯男子モーグル総合ランキング
1 ミカエル・キングズベリー(CAN ):672
2 堀島行真(JPN):640
3 ウォルター・ウォルバーグ(SWE): 405
4 杉本幸祐(JPN):328
5 ルドヴィグ・ジャルストロム(SWE):259
6 パヴェル・コルマコフ(KAZ):255
7 ベンジャミン・キャベ(FRA):219
8 ニック・ペイジ(USA):201
9 原大智(JPN) 182
10 ブロディ・サマーズ(AUS):178
■W杯男子デュアルモーグル総合ランキング
1 ミカエル・キングズベリー(CAN ):400
2 堀島行真(JPN):300
3 ウォルター・ウォルバーグ(SWE):208
4 ルドヴィグ・ジャルストロム(SWE):202
5 コール・マクドナルド(USA):133
6 ディラン・ウォルチック(USA):123
7 ベンジャミン・キャベ (FRA):120
8 パヴェル・コルマコフ(KAZ):113
9 ブラッドリー・ウィルソン(USA):102
10 杉本幸祐(JPN):96
今季は、'96~'03季、'07季以来となる、MOとDMの総合優勝者を別々に決めるシステムが採用された。そして、昨季は負傷でW杯連覇が途切れたキングズベリーが、MO、DMともに堀島とのデットヒートを制して2冠王に。20代最後のシーズンだったが、衰えをまったく感じさせない戦いをみせたキングズベリーは、男子選手初の、五輪金メダル、世界選手権MO優勝、世界選手権DM優勝、W杯総合優勝(MOとDMを合算)、W杯MO総合優勝、W杯DM総合優勝という全ての世界タイトルを手にした選手となった。
堀島の進化が止まらない!絶対王者までの距離はさらに縮まる
最終目標を達成できなかったが、課題を克服してますます強くなった堀島
今季、日本のエース・堀島はキングズベリーを倒して、五輪金メダル、W杯総合優勝を果たすことが期待されていた。そして、それを実現するための課題として考えられたのが、安定感のアップと、メンタル面の向上だった。これまでの堀島は、斜面によって得意不得意の差が激しく、不得意斜面ではスーパーファイナルに進めないことが度々あった。また、ミドルセクションでバランスを崩し、気持ちが切れてしまうのか、転倒やコースアウトするというケースが何度か見られた。一方で、キングズベリーは優勝できなかった大会でも確実に2位になって80点を得る。ここが両者の大きな差となって総合ポイントの数字に表れていた。
結果的に、今季も堀島はキングズベリーに追いつけなかった。しかし、少なくとも上記2つの課題を見事に克服し、過去もっとも頂に近い位置に急接近したのは確かである。もし、ホームである秋田たざわ湖大会のキャンセルがなければ、堀島の2冠も十分にあり得たのでは?そう思わせる成長ぶりだった。なにしろ、今季はW杯MO8戦、DM4戦、そして北京五輪と世界大会13戦ですべて表彰台に上っているのだ(優勝3回)。そして、北京五輪ファイナル3がその典型例だが、ミドルセクションでバランスを崩しても、そこから諦めずにリカバリーし、第2エアで大きく飛ぶことで挽回するという強さを身につけていた。これは技術面の成長に加え、メンタル強靭化のなせる業だろう。
キングズベリーが、“北京五輪を区切りにリタイア”といった選択肢を選ばない限り、来季はさらに差が縮まったキングズベリーvs堀島の対決を楽しめそうである。
北京五輪のジャッジは今後のモーグルをどう変えるのか?
相変わらずの強さを発揮したキングズベリーにも課題が見えたシーズンでもあった。最大の目標であったはずの五輪連覇を達成できなかったのだ。少なくとも、ジャッジは北京のファイナル3でキングズベリーの完成度の高い滑りより、ウォルバーグの恐れを知らぬ攻撃ターンを支持した。女子でも攻めの姿勢が評価された傾向が顕著に見られている。もし、より高い攻撃性がモーグルの新たなトレンドとなるのなら、30代を迎えたキングズベリーは体力を維持しながら、それに対応していく必要が生まれる。
ただし、ウォルバーグのようなスタイルは、転倒や怪我のリスクとも隣り合わせである。実際、彼は今季のW杯でも上位に入れないレースがいくつかあり、それが上位2選手との差となった。攻撃性と安定性をより高い次元で両立させられる選手こそが新時代の覇者となる。
北京でのウォルバーグの勝利は、今後のモーグルの流れを変える出来事となるか?
また、もう一つ、キングズベリー、堀島、ウォルバーグに限らず、すべての男子選手に突きつけられている問題がある。「エアを進化させるか?」という点だ。’19シーズン、開幕戦で堀島が初トライし、秋田たざわ湖大会でキングズベリーが初めて成功させることで、コーク1440が北京五輪に向けた新次元エアとして注目された。しかし、その後も先駆者2名もこの高難度トリックを恒常的に繰り出すことをせず、世界選手権、北京五輪でも披露しなかった。堀島の初挑戦から3シーズン、今季も4回転時代は到来せず……と思われた。しかし、最終戦でニック・ペイジ(USA)が1440をでっかく飛んで成功させ、止まりかけていた時計の針を進めたのだ。今季はペイジに限らずイキのいい若手が台頭してきたが、エアに関してイニシアチブを握っているのはそうした選手達なのかもしれない。
全体で世界トップのリザルトを残した日本チーム
最後に、日本チームについてまとめたい。堀島のMO、DMの総合2位は、日本の男子選手で史上最高位として誇るべきリザルトだ。そして、北京五輪のレース直後、銅メダルを歓びながらも「本当の夢は金メダル」と話していた彼は、すでに4年後に向けて走り出している。
また、今季、初表彰台を経験した杉本幸祐のMO総合4位はもっと騒がれてもいい快挙だろう。なにせ、北京五輪のメダリスト3名に続くポジションにいるのである。27歳と日本チーム男子では最年長の杉本だが、ジャッジからの評価も高く、まだ発展途上の段階だ。
一方、長いブランクを経て、W杯2位、五輪復帰を果たした原大智の活躍もアッパレだった。ただし、彼は今季限りでのリタイアを発表している。実力者を失うのは日本チームにとって大きな損失だといえるが、ここは原の競輪選手としての成功を祈りたい。もうひとり、チャンスをものにして北京出場のチケットを掴んだ松田颯の存在も忘れてはならない。まだまだ戦績にムラがあるが、五輪を経験したことは大きな財産であり、来季以降の飛躍が期待される存在である。
頼もしき日本代表チーム。男子MOの総合ランキング10位以内に3名が名を連ねた
なお、最後に、今季のフリースタイルスキーの国別総合ポイントランキングで、モーグルでは男子、女子とも日本がトップであったことを記しておきたい。男子は998点で、2位のカナダ(854点)、3位のスウェーデン(736点)を大きく上回っている。'22W杯や北京五輪を戦ったメンバーは、史上最強のモーグル日本チームだったのである。
文:STEEP
STEEP
スキー・スノーボードの本質を追いかけるWEBメディア。90年代からフリースタイルスキーを追う編集部による、モーグルW杯の見どころを紹介。サイトでは様々な情報を更新中。https://steep.jp/
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